超筋肉琵琉汰学園~目指すは最強筋肉王~

ヤドクガエる

01 再会は突然に

「行ってきま〜す!」


 遅刻だ遅刻!のんびり朝食を食べてる場合じゃない!

 僕はテーブルの上に置いてある朝食──生卵をプロテインドリンク──を一気に飲み干すと、鶏ササミを咥えて家を出た。


 僕の名前は僧帽兼太。178cm 88kgの今日から超筋肉琵琉汰学園に通う、新米高校生だ。

「ひょにちふぁらひほふふぁ、やふぁいって!(初日から遅刻は、ヤバいって!)」

 僕は咥えている鶏ササミを食べながら、必死に走る。


 急がないと、走れ!走れ!

 ここから学園までは、走って15分。スタミナ勝負なら負けない!


 十字路に差し掛かった時だ。左側から誰かが、僕と同じように走って現れた。


(危ない!ぶつかる!)

「うわあぁぁぁあ!」


 思わず叫ぶ。この距離ではもう避けられない。

 向こうもこちらに気が付き、振り向いた。が、もう遅かった。


 バァィィイイイン!


 僕はその、逞しく発達した大胸筋に弾き飛ばされてしまった。


 その衝撃で尻もちをつき、鶏ササミを落としてしまう。


「ご、ごめんなさい!僕は急いでるのでこれで!」


 焦り、相手の顔も見ずに僕は再度走り出した。


 さっきのアクシデントで更に時間は無くなる。

 遅刻しないため、さらに必死に走る。

(さっきの大胸筋、凄かったなぁ…)

 が、心はさっきのぶつかった胸に揺れている。

 顔もしっかり見ておけばよかった。なんてどうしようもないことを思い浮かべていた。

……………………………………………


(やっとだ!学園が見えてきたぞ!)

 坂道を走り登り、見えてきた目的地に安堵する。

 この調子なら遅刻しなさそうだ!


 そんな時、僕の前に二人の男が道を塞いだ。

 見た感じ、一人は172cm70kgもう一方は174cm68kgだ。2人とも上腕二頭筋のキレがイイ!


「何のようですか?僕は今、急いでるんです!」


「んなこた知ってんだよ。俺たちはなぁ、今日ここで新入生潰しをしてんだ!」

「新入生潰しだって!?」


 道の端には正気を失った人達が倒れ、積み重なっている。


「そ、そんな!道を通してください!」

「ダメだね。フゥゥン!!」


 突然の不意打ちモスト・マスキュラー!!

 上級生の服は破れて吹き飛び、輝かしい上半身が僕を襲ってきた!


「ぐわあぁぁぁぁあ!」

 そのキマリ具合に、心の準備をしていなかった僕は大ダメージを受ける。

 ……立っていられない

 片膝をつき、必死に身体を支える。


「おうおう。もうくたばっちまうのか。俺たちは地獄二頭筋兄弟、俺たちの筋肉でくたばれることを、光栄に思うんだな!」


 もう、僕の学園生活は終わりなのか……

 1日も過ごすことなく終わる…

 そんなのは…


「兄貴、俺にトドメを刺させてくれ」

「いいぜ弟分よ。お前の十八番のバック・ダブル・バイセップスでこいつの心にトドメをさしてやりな」


 嫌だ…

 僕はこの学園で筋肉を磨き…

 最強の…

 ボディビルダーを…

 めざ、すんだ…


 弟分が服を脱ぎ、上半身を露わにする。


「じゃあな」


 背中を見せ、ポージングしようと力んだ時だ。


「やめるんだ!」


 僕の背後から声がしてきた。

 僕達3人の視線がそこに集まる。

 そこには、身長195cm体重120kgはあろう巨漢が立っている。

 頭はツルツル、全身の筋肉ははち切れんばかりに盛り上がる。

 キマってるよ!全身山脈!


 筋肉の申し子と言わんばかりのその人に、僕の目は釘付けになってしまった。


「なんなんだお前は!」

「いやぁ、この人の友人でね。同級生になる人を見捨てるわけには行かないさ」


 その存在感に地獄二頭筋兄弟は狼狽える。


「気をつけて…こ、この人達は新入生がりをして…いる、んだ」

「な、なんだって!それで兼太もやられたのか。それは…許せないな!」


この人に、僕は忠告をする。不意打ちをしてくる卑怯な奴らだ。これ以上の犠牲は増やしたくない。


「ハッ…お前も新入生か!ならこれでも喰らえ!」

 僕に気を取られている筋肉の申し子に、弟分が不意打ちポージングを噛ましてきた。

 あれは…バック・ダブル・バイセップス!予備動作が大きいが威力の高い技だ!


「そんな!不意打ちで…卑怯だぞ!」

「知るか!この学園は弱肉強食なんだ!」


 直撃した筋肉の申し子は、辛そうに唸る……が大したダメージが入ってないように見えた。


「そんな!俺のバック・ダブル・バイセップスを直撃したのにピンピンとしてやがる!」

 地獄二頭筋兄弟は明らかに狼狽える。そんな2人を後目に、申し子が動き出した…。

 あの予備動作は!


「バック・ダブル・バイセップスゥゥゥ!!!!」


 まさかの同じ技で返すなんて!

 相手の得意分野に飛び込むそのスタイルは、自信がないと出来ないことだ!

 でも…!でも…!


「「ぐわあぁぁぁぁあ!」」

 確実に効いている!

 見るからにボロボロ。

 この人、ワンポージング・ダブルキルをしたぞ!

 なんて…筋力だ…。


 地獄二頭筋兄弟はその場に倒れ、動かなくなった。


「大丈夫かい?兼太」

「え、あ、うん、ありがとう。でもどうして僕の名前を?」


 僕は疑問に思っていたことを尋ねる。この人に名乗った覚えなんてない。


「俺の事忘れちゃったのかよ。大胸金太郎、小学生の頃一緒にトレーニングしただろ」


 えぇぇーーー!と、思わず叫んでしまった。

 確かに僕に、大胸金太郎って名前の友人はいた。でも、僕よりも細くて、身長も高くはなかった。

 それが…、それが…!こんなに美しい姿になったなんて!


「アメリカでのトレーニングのお陰かい?凄いね!」

「ああ!アメリカでのトレーニングの成果だ!」


 誇るように胸を仰け反らせ、僕に見せつけてくる。

beautiful…


「それと…、俺もこれからは超筋肉琵琉汰学園に通う。これから3年間よろしくな!兼太!」

 幼なじみの出てきた腕に、僕も腕を出して、立たせてもらう。

 そうして、久しぶりの握手を交わす。


「これからよろしくね!金太郎!」


 僕達の筋肉生活はまだまだ始まったばかり。

 期待に胸をふくらませて、学園の門を潜るのであった。(遅刻した)


【超筋肉琵琉汰学園 完】

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