酸いも甘いも旅立ちも

 俺はバルマード三勇姫を名乗る三馬鹿の依頼に同行していた。

 しずく型アホ毛の青馬鹿、ミズ・シーディア。

 燃えるアホ毛の赤馬鹿、ファイナ・ティルベル。

 双葉アホ毛の黄馬鹿、ナーチュ・ルーチェ。


 本来なら関わりたくもないこいつらにわざわざお願いしてまで同行しているのは、もちろんティーの魔の手から俺のコレクション達を守るため。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP5:バルマード三勇姫(笑)が受けた勇者組合のクエストに同行し、その達成を見届けよう! 

 〈特殊条件〉同行中、サイコキネシスの使用禁止


 〈備考〉

 失敗した場合はルアの所持している像を一つ破壊します。

 今回の破壊対象は、コレだっ!!


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 添付されているミャレッパ像と笑顔のティーの写真。

 写真から人を呪える超能とかあれば良いのに。

 指示が来る度に百回は使ってた。

 それぐらいにこいつの笑みが憎い。


「いい? 同行中は私達の方針に従うこと。ぜっったいに余計なことはしないでよ?」


 青馬鹿が両手を腰に当てたポーズで注意喚起をしてくる。

 それに対して俺はひらひらと手を振り答えた。


「わかってるわかってる」


「『ちょっと討伐手伝ってみよう』とか、『今なら自分も活躍できるかも』とか、『やっぱり私の事が好きだ』とか。そういう素振りを見せたらすぐに同行を取り止めてもらうから!」


「最後のに関しては天地がひっくり返っても無いから安心しろ」


 この世界、ちょっと自意識過剰を装備してる少女が多くないか?

 討伐を手伝うなんてのも、俺が好き好んでやるわけがない。

 俺はただ付いていって達成を見届けれればそれで良いんだ。


「『やっぱり生き別れてました』とかってのも無しっすからね!」


 横からにゅっとフェードインしてくる赤馬鹿。

 やれやれ、と肩を竦める素振りをしてるんだが、何だこいつ殴りてえ。

 

「生き別れにやっぱりもクソもねえんだよ! お前の体と頭を泣き別れさせてやろうか!?」


「あれ、なんか私に当たり強くないっすか……?」


「理由は自分の胸に聞いてみろ!」


「自分の、胸に……?」


 俺の言葉を受けて、赤馬鹿は胸に手を当てる。

 こいつが兄とか言い出さなきゃ、もっと楽に同行まで漕ぎ着けられたはずなんだ。

 諸悪の根元は俺の苦難を笑ってるであろうあの金髪ゴリラだが、余計な手間を取らせたこいつにも腹が立つ。


「ど、どうっすか? 何か聞こえそうっすか?」


「んー、ぎゅるぎゅると言ってるナー。ミズの方はどうかナー?」


「な、なんか喋ってる気がするわ!」


「ほ、本当っすか!? 何て言ってるっすか!?」


 赤馬鹿の体に耳を当てて音を聞く青馬鹿と黄馬鹿。

 胸に聞くってそういうことじゃねえし、そもそもそこは腹。

 なんか喋ってるってどういう事だよ怖えわ。


 もうツッコむのも面倒だし放っておこう。


 今回同行することになった依頼は、郊外にある森での魔獣討伐。

 具体的な場所としては、副都と首都を繋ぐ街道の中間あたりから西にずれた場所にあるらしく、近隣ではテルーア大森林と呼ばれてるとか。

 名前の由来までは知らないが、近くに同じ名前の村があるとかそんなんだろう。

 ともかく今はその森へと向かうべく街の入り口まで来ていた。


 移動手段は馬。

 この国では精霊を使うことも多いが、俺もこいつらも精霊を持ってはいない。

 まあ地図で見た感じそこまで遠いってわけでもないし、馬で問題ないだろ。

 サイコキネシスが使えれば俺だけ飛んで行ったが、今回は何故か禁止されてるし。

 どうせ『そっちの方が面白いから』とかそんな下らない理由だろうけど。


 ちなみにこの世界において魔獣とは、魔素を取り込み人と同じように魔法を使いつつも、理性のない、もしくは凶暴性の高い生物達のことを指し示している。

 魔法を使う理性のないもの、ということで魔獣と呼ばれているのだとか。


「お兄さんお兄さん!! ミズちゃんに胸の声を聞いてもらったら『セカイガニクイ』って言ってるみたいなんすけど、何なんすかこれ!? すっごく怖いんすけど!?」


 赤馬鹿が涙目で俺の肩を掴んで揺らしてくる。


「知るか! 俺の方が怖いわ! 何か変なもんでも食ったんじゃねえのか!? って、てか揺らすなこっちは昨日しこたま飲んで頭が痛えんだよ……!」


「胸に聞けって言ったのはお兄さんじゃないっすか!! どうしてくれるんすか!? これからどうやってこのお腹と付き合っていけばいいんすか!?」


「もう自分で『お腹』って言ってんじゃねえか!! 変なもん食ったなら吐けば良いだろ吐けば!!」


「オェェエエエエッ!」


「速攻で!? もうちょっと迷うとかしろよ! 一応は女だろうが!」


「こ、これでどうっすかミズちゃん……?」


 口元の汚物を腕で拭き取りながら、赤馬鹿が尋ねる。

 それと同時に青馬鹿の口から吐瀉物が。


「オェェエエエッ!」


「汚なッ!? 何でお前まで吐くの!?」


「ファ、ファイナの見てたら気持ち悪くなっちゃって……」


「貰いゲロしてんじゃねえよ!! おい黄色! お前は大丈夫だろうな!?」


「あ、当たり前オェッ……当たり前に大丈夫だナー……オォ”ッ!」


「決壊寸前じゃねえか!? これから出発って時に……ヤバイなんか俺も気持ち悪くなってきた……」


 くそっ、赤馬鹿に揺らされたのと嘔吐を二連続で見せられたのが相まって、絶妙に吐きそう。

 でもこいつらと同じレベルにはなりたくない。

 な、何とか押さえ込むんだ俺……!!

  



■  ◆  ■




「さぁテルーア森林を目指すわよ!」


「魔素のチャージは満タンっすし、今日は私が大活躍間違いなしっす!」


「ふっ、結局はナーが一番活躍するんだよナー!」


「私だって負けないんだから!」


「…………」


「あれ、盛大に吐いてスッキリした割には元気ないっすね?」


 項垂れる俺の顔を覗き込む赤馬鹿。

 至近距離にある少女からは酸っぱい匂いがした。

 そして多分俺も酸っぱい匂いがする。


「うるせえほっとけ!」


「あいたっ」


 赤馬鹿の頭を叩く。

 こうして酸っぱい匂いの俺達は、魔獣の討伐へと出発した。

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クズは世界を救いたくなんかない! 雑巾猫 @catclub

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