第2話
バルザが生を受けたのは、クラリアント北部の名もなき開拓村であった。
いまでこそ、彼の名を冠してレオール市と呼ばれるその場所は、1000年の昔には王都から顧みられることのない、一寒村に過ぎなかった。
当時クラリアントの北には、フリール族と呼ばれる遊牧民の勢力圏が存在した。
フリール族はたびたびのクラリアントを脅かし、人をさらい、穀物を奪い、村を焼いたという。
村を焼かれた者たちは、新たな土地に移り住み、畑を耕した。バルザが生まれたのも、そうした村の一つであったという。
バルザは開拓村に住む、一農民の次男坊であった。
彼にとって幸運であったのは、村に赴任したアドラ聖教の司祭が、とりわけ変わり者であったということだろう。
そもそも、正常な思考力を持つ者なら、進んで開拓村にやって来などしない。
中央で何か失態を犯した者か、あるいは狂気に近い宗教的情熱に駆られた者か。そのいずれかである。
司祭の名は、今日には伝わっていない。
恩義に厚いバルザは、功成り名を遂げたのちに、しばしば司祭との思い出話を語ったという。
しかし、司祭の名を尋ねられると、彼らしくもない愛嬌のなさで、
「忘れた。高齢であったから、もう亡くなられているだろう」と答えたという。
アドラ教の経典すべてを暗記していたとされるバルザには、似つかわしくない逸話だ。
その司祭、あるいは本当に罪人であったのかもしれない。
バルザ・レオール伝 怪奇!殺人猫太郎 @tateki_m
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