11_翌日は武器を買い
「・・・で、結局その3人組を追い返してようやく寝付けたってわけかい?勇者ってのも大変だねぇ・・・」
「そんな感じだった・・・しかも店は朝までうるさくて何度も起きたし・・・はぁ・・・」
武器を選ぶ約束をしていたメファーラと共に装備屋を見てまわっている一世は、ため息を吐きながら眉間を揉んでいた。
結局、あれからもロクに眠れないまま朝を迎えることになった一世。
少しだけとはいえ眠って体の疲れはないし頭もしっかり冴えているのだが、ストレスの方は全く解消される術がないまま溜まりっぱなしの異世界生活。そのせいで折角のイケメンフェイスは不機嫌な心を反映して眉間に皺が寄せられ目は淀み、着用している装備の黒さも相まって、その見た目は勇者ではなくもっと暗い方向性の人間に見えてしまう。しかしそれでも違う方向性の良さがあるのか、街行く女性は頬を染めて見てくるのだが。
「気配や姿をを消す魔法を使えば野宿って手もあるかもしれないけど、それでも見張り番無しで魔物が出るような場所で眠るのは危険だよねぇ・・・あ。これなんか良いんじゃないかい?」
「危険でしかも探すアテもまだない勇者の旅にも同行できるような強い仲間はそう簡単には見つからないと思うけど・・・・・・うん。サイズも重さも丁度良さそうだ。これ買うよ」
「毎度っ」
広い城下町の中にいくつもある装備屋からようやく見つけることができた手によく馴染む黒柄のボウイナイフと黒檀の小型ボウガン。それをこの世界に来た時から背負っていた粗大ゴミ(という名の大剣)を売っぱらった金の三分の一にも満たない金額で購入ができ、武器変更の試みは万々歳の結果となった。
後ろの方でメファーラと装備職人が「これ、勇者じゃなくて暗殺者だよね?」「後は黒いフードでも付ければ完璧だよな?」と小さな声で言っていたのは知っているが、今着ている真っ黒な鎧は色はともかくとして動きやすく汗もすぐに飛ぶため気に入っているし、それなりに苦労してようやく見つけることができた自分用の武器を「暗殺者みたいだから」という理由だけで変えるつもりもない。
2つの武器と、ナイフの手入れ道具にボウガン用の矢。勇者サービスで少しだけ安くしてもらえたそれらの代金を支払い、勇者イッセイの装備はこれでようやく整ったのだった。
「それで、私も役目は終わったことだしギルドに戻るけど、仕事を受けに行くのなら一緒に行くかい?」
「ありがとう。折角だからお願いするよ」
「了解。了解・・・確か海の町フィルンまでの護衛と魔物討伐だっけ?・・・・・・ならきっと同行者はバウンティハンターギルドの連中だろうなぁ・・・行ったら覚悟しときなよ?」
「?」
ギルドまでの道すがら、メファーラは眉と耳を下げながら言った。
冒険者たちの管理と彼らに向けた仕事の整理を行う【ギルド】という1つの組織の中にも、財宝や希少素材の収集を目的とした【トレジャーハンター】や客の護衛や魔物討伐依頼の報奨金を目的とした【バウンティハンター】など、それぞれに特化した小組織があること。
そして、それらの小組織の上部連中の殆どは若い頃それぞれの分野に特化していた冒険者の場合が多く、それ故に性格に「クセ」がある者が多いということ。
「特にバウンティハンターの連中は腕っぷし任せの乱暴なのが多くてさぁ・・・昇級試験も怪我人続出、新人教育もなってないし仕事が粗いんだよね・・・」
「スライムの巣をつついて新人置き去りにしたトレジャーハンターギルドのサブマスターがそれを言いますかね」
「アレは新人教育とは少し違うから別の話ってことにしてくれないかなぁ」
「・・・少なくとも【俺】にとっては初日だったんだけど」
「まぁまぁ」
1日経っても未だにぞわぞわとした感覚が収まらないこの異世界一番のトラウマものの光景。一世の恨み事は当面続きそうだった。
