恋の話1【恋のロック解除】1500字以内
雨間一晴
恋のロック解除
彼が絶対に浮気してる。
最近なんだか彼の様子がおかしいし、携帯電話も前はロックなんてしてなかった。
「あのさ、最近、私に隠し事してない?」
「え!し、してない!してないよ!ど、どうして?」
怪しい。そりゃ、最近ちょっと太っちゃったけど。うん、二十キロぐらい……
でもでも、私は彼のこと好きだし、彼も私を好きなまま居てくれると思ってた。
浮気。してるのかな?
されても仕方ないよね、こんな体じゃ……。でも……
彼が眠った後に、私はどうしても浮気相手が気になって、ロックを外そうとした。だって、そうじゃない、彼は私のものなんだから。ねえ、そうだよね?
彼の寝顔は七年前に付き合った時と何も変わってなかった、優しい二重に通った鼻筋が好きだった、笑うとブサイクになるのも好き……
ベッドの横にある三面鏡、まるで夢の国から抜け出したピンクのドレッサー。色鮮やかな化粧道具が並んでいる、まっピンクのラメの付いた化粧筆、椅子の足は伸びた猫の様に丸まってオシャレ……
オシャレすぎて無理。今の私にはドレッサーなんて、カッコつけなくていい、ただの化粧台の方が似合う。どうせロクに化粧もしないんだ、太った自分を見たくないから……
そこに映るのは、魔法がかかる前のシンデレラよりキツイ。ボサボサな根元が黒いままの茶髪、首輪のような余った脂肪。お笑い芸人でも売れなさそうなオーラ、なんというか、ブサイクの化身……
はぁ……
私は呑気に寝息を立ててる彼が、なんだか腹立たしく感じた。分かってる、本当はこんなデブになって申し訳なくて仕方ないの。それでも寝顔が呑気すぎて腹立つ。なんなら軽くデコピンくらいしてやりたい。なんでこいつは太らないんだ、腹立つ。
どうせ痩せた女と浮気してるんだろ、別に悔しくなんかないけど。うん。
四桁の暗証番号を入力、うーん、何の番号なんだろ……
何てことはしない。最新の顔認証じゃないけど、指紋認証くらいは搭載してるんだ、寝てる彼の指を借りれば、ほら、ロック解除出来ちゃった。
「残念でした。浮気がバレちゃいますよー」
彼の耳元でそっと呟いてやった。
「ん、んん。んん」
体をよじって喘ぎ出した彼に冷めた目を向けてから、彼の携帯電話を見た。
「え?」
彼の待ち受け画面には、彼と信じられない女が腕を組んで笑っていた。
楽しそうに、幸せそうな、くしゃくしゃな笑顔。胸が苦しくなる。
画面に一つだけ表示されてる、メモ帳アプリには、その女との素敵なデート場所の候補が細かく書いてあった。そして見たくないような内容も……
これはロックかける訳だ、見なきゃよかった……
「……」
私は、そっと携帯電話を元の場所に戻した。
今にも泣いちゃいそうで、彼の眠るベッドの中に入った。出来るだけ近づきたかった。
でも、無理だった、涙が止められなくって、息を吸うのが大変になっちゃって。
「ん。ん?あれ?泣いてるの?どした?」
彼が起きちゃって、いつもと変わらない優しい声に、視界がぼやけていく。辛い。
「……ねえ、私のこと好き?」
なんて答えるかなんて知ってる。それが嘘かどうかも分かってる。それでも聞きたかった。
「う、うん。好きだよ。どうしたの?怖い夢でも見た?」
「ううん、なんでもないの。私も好き」
彼を思いっきり抱きしめて離したくなかった。
「ちょ、痛い痛い、脇腹折れるって、なに?どうしたの?」
「なんでもない。おやすみ」
「それなら良いけど、おやすみ」
私は彼を抱きしめながら、強く思った。痩せよう。
このままじゃダメだ。痩せないといけない……
彼の待ち受け画面に映る女は、太る前の私だった。
付き合って初めて一緒に撮った懐かしい写真。
メモ帳には、私に向けたプロポーズ大作戦と書かれてあった。
恋の話1【恋のロック解除】1500字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu
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