第15話 1995年6月10日 東京都目黒区 京極感謝冠婚葬祭式場 Fly Me to the Moon

 今日の目出度き大安の日。どうしてもかは、運命と魂に惹かれ合う織田瞬太と土岐早百合。もはやも何故も雲散霧消してしまうのかは、この年の初めの不幸な出来事に発する。その奇しき良縁から、ジューンブライド時期を抑えるべく奔走するもけんもほろろに、ただ意外な伝手を辿って、目黒区の閑静な庭園敷地群の京極感謝冠婚葬祭式場を確保し、現在ど派手な織田家仕様でお目出度さがはち切れんばかりに。

 そして式場内のセント・フランツチャペル併設の新郎控え室では、未だに難事かに際してのチェック事項が入念に行われる。


 チェックスーツ・スカートにベージュスカーフのカイトブライダル主宰の、ただ目が凛々しい海斗薫が、夥しいチェックリストにサインを隈なく入れては、ほっと一息つき

「もう、瞬太さん、私は全く不思議で有りません。自己申告では恋人は小百合さんの筈ですよね。それが何故に、今日迄、いいえ1週間前から、首脳国の大統領並みのテロに備えないといけないのですか。この一切ですけど、流石に後で追加経費請求させ貰えますからね」

 瞬太の妹織田蜜果、いざ神妙にも

「まあ一兄ちゃんは、どうにも敵が多いからね。名うてのオーガナイザーならば、この目出度い盲点を突いて来るものだよね。って、ここ迄でガチの外回り衆から、13件が全員女子って、どんな手切れの仕方をしたか、親族でも弁護は出来ないかな。どうにもね」

 薫、さもうんざりに 

「ミッツさん、残念ながら、現報告では今日迄全て女子による累計17件に及びます。各方面警備で出刃包丁どころか、銃刀法関連も流石にですよ。どこでベレッタとか入手してくるのですかね。と言うべきか、そこまで憎いですかね、瞬太さんを。つい繰り返し、と言うべきですか瞬太さん、ここ大事ですから言いますからね。瞬太殺して私も死ぬは、あなたの天衣無縫ぶりには、各方面に本当に面倒を掛けますよね」

 純白タキシードに、きつめのうねりの頭髪をしっかり固めた織田瞬太、不遜にも

「そこが意外だよな、てっきり名門学習院を舐めかかって来た、昔のワル連中の怨恨返しに来るかと思ったら、よく分かんないグルーピーだもんな。名前聞いて、あれ、遠巻きのあれかなと思って、写真見たら、そういたよなだもの。でも、お手付きしてないのに、何を持って怨恨なのか、警察の調書って話が乗るものなのかな」

 薫、いとも容易く

「そこは所轄も、ここのところ右から左ですよ。織田家ならば、まあその、あれかで、三日目の時限爆弾騒動ですっかり慣れてしまいました」

 蜜果、顔をしかめながらも

「ああ、あれね、本当ビビったよ。ランドクルーザーに時限爆弾コンテナがドンドンドンだもの。捕まったイカれたグルーピー曰く、瞬太に一泡吹かすと宣言したら、アッシー君共が工事現場からダイナマイト盗んで図工の危ない手際で、本当にドカン寸前だもの。まあそれも繁房さんが強引に点火した導火線引き千切って、事なきを得たけどね。凄いよね」

 瞬太の護衛に付くオーガナイズ仲間、長身剛健の五代繁房が事も無げに

「ミッツ、それ瞬太に言っちゃ駄目。何を察してか、今日の結婚式中止にしちゃうから」

 瞬太、身を乗り出しては

「繁房、それマジかよ。ああでも分かる。それ聞いたら流石の俺もだよ、ゲストの安全が何よりだからさ。と言うべきか、凄いね繁房、時限爆弾解除出来るものなの、」

 繁房、理路整然にも

「基本ケーブルを引っこ抜く、ここパソコンも同じ」

 蜜果、打ち震えながら

「駄目駄目駄目、繁房さん、そんな事したらパソコン壊れちゃうから。いや、まさかのノープランなの、これ迄全て、ねえ、」

 繁房、流暢にも

「It's all right.」

 瞬太、神妙にも

「これさ、何れもなのか。これなら、やっぱり、お母さんの横車のままに帝国ホテルの富士の間で、結婚式を行うべきだったかもな、」

 薫、さもうんざりに

「ですからね瞬太さん、結婚内定の折角のジューンブライドを押しのけて、帝国ホテルさんをごり押しするのがやれやれだから、私達にご依頼されたのでは無いですか」

 瞬太、物憂げに

「そう言えば、そうだったかな。これ迄の打ち合わせがかなり濃厚だから、いつもの面子になっちゃってて、薫がカイトブライダル所属なんてすっかり忘れてたよ。でもさ、これはこれで何か良い感じだよね、」