出会って1日2日程度のメファーラと気楽に話せるのは彼女のとっつきやすい性格のお蔭なのか、流川一世の頃よりも随分と話すようになった勇者イッセイ。
数少ないエルフ種でありトレジャーハンターギルドの幹部でもある女性【メファーラ】と、人間の冒険者としては考えられない功績を残し勇者と呼ばれるようになり、さらに死んでも復活するという謎の力を持つ青年【イッセイ】の2人が笑い合いながら歩く姿は、道行く人々の注目を自然と集めてしまう。
そしてそうなればさらにその周囲にいる人々からも注目されることとなり、
「イッセイの旦那ッ!」
その結果、近くにいたとある男たちに気付かれてしまう結果になってしまった。
「・・・・・・あ。」
「旦那!これからギルドに仕事受けに行くんだろ!?」
「「アニキ~待ってくだせぇ~!」」
「・・・・・・ぷっ」
異世界に来たばかりの一世の数少ない知り合いのうちの一人で、昨日の深夜に寝ている所に押しかけ、しかもそのまま押し切って共同の依頼受注をする約束まで取り付けた迷惑な冒険者3人組。
それぞれパワード、リップス、ラヴという名の男達は、狙ってか天然なのか、大きな声でイッセイの名を呼びながら大きな体を陽気に跳ねさせながら2人の元へと近づいてきた。
「ギルドの事知らないんだろ?俺らが色々と教えるぜ、旦那!」
「ぐ・・・中年オヤジが年下に旦那って・・・それに静かにしてくれ。人が集まって動けなくなるから・・・」
「それなら俺に任せてくれ!俺は人に道開けてもらうの得意だからな!」
「いいからもう少し・・・っておい引っ張るな!」
「「アニキ待ってくだせぇ!」」
「アハハハハハ!!」
只でさえ目を引いていた所にさらに視線を集中させてしまった勇者イッセイら 4人 の周囲には、有名人の動向に興味を持った人々の人だかりがあっという間に出来上がってしまう。
しかしそんなことはお構いなしにパワードは随分と大きな声で勇者イッセイに話しかけ、そのままぐいぐいと引っ張られながら人ごみが道を開けながらこちらを見てくる居心地の悪い中を進んでいく。
ちなみにメファーラはパワードが近づいてきた時に【透明化】を使って姿を消し、今あるのはどこからか聞こえてくる彼女の笑い声だけとなってしまっていた。
「・・・・・・人が居ない所に旅に出たい」
「おお、流石は勇者と呼ばれるだけはあるな旦那っ!俺もお供するぜ!」
「「アニキが行くなら俺らも行くっす!」」
「特にお前らがいない場所に行きたいんだよ、俺は!」
「ハハッグクククク・・・笑いすぎて肺が痛い・・・・・・!」
幸い、集まった人々は4人(と姿が消えたメファーラ)についてくるようなことはなく離れればバラけていく。しかし住人や商人や冒険者で賑わう城下町にいる大量の人々は救国の勇者イッセイと、その手を嬉しそうに引っ張る中年の男冒険者を見るなり足を止めて観察するため、移動する度に周囲に人の密集地帯を形成してしまうことは変わらなかった。
そして町の端にあるギルドに着く頃にはすっかり勇者一向移動中の噂はそこまで届ききっていたようで、ギルド入口周辺には勇者の姿を一目見ようとする若い冒険者や冒険者ですらなさそうな若者子供が入口の続く1本道を作って待機している、まるで映画スターが空港に到着した時のような状況が出来上がってしまっている。
「ここがギルドだ。この中のカウンターで仕事を受けるんだぜ!」
「前に武器借りにきたから知ってるよ・・・それより、早く入ってくれ」
「早く仕事受けたいもんなっ!」
人々に注目され居心地の悪い城下町から逃げるようにギルドに入っていくイッセイ一行だった。
EINHERJER 毬藻 @marimo2323
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