ひょんなことから付き合った若い男女の、浮き沈みと日常を描いた邦画。
邦画といって差し支えない。
篤志と珠里の、時に情熱的で、時にアンニュイで、時に退廃的にすら感じられる、そのなんてことない日常が、2人の心情を交えながら、丁寧に丁寧に綴られていく。
学生時代に多かれ少なかれ誰もが経験したことのある思い出が、蘇る。
出かけて帰ってきた。夕飯を食べた。それだけのシーンに映る景色がたくさんあって、だからこそ読んでいるとこの余りにもリアルな世界に没入してしまうのだ。
そしてハラハラ、のち、ハラハラ。ああっ、もう! ちゃんと幸せになれるんでしょうねえ! とじれじれしながら気付いたら寝る時間をまわってます。
そんな素晴らしい作品。ああ、ちくしょう、言葉じゃ全然伝えられない。
1人でも多くの人に「観て」ほしい小説です。
楽天カードマンばりにいきなりですが、引用させてください。
「アメリカの民族学者アラン・ダンデスはネイティブアメリカンの民話は全て「欠落」と「欠落の回復」の対から成す、と考えました。何かがない状態からある状態――例えば雨が降らないので水がないから雨を降らす、という過程の中に「物語」が成立し、そして欠落したものを「回復」する人物が「主人公」になるわけです。「欠落」と「回復」は「目的」と「その達成」と同じ意味であるのは言うまでもありません」
大塚英志『キャラクター小説の作り方』
「欠落」とその「回復」。これが物語の基本構造であることに異論はないでしょう。
別の場所にも書いたのですが、この作者さんは「何か満たされない感覚」を描くのがうまいと思うのです。登場人物――特に視点人物の中にある、何か満たされない感覚。これが普遍的な説得力を持って迫ってくるので、否応なしに引き込まれるのです。
恋愛小説の書き手さんなので、その「何か満たされない感覚」は多くの場合、恋愛によって埋め合わされようとします。物語構造として、「欠落」を「回復」する手段が「恋愛」なのです。
尤も、その手段がいつも適切かというと決してそうではありません。というのも、登場人物が抱える「欠落」というのが曖昧でつかみどころがないものだからです。そもそも、彼らが自らの「欠落」を自覚しているかどうかも怪しい。しかし、読者には確実にその「欠落」の感覚が伝わってくる。そういうデリケートな表現がなされているのです。
ですから、「欠落」という問題設定に対して理論的にこうすればいいと答えが明示できるものではないのです。
実際、恋人関係になったところで心から満たされた状態がいつまでも続くなんてことは現実にもそうそうあるものではないのではないでしょうか。
よって、この話ではメインの男女――篤志と珠里が恋人関係になってからが本番と言えます。恋人関係でありながら、どこか満たされず、すれ違い、そして……という紆余曲折を辿るのです。
それはあたかも青い鳥を求めてさまようチルチルとミチルのように。
この作品が周到なのは、彼らの彷徨を、それぞれに「相手役」を配して表現していることでしょう。それはたとえば、「エリートサラリーマンの哲朗」であったり、「後輩のサコ」であったりするわけです。
物語とは「欠落」の「回復」ですが、同時にその過程で起こる「葛藤」を表現するものでなくてはならないと思います。
たとえば、篤志と哲朗は社会的身分からしてまったく違う人物です。珠里に与えられるものもおのずと違ってきます。珠里は二つの人生の選択肢の間で葛藤することになるわけです。それはすなわち、自分が人生で本当に求めているものは何なのかという自問自答でもあります。
そうした煩悶を繰り返し、ときに失敗すればこそ、自分が本当に求めていたものが浮き彫りになってくるのです。
かように、一筋縄ではいかない男女関係を構築することで恋愛小説として波乱を演出しつつ、「何か満たされない」人たちの普遍的なドラマを効果的に描いているのが本作だと思います。
心に何か満たされないものを抱えたそこのあなた。青い鳥を探すあなたにぜひ読んでほしい一作です。
メーテルリンクはその名作の中に、身近に居るからこそ「青い鳥は見えない」と書きました。この物語も、すぐ隣に居るからこそ迷い、戸惑う、そんな恋人たちです。
物語の主人公は、このまま大学に残って研究を続けるのか悩む理系の大学生の篤志、そしてヒロインはスレンダーな年上美人の珠里。二人はふとした切っ掛けで、アルバイトさきの学習塾で出会います。
美人の珠里をつい目で追ってしまう篤志。その視線を気に掛ける珠理。二人が結ばれ、恋仲になるのは時の必然だったのでしょう。しかし、周囲は二人を放っておいてくれません。
珠里の隣にあらわれた、高学歴、高収入のタワーマンション男の哲郎。
篤志を追っかけ、純情一途?に迫りにせまる、可愛い後輩のサコ。
二人の恋は波風に揺れ続けます。
この作者が得意とする、細やかに丁寧な心情描写は、二人の淡くも脆い心の隅々まで描き、揺れ続ける心を鮮やかに書き表します。
それは読了したとき、固く結ばれた二人の手の上に泊まる、羽をひろげた青い鳥が見えるように。
是非、期待を持って御一読して頂きたい、そんな作品です。
2人の距離が縮まったのは、突然のことだった。
勇気を振り出し、飲みに誘うと、次の日から2人は付き合う事となる。
幸せいっぱいな生活が始まるが、少しづつその形は変わっていく。
しかし、どんな時も健気に支える主人公は、まさに理想の恋人ではないでしょうか。
2人の愛は壊れかけては、より硬く修復され、大きくなっていく。
と思いきや、第二章から波乱の幕開け。
このまま幸せになって欲しいと願っていたが、暑苦しくも暖かいかもしれない謎の人物が登場!
本当に目が離せない。
読んでいて、こんなにも心が落ち着かない恋愛ストーリーは初めて見ました。
早く続きが読みたいです。
是非ご覧下さい!