 薫、凛と

「良い感じも何も、この京極感謝冠婚葬祭式場は滅多に貸し出されない、噂でしか聞かない冠婚葬祭式場なんですよ。それを術回さんのお口添えで松丸百貨店女社長京極澄子とのロハあればこその、あのかなり気難しい京極親子も止む得ないになって、かくかくしかじかの瞬太さんと小百合さんの為ならばの太っ腹決済ですからね。そう私はこれもお導きかと思います、実しやかであった聖堂のダヴィド作イエスを育むマリア像の滴る涙の奇跡と、小百合さんの涙が自然とシンクロしたのは、きっと魂が触れ合った故と思います。そう、その結局の良いですけど、道なりとは言えど、瞬太さんは直感だけは良いもの持ってますね」

 瞬太、前のめりにも

「薫、そうでしょう、もっと褒めてよ。テンションもっと上げていかないと、俺の一世一代の大博打が根負けだからな」

 薫、くすりと

「瞬太さん。いいえですよ、結婚式は大博打では有りませんので、どうか平に御容赦下さい。とは言えの結婚式ですけど、かなりのお約束事項が有り過ぎて、弱小カイトブライダルは今日この日迄御両家の結婚式一本に絞らざる得ないのが、どうしても採算ぎりぎりですよ。この式が終わったら、内輪ベンチャーでもすれ違って解散するかもしれないのが、まあ、溜め息しか出ないですよね」

 蜜果、ふわりと

「あの薫さん、そこの採算に関しては、今後もお仕事を回したいので是非に、と言うべきか私の結婚式も是非お願いしますからね。勿論採算に問題がある様なら、私が自腹でコンサルタント料としてチェックを切りますから、存分に申し出て下さい」

 薫、ただくすりと

「それ、ミッツさん。ご縁が有り過ぎて不思議ですね。ミッツさんの場合、最低でも三回は結納しないといけないかもしれないですから、そのご贔屓はどうかも、ちょっと不謹慎ですよね」

 瞬太、前のめりにも

「それって、術回の遺恨話のあれとかそれとか間に受けちゃう系なの。まあお話としては格段だよな、薫もドリーマーだよね」

 繁房、鼻息も荒く

「俺は気に入ってる、五代繁房 a.k.a DJ shingo、ナイスフィーリング」

 瞬太、くすりともせず

「DJ shingoも無茶な戦国時代渡ってきたなら、今も有りだよな、また俺と自由行動を共になんて、ご苦労様なんて気軽にも言えないよな」

 蜜果、背筋をピンと伸ばしては

「私はそのご縁を深く信じるよ。今日迄の繋がり、皆、皆、ふわっとしてて心地良いもの。出会えるのはきっとご縁なんだよ」

 瞬太、いみじくも

「そうかな。こんな暗くなって行く時代で、俺達が出会うって、何をどうしろって言うんだよ、さっぱり分かんないよ」

 薫、凛と

「瞬太さん、そして小百合さんもですけど。まずは今日の結婚式を改めての道のりとして、決して手を離さないで下さい。私はお二人ならば、時空を軽くて幸せになれると思います。その事で、ご来場の皆さんの灯も、決して消えない強さを持てる筈です」

 瞬太。まじまじと

「でもさ、それは小百合でなくても、薫でも良かったよね。信長と吉乃の再びの方が繋がりの方が、何かこうハッピーエンドじゃ無いかなって、」

 薫、大きく首を振り

「そこは有り得ませんよ瞬太さん。私は信長さんと帰蝶さんこそが二世の契りかと思います。何より今でも素敵過ぎますよ」


 そして控え室の外で、ガタンと、絨毯に西洋椅子と何者かが倒れる音が、控え室迄響く。


 蜜果、大きく目を覆っては

「あっと、ここで双葉スタミナ切れか、そう、どうしても見えちゃうものか。ああ薫さんは何も言わなくて大丈夫、内側を見られても私達何ら恥ずかしくないですから、どうか慣れてください。そう双葉はあれだけど、うっかり口を滑らせても、ここ一兄ちゃんには決して何も届かないから、薫さんの全くのお気遣いは無用ですからね、よしっと、ギリセーフ、」

