第14話 1993年6月9日 東京都新宿区四谷 Destiny

 時は悠久を跨ぎ、1993年6月9日水曜日の、仄かに赤い雨上がりの空が望む16時を程よく超えた時分。今日のここ東京都新宿区四谷の街道に居並ぶ人波は、皇太子徳仁親王と小和田雅子の結婚の儀における御成婚パレードを一目見ようとの活況に尽きる。

 四谷の街道筋で、すったもんだを繰り広げる、ただ微笑ましいハイカラな兄と妹のやりとりは軽妙にも。


 新緑のオートクチュールのレディーススーツを来た、別嬪そのもの織田蜜果、ただ切に

「もうね、流石にこの人混みでしょう。一兄ちゃん、お母さんが前乗りして確保した沿道に戻ろうよ、何を頑なになってるかな、」

 新調の濃紺のオーダースーツに白と銀の幾何学ネクタイで気合い入りっぱなしの、天然の緩いウェーブをびしっと固めあげた織田瞬太、ただ頑と

「ミッツ、良いんだよ。良いか、この交差点にぐっと入りたての、皆が笑顔で歓声で、皇太子様と雅子様が、良いか絶対ぐっと来る筈だって。それさ、オーガナイザーの俺の勘はどうしても格別だろ、俺達もぐっと来るって、」

 蜜果、さもうんざりに

「さてね。そのオーガナイザーも、一兄ちゃんがジュリアナ東京を去ってから、盛り上がりが青色吐息らしいよ。まあね、お立ち台でボディコンに見せパン見せつけては、ハッともそこそこらしいけど。一兄ちゃんが大立ち回りからいきなり去ってはさ、皆色々察し過ぎちゃうよね。人気の黒服の無限さんも退屈で去った事もあるし、人づてにジュリアナ東京はどうしてもマンネリの雰囲気だってさ。でもかな、何時迄もアパレル大手尾張美装の次期社長の織田瞬太マーケティング部長様が、今となっては如何わしいジュリアナ東京のVIPルームで日毎にどんちゃんだったからね、頃合いで良いよ、結局ね」

 瞬太、一笑に付しては

「ふっつ、大立ち回りは、そりゃするだろう。あろう事かイベントディーヴァの讃良に今晩一発どうとか、一部上場の万年筆メーカーのやさぐれサラリーマン達が気安く声掛け店じゃねえよ。それだけじゃねえよ、双葉のハイパーダンスの何処にエロス感じるものだよ、双葉基本強く言えないから、黙るじゃんよ。あっと、もか、一茶さんの佇まいにも、しつこい程にテキーラ勧めるとか。まあじゃすまえないけど、日本のサラリーマンは何をしたいんだよ、バブルは終わったんだろ、しっかり本業に邁進してくれよ、」

 蜜果、目を細めながらも

「一兄ちゃんはよく言うよ、その一部始終のはったりかます前に、双葉と双璧を成すかのシンクロダンスの様なしなりに手数重ねては揉み合いだもの。全くあの時黒服の無限さんが間に入らなかったら、間違いなくぶん殴ってたよね。そもそもで言えば、皆恋人でも無いのに、そこまで一兄ちゃんがむきになるものかな。と言うべきか、きちんとお上品な恋人作っておかないと、お母さんに本気で政略結婚させられちゃうよ。言うね、私そういうのでお姉さん御機嫌様とか、実家で表情延々作るの無理だからね」

 瞬太、口ごもるも

「あっと、ミッツはそれ聞いてないか。辛うじて讃良はセーフの筈だけど、まあ言い難いけど言っとく。千隼と讃良は早い内に婚約するよ。お母さんも目ざといと言うか、名門織田家と品格の成田家なら願ったり叶ったりだってさ。まあな、弟の千隼に結婚を先に越されるって事は、俺の次期社長も危ういかな、」

 蜜果、ただ得心しては

「おお、全く気が早いなお母さんは、ただ次期社長のそれは、どうかな、二兄ちゃんも見た目美丈夫も融通きかない堅物だし、でもそこなんだよね若いのに見所有るわで、社内社外も幅広い支持層がいるんだよね。まあ一兄ちゃんのアイディアと束ねる手腕は買われてはいるけど、根がばさらだしね、ちょっとの敵はいても愛嬌なんだけど、いざどうなのかな。敢えてそこかな、お母さんとしては何時でも社長候補を変えられるってアピールなんだろうな。まあ相変らずそこは食えないから、一茶さんにそことなくお母さんを窘めてもらおうかな、」

