第21話 「ミッドウェー海戦で多数の熟練搭乗員が失われた」という話はいつどこから来たのか?
こんにちは、井上みなとです。
これまで「戦前の有名事件だった『竹橋事件』」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054892405363/episodes/1177354054907618302)「明治の教科書は会津をどう書いたか?」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054892405363/episodes/1177354054918560920)のように各年代の記述を追ったことがあったので、標題の件も追ってみようと思い、書いてみました。
井上は太平洋戦争にも軍事にも詳しくなく、あくまでペラペラと本を見てつらつら書いたもので、それをご理解の上、お読みいただければと思います。
「ミッドウェー海戦では空母などの艦、戦闘機、熟練の搭乗員が多数失われた」
ミッドウェー海戦の日になると、記事などにそう書いてあって、特に疑問もなく読んでいた一文です。
ただ、この一文には疑問のある方もいるようです。
まず「空母などの艦と戦闘機が失われた」は航空母艦四隻とその艦載機、そして、重巡洋艦一隻が沈没してしまったので、齟齬はないかと思います。
しかし、搭乗員の多くは救助されたという記述もあるそうで「熟練の搭乗員たちが多数失われた」には疑問を持つ方もいるようです。
熟練搭乗員が120名死亡したとする記述もあり、それを多いと見るべきかそうでないのか自分にはわかりませんが「ミッドウェー海戦で多数の熟練搭乗員が失われた」と記述され出したのはいつ頃からなのか、それを見て行きましょう。
1990年に祥伝社出た『日はまだ昇る』(渡部昇一)にはこのような記述があります。
「ミッドウェーで事故と言ってもいいような敗け方をして、多くの熟練した飛行機乗り、戦闘機が沈んでしまった」
次に1983年。国書刊行会から出た『海軍飛行豫科練習生 第一巻』。
「日本海軍が航空軍備の拡充を開始したのは、ミッドウェー海戦で主力空母四隻を
喪失し、歴戦の熟練搭乗員を多数失ってからであった」
同じく1983年。成山堂書店の『海軍予備士官 召集された商船士官の役割』(坂元正信)。
「基幹の大型空母四隻、重巡一隻、飛行機約三二〇機、熟練パイロット多数を失って敗走した。」
1980年。三省堂『日本の空襲3』。
「ミッドウェー島沖死闘が行われた。この海戦で日本は虎の子の空母四隻と熟練したパイロット多数を失った。」
1980年。芙蓉書房『服部卓四郎と辻政信』(高山信武)。
「蒼竜、飛竜の四隻を撃沈され、熟練の搭乗員の大部を喪失したのである。」
高山信武さんの本では他の本でも同様の記述が見られます。
1978年『児島襄戦史著作集』(児島襄)
「熟練パイロット多数を失って、惨敗に終った。」
児島襄さんは著名な戦記作家さんですので、他の本でも同様の記述がある可能性もあります。
1977年『レイテミンダナオ戦: 人間の記録』(御田重宝)
「日本はトラの子の制式空母四隻赤城、加賀、蒼龍、飛龍と多数の熟練パイロットを一挙に失う。」
1972年『国防』
「わが海軍は多数の有力艦艇を失い、熟練の航空機搭乗員をその機とともに多数を失う結果となった。」
1967年。毎日新聞社の『鉄底海峡』(高橋雄次)。
「ミッドウェー海戦で搭乗員の熟練者が減り、兵員の練度が十分でなかった」
1967年。文英堂『国民の歴史』
「経験熟練を積んだ搭乗員の大半が失われたことは、決定的な意味をもっていた。」
1965年。『戦争と人間』(五味川純平)
「ミッドウェーで熟練操縦者を半数近く失い」
1961年。筑摩書房『日本の百年』
「日本海軍は空母の主力と多数の熟練搭乗者を失った。」
1961年となると、昭和36年ですが、この頃にはもう多数の熟練搭乗者が失われたという記述があったようです。
ここからはうろ覚えなのですが、阿川弘之さんの昭和30年頃の本に「海戦の主役である空母四隻をはじめ、航空機と熟練パイロット多数を失い、太平洋戦線における作戦主導権をアメリカ側に奪われてしまった。」というような記述があったような覚えもあります。(全然記憶違いだったらごめんなさい)
最初にも書きましたが120名が多いのか、全体に比べて何割なのか、自分にはわかりません。
ただ、歴史総論、回顧談、戦記などなどで「熟練搭乗員が多数亡くなった」という「多数」の部分があまり検証されないまま、現在の事典や記事などにも引用されるようになっているのかなと思いました。
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