 繁房、踵を返しながらも

「双葉回収、対面じゃないと、読心術出来ないのに、無理してここら一帯覗こうなんて、本人気丈でも死んじゃうからね」

 瞬太。顰めっ面も

「全く、今度はどんなテロだよ、おお、だったら逆に乗り込んでやろうか、」

 薫、蜜果、共に

「そこ絶対駄目ですからね。まあ本日も正常運転か。」

 思惑が重なる溜め息が新郎控え室に重く響く。


 繁房がドア真近より、ショートカットの淡い青のワンピースの窶れきった女子を抱えては、新郎控え室のロングソファーにそっと寝かせる。

 薫、何度も首を傾げながらも

「あれと、控え室外にいたのは、前田双葉さんの妹さんの筈ですよね。何で窶れ切った双葉さんが運ばれて来るんですか」

 蜜果、くしゃりと

「あっと、そう来るか双葉ったら。これは朝迄詰めに詰め込んで、逆流せまいと、只管口を結んでいたのか。さて、何と言う忠義心と言うか、男女を超えた友情は実に尊いものだよ、双葉はね」

 薫、尚も首を傾げ

「いいえ、ちょっと待って下さい。このお話ですと、この控え室外にいた、失礼ながらかなり小肥り女子が双葉さんになりますよ。いいや絶対信じられない、この2時間でここ迄激痩せ出来るなんて、どんなサウナハウスに通っても不可能ですよ、いやそもそもこの京極感謝冠婚葬祭式場にサウナ室はあるにあるけど、それだとお目付役果たせないし、何がどうなって、えっつ、」

 蜜果、双葉の汗を丁寧に拭いながら

「薫さん、術回さんから確かに聞いていると思いますけど、人間の為せる黄金動は確かにあるのですよ。それは確かな福音ですけど、使い過ぎては死に至ります。双葉さんは読心術ですけど、ここ最近のその労力の為の肉体の燃焼と来たら尋常では有りません。額を近付けて漸くの黄金動なのに、この式場隈なくなんてやはり無謀過ぎました。これで軽く15kg痩せるなんて、どうしても止めるべきだったかな。ジョナサンで食べに食べ続けて48時間大完食なんて、双葉、本当頑張ったよね」

 瞬太、くしゃりと

「俺、ミッツ、小百合も、双葉の赤坂見附のジョナサン完食マラソンに付き合ったけど、これは21世紀にも語り継ぐべき偉業だよ。もうゴールその瞬間と来たら、店員さんの用意した謹製のゴールテープを切っては、1等賞の賞状貰っては、そりゃあもう店内は万歳コール鳴りやまずだもの、双葉のその意気大好きだよ」

 薫、烈火の如く

「無理、無茶、無謀、ついで阿保です。瞬太さん、それを止めるのが名オーガナイザーでしょう、双葉さん、やっぱり双葉さんが幾ら献身的でも、食べ過ぎでジョナサンで死んだら可愛そうでしょう。全く三面記事に御令嬢の哀れな頓死が乗ってたら、目も当てられませんよ」

 繁房、理路整然にも

「早朝からの、自前テロ3件は双葉が看破。最終ライン前に防いだから、どうしても双葉の黄金動必要だった。薫さんは、誰かが巻き込まれて良かったの、俺はそうなったら悲しいよ」

 瞬太、意気揚々に

「おうよ、双葉の平らげっぷりと来たら、それはもう見事だぜ、150万奢ったのが実に気持ち良いね。ああレシート見る、明細見るだけで惚れ惚れするぜ」

 薫、不意に潤んで

「皆さん、ごめんなさい。今日迄、カイトブライダルこそが最高のブライダルだと思ってましたが、私達は大きく過信していました」

 繁房、凛と

「そんな事は無い、カイトブライダルこそが名実共に最高のブライダル。今年の阪神淡路大震災の神戸青空結婚式は、今も皆の胸に染みる」

 瞬太、ただ感に入り

「良いね神戸青空結婚式。俺には到底思い付かないけど、カイトブライダルどうしても最高だよ。阪神淡路大震災の何もかもが悲惨だったけど、あの神戸の延焼跡の中で結婚式挙げたなんて、もう希望しかないよ。真の復興なんて、実は本当に本当の些細な所から始まるものなんだな」

 薫、感慨深くも

「そこは、私達カイトブライダルもあの日前乗りで神戸に入っていましたし、何よりそこは御両家の強い希望も有りました。そうですすね、震災の延焼で何もかも失ったけど、そうじゃないんだ、俺達はしっかり生きてるし、この先も必ず復興させてみせる、ここで挫けてはいられないから、どうか予定通りに結婚式挙げて、皆に笑顔を与えたいの御意向でした。当然私達は深く同意せざる得ません。思った以上の成果は、急場しのぎで、ご近所皆さんから白のカーテンを持ち寄って貰い、カイトブライダル皆で三層に編み込んだ純白のウェディングドレスが思った以上に映え過ぎた事でしょうか。私達も青空結婚式なんて、そうではないのですよと、一抹に否定できないのが、どうしてもの阪神淡路大震災なのですよね」

