1-16. 暗喩を光が貫通する
※はじめに
本記事は特定の誰かの感想やレビューを批判・拒絶しているものでない。読者が作品に抱く感情は読者のものであって、私がわーわー口出しする範疇にないからだ。
このエッセイはあくまでも、私から見える範囲で感じたカクヨムでの作品の読まれ方を綴った内容であることをご了承頂いた上で、本記事をお楽しみ頂ければ幸いだ。
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筆者の意図と作者の反応が違うことなど、どんなコンテンツでも日常茶飯事だろう。
私は絵画鑑賞が好きだけど、毎度画家の考え通りに作品を捉えているとは到底思えない。むしろ、私と絵の間に画家の思考が入らないで欲しいと思うことさえある。私が抱いた感動や疑念や想像を、画家の中にある“正解”で壊されたくない。
それはもちろん、「私の解釈は作者の考えとは違う」という自覚の上で成り立つ願望だ。もちろん、作者の意図、つまり正解は正解として尊重する。私の思考は、作者の意図という手のひらの上で踊らせてもらっている解釈の一つだと弁えている。
でも、だからこそ。その上で我儘が言いたい。私はその作品を、私の心の中に私の感覚で留めておきたい。
さて。私は鑑賞者・読者であると同時に作者でもある。基本的には先述のような認識でいるので、私が書いたものを読んでくれた人には好きに解釈して欲しい。時々、「このお話は〇〇ということですか?」といわゆる“正解”を求められることもあったが、そういうお問い合わせには、読んでくれた感謝は伝えるが回答/解答出来ない。
お好きなようにお読みください。
これが私のスタンスだ。
それをあえてキャプションに書いてみたお話がある。
『ピーナッツバターを塗る仕事』
“建物にピーナッツバターを塗る仕事を続けて十年になる私。最近の仕事場は、日本屈指のビジネス街A駅付近の界隈だ”
どうぞお好きなようにお読みください。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653213341610/episodes/16817330653213377122
なぜこんな文言を付け加えたのかと言えば、一見すると私たちには馴染みのない仕事の話だし、私はこのお話でピーナッツバターのことを書いたつもりがなかったからだ。だから、読み方によって読者の受け止め方は変わるだろうと思っていた。
恥を知らずに申し上げれば、このお話は私の中でかなり皮肉たっぷりの暗喩のお話として出来上がった。
ところがどっこい。
蓋を開けてみたら、
・優しくてあったかいお話だった
・シュールで意味わからなくて笑った
・深く考えないでおこう
といった、ストレートにこのお話を『ピーナッツバターを塗る仕事』のお話として捉えてくれた声をたくさん頂戴した。
私は心底驚いた。だって、そんなつもりは毛頭なかったから。
光の戦士が闇を裂くように、カクヨムの光によって『ピーナッツバターを塗る仕事』は浄化されつつある。このお話はすっかり毒気が抜けて、「少しシュールな現代ファンタジー」という新しい顔を得た。
私の力量不足なのは百も承知、というのはこの際棚の上に置いておく。私が一番びっくりしたのは、「カクヨムにおいて作品は、想像以上にピュアな視線で読み解かれ、前向きに解釈される」ということだ。
書いてあることが書いてあるままに信じられ、思い描かれる。そして明るい気持ちで向き合われ、疑われず、深読みされせず、穿った読み方をされない。
当然のことだが、コメント欄やレビュー、旧Twitter現Xの投稿など、言語化された感想でしか私は読者の反応を知り得ない。言語化されていない感想はわからない。そういった事情があるから、言語化されている・目に見える感想だけが読者の総意だとは当然思っていない。
もしかしたら、「ピュアな視線、疑わず深読みしない感想の方が言語化されやすい」のだろうか。そうなると、私の暗喩は誰かに気付かれたかもしれないし、本当に誰にもバレていないかもしれない。
いずれにせよ、「じゃあ何の暗喩なの?」と聞かれたところで私は答えられない。
だから、やっぱりこれでいい。
どうぞ、お好きなようにお読みください。
さて、私は最近(2023/10/23)カクヨムでひとつお話を公開した。2023年にpixivで開催されたSFコンテスト“さなコン3”で、ありがたいことに最終選考まで残ったお話だ。
『天の牛蒡』
三本の巨大な牛蒡が空から降って来たあの日以来、東京の人々の食生活は牛蒡中心。東京在住の“私”は、勤務先の新作コレクション発表会に足を運ぶが……。
https://kakuyomu.jp/works/16817330665481227666/episodes/16817330665481301571
このコンテスト、一次選考以上を突破すると選考委員(SFジャンルで活躍するプロの作家の方々)からのコメントがもらえる仕組みがあり、私はとっても素敵で励みになるコメントを頂戴した。個人的には、2023年の嬉しかったことトップ5に入る経験だった。
その際頂いたコメントの中には、「メタファーのようにも読めて」という文言が含まれていたというのを、こっそりここに書き残しておきたい。(他サイト誘導になるのでリンクは貼らないが、対象作品へのコメントが一覧で公表されているので誰でも閲覧出来る。さなコンの面白いところだ。)
はたして『天の牛蒡』は牛蒡の話なのか、それとも別のお話なのか。暗喩はあるのか、はたまたまるでないのか? カクヨムで読んで下さる方はどう思うだろう。
ぜひ、『ピーナッツバターを塗る仕事』とあわせて『天の牛蒡』もお好きなようにお読み頂きたい。このお話は、カクヨムでどんな顔を手に入れるのだろう。
――――
※最後に
ここまでお読み下さった奇特な方に再三の注意書きになり恐縮だが、本記事は特定の誰かの感想やレビューを批判・拒絶しているものでない。作品に接した際の感情は、読者自身だけの大事なものだ。もしこのエッセイが気に食わなかったら、あっさり捨て置いて忘れて欲しい。
また、更新日が今日(2023/10/25)なのは、『天の牛蒡』の完結日にあわせただけでそれ以上の意図は全くない。
本記事はあくまでも、私から見える範囲で感じたカクヨムでの作品の読まれ方を綴った内容であることを、最後に改めてお伝えしておく。
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