 瞬太、不意に髪をかきむしっては

「そこな、血縁浅井家の一茶さんと言えどな。半年前に元春さんがジュリアナ東京と絶縁した俺達の為に脱サラしては麻布六文銭を中ホールクラブとしてオープンさせてくれただろ。ただな、元はフレンチビストロ物件で煉瓦造りも上品で完全防音の上質物件、ダイナーにフリーの里子さんを招いて評判勝ち得て、そう、ここ大切、帝国ホテルシェフの一暉さんの太鼓判あったとしても、それとなくそこ迄の資金は真田家では無理でしょうと聞いたらさ、一茶さんと共同経営だってさ。まあ浅井家の辣腕なら日々とんとんかなと思っていたんだけど、一茶さん酔っ払って帰るのが億劫になったから元春さんと里子さんと無限さんと四人で3階の住居に居ついてるあれでさ。そんで、元春さんに聞いたよ、四人姦しくてもそう言う仲なのって。一茶さんのそこは押しかけ女房然だってさ。そんな流れから、何でも一茶さん何時迄も賃貸料払うのが無駄と思い立っては、尾張美装社長のお母さんに、一生尾張美装で働くのを担保で麻布六文銭の建築丸ごと買って貰ったってさ。まあな、元春さんは新進気鋭の創作料理家だし、一茶さんも有能すぎるほどの総合営業部法人営業課課長さんだし、この人材一帯を尾張美装に取り込めるならお安いものさ。と言う前置きが長くなったけど、麻布六文銭の面子は何かと、お母さんには頭が上がらなくなってしまってもあり、まあお気に入りのジャズクラブに通えるなら、やや聞き分けも良くなるよ、尾張美装の女傑社長に俺たちばさらはさ、」

 蜜果、膨れっ面のままに

「ふっつ、お母さんってば、そう言うお金にまつわる大切な事は私には言わないよね。と言うべきか、尾張美装の資産ってどれだけ持ってるのよ、」

 瞬太、さもうんざりに

「さあな、生家尾張に蔵が十二棟もあったら、そりゃあ、見た事のない美術品もあるだろうよ。融資銀行が安易にも目録作ったら、ハイエナの様な外資系金融機関が寄って来るからな、皆の口はどうしても硬くなるさ。まあ結果、いや当然お母さん以外は大資産は誰も知らん訳よ」

 蜜果、思いを巡らしながら

「とは言えね、何とか、七の棟迄は潜り込めたけど、まあ子供だったら、然程お宝に関心が無かったから飽きちゃったのも、今となっては後悔かな。いやそれさえもお母さんの掌で転がされていたのかな、その先の棟は、ふむ、」

 瞬太、まんじりともせず

「それで良いんじゃないか。俺、千隼、ミッツで遺産争いなんてしたくも無いし巻き込まれたくも無いよ。おおよ、何より今日は晴れがましいんだ、お家の話そこ迄にしようか、話が尽き無いって、本当」


 瞬太と蜜果が一息着いたその間に、急に真ん前の、六尺に及ぼうかのパンツスーツの背の高すぎる童顔寄りのショートの若き女性土岐早百合が振り返っては、視線も厳しく。

 小百合、淡々と

「もうと、直背後の方々、お話は終わりましたか。兄妹は仲良くは非常に良く分かりましたが、このお目出度過ぎるパレードの前に、お話が武勇伝に御家騒動では溜め息しか出ません。これは遥々岐阜から出てきた私への当てつけですか、」

 瞬太、眉を潜めながらも

「つうか、真ん前で、でけえでけえとは思っていたけど、女かよ、いやその身なり男だろ、そう言うのどこのモードなんだよ、なあ、」溜め息混じりに「まずはさ、折角の成婚パレードでハイヒール履いて来るのが、ただ迷惑だよ、まずはハイヒールをご丁寧に脱いでから、皆の迷惑にならない様にご覧あれだろ、」