 蜜果、ただ只管頷き

「それね、そこ実にお母さんのツボだよ。そのウェディングドレスの信じ難い出来栄えから、どうしても買い取りたかったけど、御両家から復興記念だからどうしても断念したものの、足しげく両家に通っては写真とパターン写し取って来たから、了承得ての尾張美装の私立美術館に複製は何れ並ぶのかな、かなり楽しみ」

 瞬太、鼻息も荒く

「そうなると、どうしても小百合だよな。早速俺達が集っては、被災地に支援物資を送ろうの大会議も、入ってくる一報で軒並み道路鉄道寸断されては皆お手上げだったけど、小百合がそれなら歩いてでも届けましょうだってさ、一体何十kmを何往復するかだけど、言うよね小百合も。ボランティアで夏場の山荘一帯の剛力輸送してるなら不可能では無いですよねって、そう言うグイグイ来るのは本当好きなんだけどさ。おおっと、これが惚気って事か、まあ披露宴のスライドの前に、俺がふと盛り上がっちゃったよ」

 薫、不意も

「そこなんですけど、いつも不思議に思うのですが、尾張美装ボランティア陣は、何故私達の神戸青空結婚式に間にあったのですか。上空に火炎を吸い込む物体が有るとかを追い掛けて来たとかの、未確認情報過ぎて、どうにもですよ、」

 瞬太、得々と

「ああ、あれな集配帰りに、延焼の続く神戸の町を、上空の黄金の何かの一対が翔ぶと同時に火沫をどんどん吸い込んでいるんだよ、不思議だなと思いながら、小百合が言うさ、あれは鳳凰に違いないって。その御徳を持って五行を吸い込んでるってさ。そこ迄言うなら見たいでしょう聖鳥、それを追いかけて辿り着いたのが神戸青空結婚式って訳さ。これも御縁があればこそさ。その成り行きのお導きなら、織田家も土岐家も同時に動いて、俺達に結婚しなさいだってさ、碌に肌に触れてないのに、とことん可笑しいよね。純潔直良しと言われたからには、もう俺達はすっかり成り行きのジェットコースターに乗るしかないよね」

 薫、くしゃりと

「良いお話ですわ、瞬太さん。でもこの平成に聖鳥も鳳凰もだなんて、そういうドリーマーさん嫌いでは無いですよ」

 瞬太、機微に

「それ、薫の二つの顔は好きじゃ無いな。術回の御縁の話から薫が吉乃の生まれ変わりは聞いて、お母さんに聞いたさ。薫さんもそのカイトブライダルのお仲間も、生駒屋敷での鳳凰に僥倖に立ち会った縁を持つ者でしょうって。薫、ここで鳳凰を隠すのは安易に御徳縋らせたく無いのは、それは本当に鳳凰が望む事なのか。信心をほぼ失った時代で鳳凰が肩身を狭くして生きてるのって、それは幸せな事なのか」

 薫、ただ真摯に

「尾張美装、織田家、尾張に三河、それならば険しい鳳来寺はどうしても御存知ですよね。鳳凰の雌雄は確かに存在します。あの時瞬太さん達が見た黄金の何かとは、鳳凰雄の巡航飛翔体です。そうただ、鳳凰は決して神では有りませんから、人が望む過不足は生まれてしまいます。鳳凰は実に慈悲深いですから、その果たせぬいつ時の落ち込み様と来たら、正視は決して出来ません。瞬太さん、いいえ皆さん。どうかここは深く察して頂けませんか」

 瞬太、ただ深く

「であるか、」


 心地良いソファーで、双葉が未だ夢見心地にままに寝返りを打つ、そして笑顔で

「むにゃ、会いたい、ってね、」

 蜜果、くすりと

「双葉はね、楽しそう。でも、どうしようかな、やっと結婚式始まるし、起こした方が良いのかな。でも結婚式は後で8mmビデオでも見れるし、何より双葉は食い気だから、疲れが取れず披露宴でぐっすり眠っちゃったら可愛そうだし」

