第6話 旅路

ガタガタ ガタガタ


「平和だ……」


私は王都に向かう途中、優しい商人の家族と出会い場所に乗せて貰った。

最初は断ったのだが、女の一人旅は危険だとすごい剣幕で迫られ承諾してしまった。

一応、馬車の警護を請け負った。

たまにはゆっくりと景色を見ながら旅をするのも悪くないものだ。

一人だと急ぎ足になり景色など見ていないことが多い気がする。


「お姉ちゃんはハンターなの?」


荷台から出てきて声を掛けてきたこの男の子は商人の子供でケインだ。

10才くらいで長旅は飽きてしまったようだ。


「一応ね、ハンターに興味あるの?」

「商人よりハンターの方が格好良いだろ?

大きくなったら誰かを守れるハンターになりたいんだ!」

「結構、危ない職業よ。

死の危険が常にあるんだから」

「だからやりがいがあるんじゃん。

商人なんてつまんなさそうだもん…」


年頃の男の子は強いヒーローに憧れるのかもしれない。

中二病とは言わないが、命を掛けた戦いなんて憧れるものではない。


「お姉ちゃんはどんな魔物と戦った事があるの?」

「私は行方不明者の捜索専門だから時々会うオークとかかしら」

「そっかー、ドラゴンとか見たことないの?」

「ドラゴンはこの大陸の北の山脈にしかいないわ。

近寄らなければ出会うことはないみたいね」

「いつの日か見たいんだよなー。

やっぱ格好良いんだろうなー」

「人間では勝てないわよ。

鋼鉄の皮膚に灼熱の炎を吐くらしいわ。

しかも人間より賢いようだし」

「そうかなー。

悪い竜を退治した昔話を聞いたぞ」

「ふふっ、昔の人間は強かったのかもね」


確かにそんな話は聞いたことがある。

よくある話で人間を襲っていた悪い竜を勇者が討伐したというものだ。

竜の子供でも倒したのだろうか?

尾ひれが付くものだから、真実は不明だ。


日が暮れて馬車を道の横に木々が開けた場所に停めた。

夫婦は夕食の準備を始めていた。

私が食料品も水も持っていないので驚かれた。

重たいし不要だから持ち歩かないのが仇になった。

今後はカモフラージュに少しは持つようにしよう。

足が早いので次の村に夜には着く予定だったと誤魔化した。

信じてくれたか微妙だが……。

それにしても良い臭いがする。

乾燥した肉と野菜を煮込み柔らかくして、少しの調味料とチーズをいれてる。

私がいるから少し贅沢してくれるのであろう。


「出来たからこっちおいで。

一緒に食べよう」

「ありがとうございます」

「母さんの料理はまじで美味しいぞ、お姉ちゃん」

「本当だ、とっても美味しいね」


こんな和やかな夕食はいつ以来だろう。

心が温まる。

この人達のような良い人が笑って暮らせるよう、仕事を頑張ろうと思う。

この前の事件からやる気が出なかったが、気持ちが切り替わった。


「ご馳走さまでした。

私は見張りも兼ねて外で寝ますので、荷台でゆっくりお休み下さい」


静かだ。

商人家族が寝てから虫声だけになった。

星が綺麗だ。

電気のない世界は不便だが良いところもある。


「……お姉ちゃん、寝ないの?」

「星を見てるの。

見張りをしてるから安心して寝てて大丈夫よ」

「……俺も星を見る」


ケインと星を見ながら少し話をした。

星座が異なるが色々な名前を勝手に付けて遊んだ。

子供とこんなに仲良くなるとは自分でも意外だった。


「……ケイン、馬車に戻りなさい」


虫の声が止んだ。

何かが近づいて来る。


「どうしたの、お姉ちゃん?」


もう遅いか、近い。


「ここでじっとしてなさい。

声を出しては駄目よ」


ーーーーーーー


コボルトが10匹以上いる。

お姉ちゃんが馬車から離れて奴等の気を引いてくれている。

怖くて手足が震える、これが本物の魔物……。

いつの間にかお姉ちゃんが大きな鎌を持ってる。

背丈よりも大きな鎌をゆっくり振ると髪と目の色が銀色に変わった。

そのままコボルトの群れに走っていき舞うように攻撃をする。


「綺麗だ……」


次々と倒されていく魔物。

月光りに照らされて銀色の髪が輝いているようだ。

綺麗な舞いに見とれて恐怖感がいつの間にか消えていた。


ーーーーーーーー


よし、これでラスト。

ケインがじっとこっちを見ている。

少年の目にはどのように写ってるのだろう?

化け物か、天使か……。


「ちゃんとじっとしてたようね。

怖くなかった?」

「……怖かった……。

でも、それ以上にお姉ちゃんが綺麗だった!」

「綺麗?

……そう、ありがとう」

「それに凄い強かったんだな。

竜でも簡単に倒せるよ!」

「そうかもしれないわね。

この事は忘れた方が良いわ。

………オブビリオンサイズ」


ヒュン


「お休みなさい、良い夢をみてね」


………

……


「お姉ちゃん、おはよう!」

「おはよう、ケイン。

何だか嬉しそうね、良いことでもあった?」

「昨日、お姉ちゃんが戦ってる夢を見た。

すっごい強くて綺麗だったぞ!」

「……ふふっ、私はそんなに強くないわよ」


強く印象に残ったことは消せないのかもしれない。

この度は私にとってもよい思い出になったようだ。

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死神として異世界転生した私の鎮魂日記 ねくさす @nexas

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