 早百合、さもうんざりに

「もう、大推定大混雑にハイヒールを履く勇気は有りませんよ、これでもパンプスですって。ああもう、こんなんではいつものノッポネタになるの展開ですか、」

 蜜果、まじまじと早百合を覗きに込んでは、はす向かいの四谷のビルの特大屋外看板の総合スーパー生駒井筒屋の弓道着姿広告と見比べ

「あっと、そう、知ってる、このバブル崩壊でも上方から関東圏に進出してきた、品揃え優秀のスーパーの生駒井筒屋さんのモデルさんだよ、この方は。ほら一兄ちゃん、CMの弓道でも、遠矢が見事命中で、全てにおいて一切外れ無しのモデルさんだよ、何だっけ、ほら、あれ、そうそう早百合さんだよ、はっつ、でも、目の前のいかついお姉さんは、髪はショートだけど小百合さん、ですよね。女子であの強弓弾けるのかで、食卓でつい話題になるじゃない、くー、ここがついの武家筋だよね。一般家庭では全く伝わらない、そのCMの深みと言うべきか、そう、早百合さん、凄い女子ですよ、これはそう、間違いなく褒めてるからセーフ、」

 早百合、驚きも隠せず

「これはこれは、私のファンの方ですか、改めまして、土岐早百合と申します、」改めて深くお辞儀しては「縁故から断れず誘われるがままに、モデルをしては、上智大学を無事卒業するも、やはり実家に戻され、是方叔父様の生駒井筒屋岐阜店のレジ打っております。そして時たまモデルの依頼があればお受けしております。ふふ、それでもただ日々充実していますよ。本日は実家土岐家の大声援を受けて皇室にやや遠すぎる程の血筋ですけど、次期土岐家当主ならば必ずや見届けて来なさいとの事です。こんなところで、良しなにですね」

 瞬太、ただ訝しげに

「全くさ、お前があの土岐早百合なのかよ。そのショートに何かがっかりだよ。アルマーニのモデル時代のロングで頼むからどうにか維持してくれよ。つうか、今現在、時たまモデルって、どこのプロダクションなんだよ。うちの尾張美装のマーケティング部全員の伝手辿ったけど、お前所属不明のスーパーモデルだよ、良いから連絡先教えろよ、」

 早百合、吹き出しては

「はは、おかしい、お兄さん、怒ってるのに私のファンだなんて。ええと連絡先は、いやこれってナンパなのかな、お兄さん軽薄ですよね、」

 蜜果、透かさず割り込んでは、二枚の名刺を差し出してはお辞儀し

「早百合さん、ご紹介遅れました、私ミッツは織田蜜果で尾張美装のコンサルタント室長です。一兄ちゃんの織田瞬太は尾張美装のマーケティング部長で有り、軽薄でも役職は有りますので、御面識も深い程にお願い申し上げます」

 早百合、丁重に瞬太と蜜果の名刺を受け取っては

「成る程、国内大手のアパレルさん尾張美装さんなら、モデルさんは生命線ですよね。そう東京コレクションの楽屋裏では、何かと尾張美装の織田和枝社長に発破かけられましたし、打ち上げでも、そう行きましたよ寺田倉庫の東京ファンタジックナイト。いや司会のお洒落なお兄さんにまたもお会いしたいものですよ、あの無造作緩いウェーブが結構タイプですよ。ふふ、いや待って下さい、まさか、」瞬太の腕を一瞬にして引き、透かさず整えた髪の毛を無造作に広げてはハッと「あっと、ここに、いちゃった、」

 瞬太、手櫛も入れようともせず、仏頂面のままに

「たくよ、成婚パレードの為にハードジェルで固めてきたのに広げるなよ。俺のお祝いへの誠意が容易くも崩れただろ、」手持ち無沙汰も自らの髪の毛を弄るのを諦めては「そう寺田倉庫界隈な。お母さんから、東京コレクションの為にもっと頑張れを受けての、打ち上げの東京ファンタジックナイト等々に奔走だよ。本当バブルが弾けてで、バトルの余興のビンゴの、賞品どれだけ集めるのに苦労したか、それで、何か良いもの貰ったのかよ、」

 早百合、嬉々と

「ああ、それですね、行きましたよ、天王洲アイルの劇団演武陽炎座の公演:Tokyo Serious Joe Ⅱ。もう、座長の滝川夕刻さん凄いキレで格好良くてもう最高ですよ。実に勿体無いな、公演にばかり集中してないで、連続ドラマにも出てくださいですよ。もう田舎に戻ったら名古屋に出ない限り、テレビとレンタルビデオが娯楽ですからね、ふう、」

