1-15. 「〜だわ・〜なのよ」口調の心地よさ
「ええ、刑事さん。包み隠さずなにもかも、全部お話しして差し上げますわ」
拙作『理想の姿』より
今時、こんな風に話す女の子がたくさん居るとは思っていない。どちらかと言えば、古臭い話し方だ。少なくとも、同世代の女の子にはこうやって話す人は一人も居なかった。
強いて言うなら、実の母が近いだろうか。彼女と彼女の友達の会話を聞いていると、『あら、◯◯ちゃん。いやだわ』なんてことを言っていた記憶がある。ただ、彼女たちがうら若き乙女の頃からそうやって話していたのか、加齢に伴い穏やかな口振りを使うようになったのかは私にはわからない。
こうした、半ば芝居じみて聞こえる「〜だわ・〜なのよ」口調を書くのが私は結構好きだ。
文字面だけでも特徴的なので、誰が話しているのか読み手に伝わり易いという理由はもちろんある。しかしそれ以前に、「〜だわ・〜なのよ」口調を書いていると非常に気持ちがいい。筆が乗るという言葉の意味を、私は長いこと理解していなかったけれど、この口調を書く時だけはとてもよくわかる。さらさらと言葉が紡がれて、流れるように顔も知らない彼女は語り続ける。
そういえば、「〜だわ・〜なのよ」口調の登場人物御用達の語尾、「〜かしら」。この語尾は男女共に使われる。
ゲーム好きなかたであれば、Fate/Requiem やFate/Grand Orderに登場するボイジャーの台詞で初めて、性別が女性ではないキャラクターが使用しているのを聞いたという場合も多いかもしれない。(ボイジャーは少年の見た目をしている。)
男性の場合、「〜かしら」を使うのは年配のかたが多い気がする。
例えば、故・桂歌丸さんなんかは言葉遣いが大変粋で、彼が使う「〜かしら」を聞くのが私はとても好きだった。雑な物腰であしらう時も、堅苦しくはないが品のある格好いい話し方をする人。
他にも、DJやブロードキャスターとして活躍中のピーター・バラカンさん。このかたは日本語ネイティブではない点とラジオ業界出身ということもあって、言葉への意識がとても高い。彼も「〜かしら」の使い手だ。割と辛辣なことも口にするけれど、雰囲気がいつも知的で上品、だけど基本的にはロックな気質というのがよい。
この、粋な感じや上品さ、穏やかな雰囲気があるからこそ、「〜だわ・〜なのよ」口調は心地いい。聞くのも書くのもすらすらと、流れるように通り過ぎてくれるのがいい。一人で語り続けているのに、こちらへ向かって話していることがわかるのがいい。
そして、お話の登場人物がこの口調で話す時は。その人が冷静に落ち着いて話しているように見えるのがいい。口調の古めかしさが、どこか浮世離れして、ほんの少しだけ現実と距離があるような気がしていい。
さて。現実世界ではちっとも「〜だわ・〜なのよ」口調とは縁遠い私だけれど、小説ではこれらの口調の使い手を登場させている。
まずは、「〜だわ・〜なのよ」口調を存分に浴びられる短編。冒頭で抜粋したのは、こちらのお話の冒頭だ。
・理想の姿(短編/ミステリー)
とある女性の、事件と恋に関する証言記録。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891268830/episodes/1177354054891268836
そして次がこちら。長編で恐縮だが、この口調で話す特徴的な人物が居る。
・アオイのすべて 〜第四十一代司教に係る司教記録本(長編/異世界ファンタジー)
本書は、クアドラード第四十一代司教アオイ(零地区・教会・鐘)の、就任一周年を記念して作成された司教記録本である。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888774935/episodes/1177354054888775160
最後はこちらの短編。題名にある吸血鬼が、「〜だわ・〜なのよ」口調で話す。
・吸血鬼の抗原(短編/現代ファンタジー)※現在非公開
吸血鬼専門医の“僕”は、大蒜を使った憎悪犯罪から生還した美しい吸血鬼を担当する。彼女を死に至らしめる抗原は一体何か。それを探る“僕”は、ある事情を抱えていた。
こうして並べてみると、彼女たちはそれぞれ違うのだがどこか似通ったところがある。どこが違って似ているのかは、ご興味あれば是非読み比べて頂きたい次第だ。
ただ、書き手である私にしかわからない共通項は、「この人たちの台詞を書くのはとても気持ちがよかった」という点だ。あまりに書き心地がいいものだから、長くなりすぎないように十分気をつけたつもりだ、これでも。
書き手であるあなた、読み手であるあなたは、こうした書き心地・読み心地がいい口調はあるだろうか。自分と相性の良い口調が見つかると少しだけ得をした気持ちになるので、なんだか不思議だ。
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