あの子
殺人鬼は今日も笑う。
もう抵抗しない子供を前にして。
子供に刃を当てると以前の記憶が流れてくる。
赤黒く染った服。怯える人間の目。
綺麗な黒髪は乱れつつも怪しげな美しさを持っている。
こいつはこの子の母親だ。
あいつを殺してから10年、この日を心待ちにしてた。
美しいこの子を殺す日を。
殺人鬼は刃を持ち直し、力を込める。
「ありがとう」
子供は笑いながらそう言う。
刃を振りかぶった瞬間、目の前が真っ暗になった。
あの子の、愛しい子の、泣き声が
聞こえた――
短編集 すもも @SUM0M0
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