2-9. カクヨムコンと『売る→つくる→回す』

【 カクヨムコンと〈売る力〉 】


 2022/12/1~2023/1/31の募集期間、そして読者選考最終日2/7まで続いた第8回カクヨムWeb小説コンテスト、カクヨムコンが終わった。私はカクヨムWeb小説短編賞2022での参加だったのだけれど、2/7が終わった時の気持ちは「長くてしんどかったな……」と「でも張り合いのある期間だったなあ」という感じだった。


※以降、長編部門は長編賞、短編の方は短編賞と記載。


 長編賞は、募集要項にある『応募された作品の中から読者選考によるランキング上位作品が最終選考にノミネート』の文言が物語るように、第一関門として立ちはだかるのは作品の出来でも何でもなく〈売る力〉。

https://kakuyomu.jp/contests/kakuyomu_web_novel_008/detail

 一方、短編賞の方は『応募された作品の中から、読者選考によるランキングを参考に、カクヨム編集部による一次選考』なので、〈売る力〉の比重が下がる。

https://kakuyomu.jp/contests/kakuyomu_web_short_2022/detail

 実際、〈売る力〉ほぼゼロの拙作でも、前回の短編賞では2作品が一次選考を通過した記憶がある。なので、〈売る力〉の比重が長編賞より下がっているのは本当なのだろう。今回がそれと同じなのかはわからないけれど。




【 Web小説と『売る→つくる→回す』 】


 Web小説のコンテストと公募型のコンテストの違いは色々あるけれど、〈売る力〉を問われる点はかなり大きいと思う。

 世の中に出回る商材と言うのは、ざっくり分けると『売る→つくる(創る→造る)→回す』の工程を踏んで生き続ける(または終了が判断される)。


※これはマーケティングやら経営論やらでよく語られる枠組みだ。工程の順番・表記の仕方・段階の区切り方は業界・商材・時流によって異なり、どれが正解/不正解というものでもない。私が先述のように認識しているのは、たまたまそういう時期・場所の経験があるというだけだ。ご了承いただきたい。


 私がWeb小説で感じている主な『売る→つくる(創る→造る)→回す』とは……。


【売る】宣伝工程(ニーズ抽出も含まれるだろうけど今回はほぼ省略)

【つくる】

 創る:物語を想像/創造したり、実際に執筆する工程

 造る:レギュレーションに合わせてWeb公開や印刷作業をする工程

【回す】コメント対応や誤字・脱字修正などの運用工程


 公募型のコンテストの場合、挑戦者は『つくる』の部分に注力できるので、例えば印刷した原稿をポストへ「えいやっ!」と入れてしまえば、もうそこで一段落つく。


 ところがどっこい、Webで公開して参加する且つ〈売る力〉を問われるコンテストは、『売る→つくる→回す』を延々と繰り返さないといけないことが多い。

 〈売る力〉を問われる長編賞参加者であれば、宣伝しながら執筆し、執筆しながら読み合いに参加し、貰った感想を受けて小説を直し、ランキングを見てまた宣伝に反映し……という大盛り上がりのお祭り期間を過ごした人も多いだろう。


 私は独り言はできるけれど小心者な、いわゆるコミュニケーション能力が低い人間だ。だから〈売る力〉を問われ続けると本当にしんどい。ランキングも見忘れることが多かった。人と自分を比べる意識が人生を通して薄いせいだ。

 ただ今回は完結済みの短編で参加していたので、『つくる』を気にしなくて済んだ。その点は、不器用で小心者の私にはだいぶ幸いした。


 それは転じて、『売る』を続けるのが好き・原動力になる人の場合は、こうした『売る→つくる→回す』を同時並行で進められるコンテストというのはとても良いということだろう。もしかしたら、長編賞はそうした参加者と作品を探し出す冒険の旅なのかもしれない。



――― 参考 ―――


 前々から思っていたこうした話題について、ちょうどよく2023/2/7に公開されたこちらの記事で関係する内容に触れていたのでリンクを貼っておく。


【オファーの瞬間vol.8】『今昔奈良物語集』|文芸とラノベ、 本づくりの違いとは

https://kakuyomu.jp/info/entry/offer_interview_vol.8


――――――――――




【 しんどいだけじゃなかったカクヨムコン 】


 なんやかんや思いながら過ごしたカクヨムコンの期間。私なりに前回よりも『売る』の部分を頑張ったおかげで、色んな人に拙作を読んでもらえたし、巡り巡って自分が知らなかった新しい作品に出合うきっかけになることも多かった。


 カクヨムコンは確かにしんどかったけど、しんどいだけではなかった。


 毎日誰かしらに参加作を読まれたりコメントを貰うことで、自分が気付かなかった作品の側面に気付けた場面もあった。完結作品で参加した分、参加作と自分の間の距離が広がっていたのも、そうした気付きに繋がったのだと思う。


 また、日々新しい誰かとの出会いや作品との出合いもあった。

 私自身は、何の面白味もない人間だ。そんな生身の私だったら知れなかったたくさんの人や物語に、カクヨムコンを通して遭遇できた。

 私と人・物語を繋いでくれたのは自分自身の作品で、拙作を面白がってもらうことがきっかけで見聞を広げられたのはとてもよかったと思う。なんやかんやで、そうした未知との遭遇の瞬間を楽しんでいる自分が居たのは本当のことだ。


 そういう意味では、決して悪くないお祭りだった。

 これで拙作が少しでも長く選考に残ってくれたら、よいお祭りになったなあ~と言えるんだろう。きっと。



 参加者の皆さん、お疲れさまでした。私たち、各々頑張りましたね。




○ おまけ


 カクヨムWeb小説短編賞2022に参加した拙作はこちら。期間中は、応援どうも有難う御座いました。第一話でやめればほのぼの、だんだん不穏になるお話。今後も気が向いたら覗いていただけると嬉しいです。


「リアル・マシュマロ・ブレット」

#realmarshmallowbullet

ここ最近、どのSNSを開いてもこのハッシュタグは延々とトレンドに乗り続けている。世界中の弾丸がマシュマロに、液状の兵器がジンジャエールに、気体状の兵器が綿菓子に変わったせいだ。

https://kakuyomu.jp/works/16817139557813171479/episodes/16817139557813210838

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