 薫、ふわりと

「ミッツさん、そう言う事はままお子様に有りますので、ディナーはきちんと折り詰めしてお渡ししてますから、お仲間の結婚式出席が優先かと思いますよ」

 瞬太、くしゃりと

「何かさ、俺って、こう踏ん反り返って楽して良いのかな、もうちょっとアクセント欲しいよね、THE瞬太のインサートタイトル無いのどうなのさ、」

 繁房、視線も厳しく

「逆に、動くな。勝手に動いちゃ駄目」


 廊下よりただ慌ただしい大股でのヒールの音が聞こえ近づいたその瞬間、新郎控え室のドアが大きく観音開きされる。そこには日頃の化粧っ気の無い土岐小百合が大きく様変わりした、そうウェディングドレス姿の新婦小百合のいたく剛健な姿。

 小百合、大きく息を整えては、この日の為にミディアムに伸びて束ねた後ろ髪より、白紅黄の羽根の黄色の末部が黄金色にゆっくり点滅してる箇所をこれでもかと翳す

「これ、そう、薫さんからお勧めのままお借りしました、見るも見事なサムシングフォーのSomething Borrowedですけど、この点滅は何ですか、何処にも単三電池無いのに、こうも輝くものなんですか、これはやはり、またもの奇跡ですか、」

 背後より、ただもどかしさも持て余し、漸く切り出す劇団演武陽炎座主宰の滝川夕刻が怒り心頭にも

「だからさ、小百合、挙式に前にあれ程新郎に、ウェディングドレス姿で会うなでこれかよ、なあ。この君達にジンクスなんて無縁だろうけど、ここ長くなるな、ここ迄にしよう。そう、瞬太の女性関係友好関係全部話しきったと思ったら、小百合は、子供の様に輝く白紅黄の羽根を持って一目散かよ、それは挙式が終わってからで良いだろう」

 小百合、口を尖らせては

「だって夕刻さん、私達の会話の悉くに相槌を打つかの様に、末の方が黄金に点滅するんですよ。これは高度な技術の瞬太のイタズラか、或いは、その、奇跡か、もう、全然わかんないですよ」

 瞬太、まじまじと白紅黄の羽根を見つめては

「いや、盗聴まがいでもそこまでコンパクトに出来ないよ、そもそも新婦控え室もの模様をしめしめと俺が喜んで聞くタイプかよ。そう唯一言えるのは、それ奇跡だから、」

 蜜果、ただ打ち震えながら、漸く小百合のウェディングドレスに右手を差し伸ばし、触れるのをただ憚りながら

「小百合さん、ああ、小百合さん、そのウェディングドレスって、まさか、いや、そのまさかですけど、神戸祈念ウェディングドレス一型、どう見てもオリジナルを何故着てるのですか、お母さんも、カイトウェディングも、最後の最後迄交渉したのに、まずは復興の象徴だから諭されて、結局は諦めたドレスが何故に、どうして」

 小百合、朗らかにも

「ああ、そこはですね、復興映像としてタッパのある私がかなり多く抜かれた経緯もあって、阪神淡路大震災後の復興取材として、アクティブレポーターの仕事も増えたので、まあ小百合ちゃんなら良いかのトントンです。後は関西ではこれの井筒屋醤油の親戚とも言えば、まあ自然とお仲間にでして、血族の御縁も有り難い限りです。そう言えば、これサプライズでしたよね。まあ小さい事は全然構いませんけど、ははあん、」我が身を忘れて豪快に綻ぶ

 夕刻、ただ大手ももどかしく

「そう、これだよ、神戸祈念ウェディングドレス一型の、必死の手縫いの三層構造の所以も何もかも知ってるから、迂闊に引こうものなら裂けるの目に見えてるから、勢いに任せたら止められるかって。そう、小百合、奇跡だって分かったら、新婦控え室帰るから。ああ皆は、ここのフレーム見なかった事にしてな、どんな幸せも逃す訳にも行かないからさ。ほらこの二人さ、放っておいたらどんどんヒートアップするじゃん、大人なのに、ここだけは少年少女のままも本当どうなの。さあここ迄な、良いから帰るから、小百合、なあ、」

 薫、不意に大窓の青天を見上げるままに、ふと

「皆さん、もう少しお待ちになっては如何でしょうか、お外はこの眩い黄金燐が降り注ぎつつ有ります。それに、小百合さんの着ていらっしゃる神戸祈念ウェディングドレス一型の裾が純白から黄金色に染まっています。直にいらっしゃるみたいですので、是非御目通りされては如何でしょうか」

 小百合、不意にウェディングドレス裾を丁寧にたくし上げては、はっと

「そう言えば、いつの間に裾が黄金に、何か踏んだのかなあ、ああまずいドライクリーニングで落ちるかな、」

 薫、神妙にも

「小百合さん、ドライクリーニングする迄も有りません。神戸祈念ウェディングドレス一型の三層を織り込んだ御針は、戦国時代に鳳凰自ら恩賜された御針を私達カイトブライダルの末裔が後生大事に備えたものです。白紅黄の羽根が黄色に輝くならば、即ちのご意向も有りましょう」