 瞬太、さも満足気も

「流石は夕刻さん、様様だよ、そんなにプラチナチケットに満足してもらって、俺も頑張った甲斐があるって事さ、」

 蜜果、瞬太へ直ちに軽い肘打ちしては

「一兄ちゃんは良くも言うわよ。代官山界隈の演武陽炎座の評判も碌に聞かず、またノルマチケットかって、ぞんざいにしてたのに、」忽ち破顔に「でもまあまあかな。ここでお互い運命の出会いしたのなら、募るお話もあるでしょうから、暫しお若い二人にお任せします。私はちょっと、お母さんと長らくお話ししている怪僧さんの様子見てこないと、」

 瞬太、神妙にも

「怪僧ってあれか、お母さん露出多いから、お布施にとか強請られてる系かよ、本当湧くよな、ぽっつぽっつって、」

 蜜果、逡巡するも

「そこはね、ちょっと雲行きが違うかなって。怪僧さん自称術回さん何だけど、ふらっとお馴染みさんの様に寄って来ては、お母さんを見ては土田御前様だって、二兄ちゃんを見ては秀頼様、双葉を見ては豪姫様、讃良さんを見ては甲斐様、一茶さんを見ては茶々様、そこから私を見ては於市様、だって。もう私が於市様だって爆笑だよね。思わずポーチのポチ袋に触れちゃったよ。本当取り入るの上手いなと思いつつ、やけに歴史に詳しくて、そこまで古文書に乗ってるかなの識学何だよね。お母さんも何を察し過ぎたのか、フォトミニアルバム出しては何となく和やかになっちゃって。もうね、夕刻さんを指しては彦左衛門、元春さんを指しては源次郎、一暉さんを差しては高吉様、里子さんを差しては早半兵衛、無限さん指しては慶次、終いには宝生さん指しては猿だってさ。安土桃山絵巻を呈してるよ。お母さんがべらぼうな小切手切る前に、ちょっと見てこないと、この手って、尾張の菩提寺周辺を出されたら、無制限だからね」

 瞬太、吐息交じりにも

「そうか、ミッツが於市は行く行くとしてだな。まあ術回のそれは宗教絡みじゃなく、決算時期にやってくる、自称美術鑑定家の講釈代のそれとかだろう。今日は成婚パレードだから、その識学で話足りそうに無いなら後日離れに来て貰えよ、今日は親族仲良くだから、頃合い見てお引き取りをだ、」

 蜜果、はきと

「一兄ちゃんはごもっとも、お母さんに術回さんの間に入って、それとなく諭してくるよ、」踵を返すも「それと、一兄ちゃん、早百合さん、仲良くね、ここきっとね、」

 瞬太、不意に

「仲良くな。それと早百合のパフュームなんだけど、それなんなの調合香料油の香り無いけど、それって君から溢れ出る香りなの。何と言うかDNAレベルで、何か懐かしい感じ、」

 早百合、逡巡しながらも

「瞬太さんは大げさですね。まあ何となく、分かっちゃう方もいるのですね。この香りは、産湯に入れられる前から百合の香りだったそうです。小学校に上がった時は、悪ガキ連中と一悶着しましたけど、まあ香りが自然なので自ずと慣れての今日です。もっとも、」不意に渋茶のバーキンから携帯香水瓶を差し出しては「この小瓶の中に入っているのはkicho、日本語で帰蝶と言う名のマニラのペルフーメ・マヌエルの香水で私と限りなく近い程の香りです。そうなんですよね、会見する度に私のそのものの香りですの前提でお話しすると非常に長くなるので、これは帰蝶の香りなんですよとお話ししています。日本は香りを楽しむ文化が成熟してないので、まま大変ですよね、」

 瞬太、食いつくように

「それ、kicho、帰蝶の香りって、売ってるものなの。マニラでテスターとして買いに行ってこようかな、」

 早百合、はきと

「ああ、そこですね、取引は色々難しいかな。以前ヴォーグ・アジアの特装雑誌の撮影でビガンに滞在して、奥まったショップに飛び込んだら、仄かにああ私と同じ香りだと思って、店主兼社長兼栽培師兼調合師の柔和な日系のウコン・フェルナンデスさんに聞いたら、逆に驚かれまして。実は日本のキリシタン福者高山右近がマニラに持って来た、どうあっても滅多に咲かない帰蝶の百合を今調合していたところに、君が来たのは何かの縁だねになって、帰蝶のパフュームは早百合が持つべき巡り合わせだって、そこから心情的に売れない帰蝶を何本か頂いてしまいました。ウコンさんと言うくらいですから、高山右近さんの子孫さんなんでしょうね。まあ気さくでは有りますけど、ご自分の世界を持っている方なので、商売では取っ掛かりがどうしても難しいとは思いますよ、」

