傷を癒すという伝承の残された《いたどりの剣》――それを携えた女剣士が北の大地に現れる。
彼女はセキトウと名乗る。セキトウは吸い取った痛みと血潮の数だけ、等しくひとを裁き、悪を斬る。神に奉上するように舞を踊り、歌を口遊みながら。
北の大地はいま、略奪と侵略と、それにともなう痛みに満ちていた。
もともと彼の地に暮らしていた北の者は、細やかな恵みに感謝し、日々の糧を超えるものを欲することもなく穏やかであった。だが突如渡来してきた南の者が、この地に数多の武器をもたらした。武器をもった北の者は、南の者に煽られるがままに争いを始め、気がつけば南の者にすべてを奪われていた。
北の者は、南の者に虐げられた。男は殺され、女は犯され、子どもはなすすべもなく戦を憎んだ。
そうして願った。
痛みを取る、伝説の剣を。
されども剣は剣だ。
秩序のもとに振るわれようと、それは《奪い、壊し、殺すもの》でしかない。
事実、報復を遂げようとも、奪われたいのちは還らず、焼かれた故郷はもとには戻らない。
殺したものを殺しても、傷は癒えぬ。
故にセキトウは嘆く。
嘆きながらも剣を振るい続ける、そこに痛みを叫ぶものがいるかぎり。
これは、重厚かつ繊細な筆致で描かれる、不条理と条理の小説です。物語と構成はさることながら、描写のちからが凄まじい。時に激しく、時に静かに。怒涛の如く押し寄せたと思えば、しんと静まりかえる。まるでひとつの剣舞を眺めているかのような心地になる文章です。
軽小説では物足りず、昔からの歴史小説などに胸が熱くなる読者さま。海外の歴史ドラマなどに血が滾る読者さまは、必読です。きっと、充実した読書時間を堪能できることでしょう。
どうしても軽小説が目につきがちな《カクヨムコン》にもこんな小説が参加しているのですよと、声高に叫びたいです。