 過去何れの天候で判別もしようもない、黄金燐の瞬きが京極感謝冠婚葬祭式場の中庭大庭園を染め上げようかと。

 黄金燐まばらから、時機に降り注ぎ、大窓から望む中庭テラスはただ眩い限り。その合間の中に薄ら見えるのは、伝説に相違無い鳳凰雌雄に二対。皆が呆気にとられる中で、次第に黄金燐が止む中で、漸く凝視出来た御姿は垣間見えた大鳥も、今は見る程に広げた羽が、雌が4尺に雄が5尺の、共に比率が白紅黄と色合いが伸びた、常態化の鳳凰そのもの。

 新郎控え室一同、ここで我に返り、大窓に近ずくも、その行く手に塞がるのは海斗薫。

 薫、和かに立ち塞がっては発する

「皆さん、信じ難いでしょうけど、鳳凰の雌雄が遥々駆け付けてくれました。どうしても瞬太さんと小百合さんの挙式を見届けたいと思いますので、つい野鳥見物のノリで写真を撮ったり凝視しないで下さい。聖鳥に無粋な仕儀では、末代までの恥辱になりますよ」

 ただ、眠たげな双葉がロングソファーから起き上がっては目をこする

「おお、これは先程迄お話していた鳳凰さん達ですね。大きいのが皇紫雀天位酉さんと、ややは皇紅雀天位酉さん。気を使わなくても結構とは言え、まあ確かに中庭の立派な噴水は手入れして、お水は綺麗ですけど、折角の祝い事だから御神酒でもは、前に懲りたから結構って、ふふ、慎ましいのですね」

 瞬太、はっとしては

「双葉さ、あれか、失神してたのって、鳳凰雌雄と対話して、一気にスタミナ使ったそれか、」

 双葉、いとも容易く

「ええ流石ですね。飛び交ってる、さっぱり分からない古代語で掻い摘んでトレースしたのですけど、そこでバタンと。そこからは無意識の中に入ってイメージをトレースしては、次第に対話が入って、そうそうの御歓談ですよ。まあでして、朝廷から授けられた称号が本当長いので、今では紫雀さんと紅雀さんで、今ではお馴染みさんですよ」

 薫、急いでペンをバインダーに走らせては

「まさか朝廷の称号があるなんて、いや聖鳥ならば然るべしも、これは生家に戻って文献探さないと」

 双葉、くすりと

「薫さん、恐らく生家一帯の蔵を起こしても、文献は無いと思いますよ。まあ一番付き合いの長い利修朝臣さんが、かなりフランク過ぎて、鳳来寺から滅多に出ないのだから、文献も何もだろうで、日々風で織り成される山々のオーケストレーションに浸って日々だった様です。私は断然海派何ですけど、そういう楽しみ方があるなら山派も良いかなですよ。サボりまくった剛力輸送は、いや撫で肩なので苦手かな、」

 薫、ただ身を乗り出しては

「あの双葉さん、利修朝臣さんは、所謂口伝の利修仙人でいらっしゃいますよね、まるで何もかもは、いやそれこそが双葉さんの尊い黄金動なのですよね」

 双葉、微笑みながら

「ええ、利修朝臣さん、紫雀さんと紅雀さんのイメージ曰く自由過ぎて、漸くがなっては、朝廷なり大陸へと背に乗せて連れて行ったらしいです。普段から努めて入れば、朝廷の寮に入れたもののを口酸っぱく言えど、利修朝臣さんは鳳来寺で無事生涯を終えたそうです」

 小百合、はたと

「双葉さん、利修朝臣さんのそれはですけど、やはり私達に近しい誰かに転生しているのでしょうか、そうともなるとタクシー飛ばして連れて来ないと」

 双葉、顎を摘み頷きながらも、繰り出し

「いえ、どうやら、利修朝臣さんは、御神体のままの様です。身嗜みに精根傾けるのは、どうやら向かない様でこの世を照らしてるそうです。もう、ここ、大切な思い出の中の時折り振り向かれる長い髭無しのお姿がどえらい美男子なんだな、まあここは何れ趣味のクロッキーに起こしちゃうから、いつかお見せしますね」