 瞬太、得心しては

「帰蝶のパフュームね。いやこれって流通しちゃいけないよな、早百合の雰囲気だからこの佇まいが成り立つのであって、うっかり一般女子が噴霧したら主張だけが浮いちゃうよ、本当無理じゃね、」

 早百合、複雑な顔も

「そう来ますか。出会い頭に喧嘩しておいて、あっさり認められちゃうのも、何かなですけど、瞬太さんのそこは結局お上品な性格なんですね。尾張美装と言うべきか、行く行くは経済界を切り盛りしちゃうのかな、そう何となくの予感ですけど、」

 瞬太、思わず歯がゆくも

「頂きとかって、俺がそこまでの器かよ。つうか、早百合さ、今日は何処に泊まるんだよ。ああ、ここは押しかけるとかどうかじゃなくて、うちら一派の帝国ホテルのディナーにも是非付き合って、二次会の麻布六文銭にもついて来てもらうから、夜が更けても安全に送迎出来る都内が望ましいんだけどな。言っておくけど織田家諸々のそれは実にフランクだから、気負わずで構わないからな、勿論接待だから財布一瞬でも出すなよ、」

 早百合、さもお手上げに

「全く既に組み込まれる、私の重ねがさねの宿縁ってですよ。宿泊先は白金の都ホテル東京ですよ。是方叔父様のキープルームがあるので今回の成婚パレードは実に助かりました。同じ港区では有りますけど、麻布ならタクシーで容易に帰れますが、日を跨いでのどんちゃんは無しですよ。ここ岐阜の実家に帰ったら尾張美装さんの名前出しても怒られますしね」

 瞬太、くすりと

「小百合は何を言ってるの、どんちゃんは無いって、クラブの麻布六文銭は今や若手ジャズマンの登竜門だって、レイブパーティーなんてもう飽きてしまったしな、」

 早百合、前のめりにも

「おお、私は今流行りのアシッド・ジャズも行けますよ、U.F.O.、ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイションとかもDJに来ませんか、もう下旬の新譜が凄く待ち遠しいです。そうですよね、ジャッズ、ハッピーになりますよね、」

 瞬太、そっと早百合を空で押し留めながら

「まあまあ、DJチームは伝手辿って打診するから、何時かの上京の時迄待てって。そうだよ、フライヤー送るにしても、まずは連絡先だろ、そう事務所どこなんだよ、ここ絶対聴きだすからな」

 早百合、思い倦ねながら

「まあ、そう、連絡先は、いきなり岐阜の実家も何ですし。104で生駒井筒屋岐阜店の電話番号聞いて、電話して私土岐小百合を呼び出して下さいよ。いや事務所そのもので言うとエージェンシーには所属してないので、是方叔父様の社長室が良いかな。それが良いですよ、気さくな方なんでお話に花が咲きますよ。生駒井筒屋大阪本社社長室であっても、織田瞬太尾張美装マーケティング部長さんならばようこその筈ですよ」

 瞬太、くすりと

「待て待て、井筒社長が早百合の伝言役って、生駒井筒屋関東圏進出でそれはもう忙しいのだろ。俺が経緯迄話たら絞られるに違いないって、」

 早百合、神妙にも

「そこは良いんですよ、生駒井筒屋の関東圏スタッフ足りないから、岐阜から出て来いって誘われてますし、パレードで身綺麗なお友達出来たとも事前に伝えておけば、やっと話に乗ったかで伝言役でも大歓迎の筈ですよ。と言うべきか東京、そんなに楽しいですかね、」

 瞬太、はきと

「楽しいも何も、これからの東京は、世界都市の中心になる発信源になる。それはセンスだけではなく、日本文化も昇華しなくてはいけないし、何より若手の何度でものチャレンジが要求される。その為にも、尾張美装は土岐早百合を諸手を挙げて大歓迎する、とっとと上京して来いよ、」慇懃に右手を差し伸べては握手を求める

