最終話 

 今日は、珍しく晩ご飯をテーブルに並べ、3人で食べるようだ。香ばしい油の匂いがする唐揚げがたくさん盛られた皿がテーブルの上で存在感を放っている。3人とも笑っている。優子はさっきまでの暗い顔が嘘みたいだった。あんな単純な言葉で一気に距離感が縮まる。人間の家族はそれほど強固なもので出来ているんだと感じた。


 彼らを見て、ふと気づく。僕たちが何故こんなにも長い時代を生きていけるのかを。僕たちが何故こんなにも住みづらい世の中で幸せに生活していけるのかを。


 僕たちが人間とわかり合うことはないのだろう。人間と人間でさえ、分かり合えないことがあるのだから。分かり合えないものは分かり合えないのだ。それを知ってるからこそ、僕たちは生きていけるのかもしれない。分かり合える世界で生きていくことが、幸せに繋がっているに違いない。もちろん分かり合えない世界に自分を投げ入れることも必要だけど、それでも「分かり合える人」を探しながら上手く生き延びることがこの地球という名の星に生まれた生命全ての使命なのかもしれない。

 それを一番の天敵の人間に教えられるとは思っていなかった。




 晩ご飯の時間も終わり、いつも通りおじさんおばさんは厨房の掃除を始めた。優子は今日は早く寝るといい、おやすみというこの空間では珍しい言葉が響き、今日1日を締めくくった。





 さて、夜中になり、3人とも寝た。お腹はペコペコだ。厨房の床、調理台の端っこにある油や残飯をいただく時間だ。僕は「食欲」という生命体の欲求に耐えられず、換気扇から気にせず、厨房に侵入する。油の匂いがまだ残っている。とてもいい匂いだ。僕は調理台の上を通り、おじさんおばさんが掃除しきれなかった残飯や食べクズに向かって走り出す。

ムシャムシャ。おいしい。今日は人間からいろんなことを学んだ。学んだ後の飯はうまいなあ。なんなら、掃除するべきクズを僕が掃除してあげてるようなものだから、いい気分だ。僕は食欲を満たすべく、必死で食べカスにかぶりつく。


その時だった。


ピカッ


暗闇が突然光の空間に切り替わった。タイムスリップしたような気分だ。突然の光の眩しさに動揺し、辺りをキョロキョロすると、そこには、電気のスイッチに手をかけたまま、こちらを見て突っ立っている優子の姿があった。確実に目が合っている。


あ、


「あ、」






これが僕と優子の最初で最後の出会いだった。




 

 


 

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無害な有害 京介 @sugikyo

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