 薫、双葉の両腕をこれでもかとがっちり掴み

「双葉さん、必ずですよ、それ絶対ですよ。お約束しましたからね。私達はどうにも生家を見つけ出して、子孫の方をお守りしないといけませんから、絶対ですよ」

 双葉、虹彩が金色に輝き黄金動が瞬く間に展開し、つい空返事のままに

「あ、はい、そう、そうなんだ。媒介で来ましたけど、利修朝臣さん、どうにも仙人が似合わないから末裔迄、それを紐付けるは止めて欲しいですって。ここですけど、どこぞの生霊の仕業では有りませんからね。鳳凰が仲立ちしていますから、差し込みは有り得ませんから。薫さんも、ここは私書止まりにしなさいとの事ですから、まあ私が注意を払えば良いだけですけどね」

 瞬太、ただ目を見張り

「双葉、凄えよ、開眼かよ、如来かよ、いや、あんまり盛り上がるとあれだな、ここはナイス黄金動にしておくか」

 双葉、乗りも良く両手を差し出して、瞬太にハイタッチを仰ぐ

「イエー」

 交わしたパンとの豪快の音で、この信じ難い成り行きで漸く皆が我に返っては、ふと。

 瞬太、不意に

「双葉さ、夢半ばの中はさぞ楽しかったと思うけど。むにゃ、会いたいって、その前後なんなの、誰に対して会いたいって、きっと大切な事なの」

 双葉、思いを辿りながらも、人差し指を右端で止め

「ああ、はい、バタンキュウして、夢と常世が繋がって、可愛がってくれた私のお祖父様のお話から、実は紫雀さんと紅雀さんが、今日態々鳳来寺から来られたのは、瞬太さんと小百合さんの晴れの舞台を見届けるためですって。何せ、瞬太さんは信長様の転生、小百合さんは帰蝶様の転生ですからね。過去安土桃山時代で本能寺諸共豪快に吹っ飛ばしては、情緒も何もあった事で無いですって。そして、ここ大事ですって。自ら死んでは涅槃で、どうしても深い眠りに着くので、常世に再びもあったものでは無いと仰ってます。紫雀さんと紅雀さんが切実な会いたいは、今日この日の瞬太さんと小百合さんの事ですからね。まあ結婚式前でややささくれだった事を話しますけど、この御縁再びを忘れぬ様にですって。ああ、でも何かとお話が長くなってしまう、これでもとても分かり易くお話していますけど、御両家にこれが響くものですかね」

 瞬太、小百合、同時に

「俺がな、私もですか、」

 薫、宥める様に

「全く、瞬太さんも小百合さんも。挙式前に、漸く悔い改めて、私こそと一息飲んでも、結局いつもの様に派手に押し問答されて変わらずと思いますよ。そう、どうぞ鳳凰の御霊に触れたままに、ここ挙式での下書きのスピーチご存分に変えても結構なので、どうか、いえくれぐれも、お幸せになって下さい」

 瞬太、気もそぞろに右耳を右手でそばだてては

「ん、薫の御言い付けその通りなんだけどさ、何か聞こえ無いか、どこだ、」


 一同静まり、仄かに聞こえるコーラスの響を漸く捕まえる


 小百合、はたと

「これは、Frank Sinatra、Fly Me To The Moonですか、揺れるリズムなのに、コーラスがブレませんね、」

 繁房、軽く溜め息吐きながらも

「中庭は、うちだね」

 夕刻、ただ深く悶えがらも

「ああっと、ずっと警備かかりっきりで、練習してなかったから、ここか、ここで練習か。でもさ、まあ、真面目だよね、俺達劇団演武陽炎座も」

 薫、バインダーをパラパラと捲りながらも

「困りましたね、ほぼサプライズを新郎新婦さんに、判別されてしまいました。まあ披露宴本番になれば、それはそれでの完成度が上がって来ますから、ぐっと来ますかね」

 双葉、虹彩が金色に瞬くままに

「紫雀さんと紅雀さん曰く。昔聞いた、昭和最後半の帝国ホテルでのFrank Sinatraのショーよりは迫力あるとの事です、やはり来て正解だったとの事です」

 瞬太、くすりと

「良いね、俺迄も褒められた感じで良いよね。小百合さ、ハネムーンは月にでも行っちゃおうか、って、宇宙だと静か過ぎて、5分も持たないか」

 小百合、ただ憤慨しては

「これですよ、全く、自ら言いぱなしのノリ突っ込みで、折角、ほろっと来そうだったのに。まあ、サンフランシスコに行ったら、否が応でもロマンチックにさせて、見事な家庭人に仕上げてますから」

 双葉、はっとするも興奮気味に

「あっと、いや、それ、その月、まさしくFly Me To The Moonなんですけど。昔、勢いに任せて、利修朝臣さんと、月に迄行って、満点の地球を眺めて帰還したそうです。一刻が限度ですけど、おめでたいから行きますか。との事ですけど、いや、しまった、言うべきではなかったけど、良いって、うーん、そうかな、何かな、」