 早百合、応ずるがままに瞬太と握手しては

「ああ、何となく握手してしまいました。瞬太さん何か凄い正論言ってますけど、私にそんな才能有りますかね、」

 瞬太、爆笑しては

「有るに決まってるだろ、その早百合を探して探して今日だよ。やっぱりさ、おめでたい事って、どうしても続くんだな、」


 沿道の観衆を掻き分けて来るショートヘアー女子が時折頭を飛び出しては伺い、視線が合っては歓喜に咽ぶ。それは瞬太のダンスパートナーの快活な前田双葉。

 双葉、さも楽しげに

「いたいた、瞬太さん。ふふ、ミッツの言う通り、いつもの取り巻きの系統とは違うけど凄い美人さんと一緒ですよ。早百合さん、握手も長く、瞬太さんと早くも仲良き事は良い事です。うんうん瞬太さんと何かしっくり来てますよ、」

 早百合、はっとしては

「あっと、つい握ったままでした、失礼しました、」咄嗟に右手を引っ込める

 瞬太、はきと

「なあ、双葉もいきなり囃すなよ。あっと早百合さ、こいつは前田双葉、打ち上げに参加してるなら、ダンスバトルで抜きん出てるの見てるよな。人懐っこくて、故合ってどうしても距離が近いけどそこはよろしくな、」

 双葉、丁寧にお辞儀しては

「ただ今ご紹介に預かりました、前田双葉です。昼間は実家の前田造花の売り子で頑張り、夜はクラブでダンス武者修行を頑張ってます。はは、一日中頑張ってますね、まあ若いから良いか、」不意に鼻をつんと上げると「これは、ちょっと待って下さい、この香り、帰蝶の百合の香りですよね。早百合さん、凄い良い香りですよ、ぎゅっとして良いですよね、」がばと早百合にしがみ付く

 早百合、唖然とするも成すがままに

「ええと、双葉さん、帰蝶の百合って、何故帰蝶を知っているのですか、」

 双葉、深く息を吸っては香りに酔いしれ、ただ夢心地に

「知るも何も、帰蝶の百合は前田家で大切に育てています。東京にも加賀右近庭園から苗を何度か持ってきたのですが、なかなか根付いてくれないのですよね。やっぱり加賀の雪深い環境じゃないと駄目なのかな。ああ、もうすぐ開花時期ですね、今年も運があれば楽しみだな、」ふと見上げては「それにしても、本当に帰蝶の香りの方っているのですね。前田文庫で古文書も見返したのですけど、高山右近さんの記述がファンタジック過ぎて、どうかなと思っていたのですよ、」

 早百合、微笑みながら

「やはり、高山右近さんですか、帰蝶の百合は加賀以外にもビガンでも栽培されてますから、環境に即した品種改良は出来るものなのですね、」

 双葉、ただ興奮隠せず

「おおっと、凄い情報貰っちゃった。ビガンはフィリピンですよね、ルソンですよね、確かに福者高山右近さんが国外退去になった地ですよ。これは是非とも行って教えを請わないと。早百合さん、有難うございます、って詳細聞いてないや、はは、」

 瞬太、早百合と双葉の間に割り行っては

「もうハグはそこまで。女子だけど互いにボーイッシュが抱き合っていたら皆の関心引いちゃうだろ。そこは後で座を用意してるから、そこでな、存分にしてくれ、」不意に周囲を見渡しては「それで、ミッツはどうした、それにこの手は讃良も来ないとおかしいだろ、」

 双葉、訥に

「ああ、ミッツは和枝さんの特別なお役目でおめでた過ぎる金の公衆電話に噛り付いたままです。凄いテレカの数を持っていましたから尾張の生家にお電話ですかね。讃良さんの振り切れるご気性はそのままでしたが、同じく和枝さんからご成婚パレードにあやかりなさいで千隼さんと仲良く待機しています。ここは余りに微笑ましくてふふにしておきますね、」不意に見渡しては「それと、術回さんの事は聞いていますよね。是非瞬太さんにもお会いしたいって。私についてきたのですけど、どこで逸れたのかな。お坊さんの割には上背があってがたいも良いので見渡せば見える筈なんだけどな、」ただ手でひさしを作ってはぐるりの末にはたと「あっつ、いた、電気屋さんの展示テレビ見てる、」一際声を張っては「術回さん、ねえ、こっちですよ、逸れないで下さい、ねえですよ、」