 瞬太、大きく身を乗り出して

「よっし、乗った、日本人初の月面新婚旅行は俺達だぜ、」

 小百合、手に大きく腰を当てては鼻息も荒く

「ああもう、瞬太さんはこれだから、本当に。紫雀さんと紅雀さん達曰く、一刻ですよ、ほんの瞬間、宇宙空間で息を止めての刹那なのに、瞬太さん、あなた、絶対興奮してはしゃぎますよね、そこで酸素ゼロですよ。冗談ではないですよ。月面新婚旅行大失敗が目に見えてますので、絶対に行きません。私はその、まだ死にたくないな、人生って幸福が一杯なんですよね、それを瞬太さんと一緒に歩みたいです、」

 蜜果、ただ口を両手で塞ぎながら、嗚咽交じりに

「もう、ごめんなさい、これ以上は軽く5年分の涙がここで出そうです。そうだよ、一兄ちゃんたら、まるで自分の振り返る事ないし、そうなんだよ、小百合さんと本当に幸せにならないと、」

 瞬太、ただくすりと

「ミッツもか、いつ迄俺達を心配するなんて、ある意味で気の毒だよな。もうさ、挙式はもうすぐだから、もう少し我慢しなよ、ここで泣いたら、小百合ももらい泣きしそうだって、って、」

 小百合、もはや泣き崩れ寸前

「もう、遅いです、お化粧は、そうベールは新婦控え室にあるから、いくらでも泣けます、もうこれなら素っぴんにしないと、ケアが間に合いそうにないです、」

 夕刻、瞬時に小百合を抱きかかえ

「もう、ここ迄しよう。な、本日はさ、織田家土岐家の結婚式の単独貸切で、パンフレットに終了時間書いてないから、披露宴で思いのたけ、エンドレスの何処迄も付き合うぜ。それじゃあ皆、また後で、」


 夕刻踵返しながら、両腕に乗った小百合は神戸祈念ウェディングドレス一型を懸命にたくし上げて、微かに光源が散る中、新郎控え室を勢いよく飛び出して行く。


 瞬太、ただ思い深く

「まあ何だな、今日迄の事件で、サプライズとはなんぞやになってしまったな。あれだな、困った時は自ら身体張るしかないよな、シンクロヴォーギングを皆でひと暴れのそれだな、競泳水着履いてきて正解だよ。hey,DJ shingo.手堅くCandy DulferのSax-A-Go-Goでとことん行くぜ、」

 繁房、ゆっくり頷くも

「バイナルは準備してる、それはセーフ。ただ歌詞が不謹慎かどうかで、バイナルボックスがカイトブライダルに検閲されて2/3取り上げられたから、ミックスは努力する」

 蜜果、ただ眩暈のままに

「駄目だ、もう、あれがそれで、皆乗り乗りだよ。個室控え室訪問に行っても、もう至ってサプライズ練習で、もう披露宴が想像絶しちゃうよ、」

 瞬太、ただ不遜に

「全く、笑って泣いて、最高の日和なんだろうな。もうサプライズが何でもokだぜ」

 薫、ただにこやかに

「あれと、そうですか。本当に呆れました、意外と気付かないものですね。そこは結構です。後程結婚式で驚いて貰います」

 双葉、激しく両手をポンと叩き

「それです、それでした薫さん。まだ今年の事なのに、はあ、もう、」

 蜜果、涙を拭いながらも

「確かに、そう簡単に消滅はしませんよね、はあ、もう胸が一杯なんだよ、」

 薫、バインダーを上げては、微笑みを隠し

「お気付きの皆さん、ここ、呉々も内緒ですからね」

 瞬太、くしゃりと

「まあ、女性でしか分からないなんて、結婚式とことん深いな、とてつもなく良い事だぜ」

 薫、不敵にも

「瞬太さん、ご満足はまだ半ばですがお喜び頂き有り難うございます。今後とも、カイトブライダルを何卒ご贔屓にお願いします」

 薫のペンが、バインダーに書かれた8つのサプライズの最後の一つの項目の二重線を訂正し復活させる。


【鳳凰の御徳による、神戸青空結婚式で披露された、神戸祈念ウェディングドレス一型の全身のプラチナの輝きが再び輝く。】


 運命こそが、また新たな奇跡を紡ぎ出して行く。そう、今日と言うとてつもなくお目出度い結婚式は、長らくも固く約束された事であったのだから。


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おれの女は帰蝶だけ 判家悠久 @hanke-yuukyu

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