 銀髪の坊主頭で長身がたいの良い老僧術回が振り返りながら、気さくに手を降っては歩み寄って来る

「双葉さんにこの仕儀とは、これはこれは失礼しました。いやあテレビもカラーですしステレオ放送ともなると、俄然迫力が有りますな、」

 瞬太、ほくそ笑んでは

「お坊さんもさ、日本は平和で本当に良いよな。今日は何て言ったって御成婚パレードだし、一緒にご拝顔仕ろうぜ、」

 術回、微笑みながら得心し

「成る程、これは確かに目出度くも懐かしくて、拙僧も図らずも涙が出そうです。信長様事瞬太さんで宜しいですな、確かに日本は平和も、いや今日はお目出度き席故にここまでしましょう、」

 早百合、不意に顔をしかめ

「術回さん、その理性は、クウェート侵攻の吝嗇のそれですね。あの様なレポートは本当なのでしょうか、そこまで男性は猛き者になるのでしょうか、」

 術回、小百合をまじまじも神妙にも

「これこそは、いや失礼しました。帰蝶様事早百合さんですな。勿体ぶった言い様で失礼しました。戦の多くても少なくてもは、獣の本性が出てしまいます。ただ、ここは平和な日本、ここまでにしておきましょう、」

 瞬太、双葉に肘で小突きながら

「おい、双葉、いつものあれ、」

 双葉、一瞬瞳の虹彩が黄金に輝くも

「無理無理瞬太さん、私の微力じゃ見きれないですよ。思考力の目まぐるしい瞬太さんでも追うのがやっとなのに、術回さんのそれはとてつもの無く長い絵巻物そのもので、もう何やらです、」不意に瞬太の両頬をむんずと掴んでは「ふっつ、やっと油断しましたね、」額と額が密着し鼻頭が擦れ合う程に寄せては虹彩がここまでかと黄金に輝き黄金動が展開する「ふむ、やはり、小百合ラブなのですね。分かりますよ。ぎゅっとの胸の弾力性が堪りませんからね、」

 小百合。鬼の形相のままに瞬太と双葉を引っぱがし

「ちょっと、双葉さん、そんな黄金動の使い方はないですよ。そう言う小難しいのは、瞬太さんに言わせての女子の本懐ですよね。ああ、このニュアンス言っちゃった。はあと、ここ、是非カットでお願いします、」顔を伏せながらも両手でハサミをちょきちょきと

 瞬太、くすりと

「全く、双葉も人前で0距離は止めろ、効率良いのは聞いているが、皆が誤解するだろ、」

 小百合、ただ頭を抱え

「ああ、その様子何度もっぽい。いや、東京ももはや世界都市、ハグキスも有りは有り、そう言う事で、」軽く咳払いから「えへん、気をとりなしました、それで術回さん、私が帰蝶さんとは、何故に歴史上の親戚筋の名前で呼ぶのですか、」

 瞬太、訝しげに

「小百合も待てよ。その前に、何で小百合が黄金動を知ってるんだよ、どこの家の筋か言うのが礼儀だろ、」

 小百合、きりと見据え

「土岐家の名を語った以上、お察しして貰えるかと思います。斎藤道三家の主家筋でも有り、織田家に嫁いだ帰蝶様にも通じていますので、政争の上位のお話は今も伝わります。これ以上黄金動を語るのは怪力乱神を語らずが世の常かと思いますが、平成はそこまでオープンでは有りませんよね、」

 瞬太、ため息も程々に

「まあ、帰蝶も、じゃなくて小百合も、一線を弁えてるなら良い、」ゆっくり術回に向き直り「それで術回さん、あんたは何者だ。日本最高峰のタレント霊媒師とは一線を画すよな。なあ、」

 術回、慇懃にも

「拙僧は見た事しか表現出来ませぬ。黄金動は少々齧るものの、ご拝顔の限りを申したままです。それによって何れ辿るべき道にも光明が照らせばと言葉を添えてございます。最も、それではお話を端折ってしまいますね。ここは歴史の一端をお知りたいのであれば何でも申しましょう。最近のお勧めはアフガニスタン紛争一部やや始終でしょうか。それは長い行脚でございました、」

 小百合、ただ溜め息も

「もう、アフガニスタン紛争も旧ソ連の撤退で近年終結した戦争ですよね。どうしても古文書を紐解いた理性的なお坊さんじゃないですか、叡智の端々が溢れてのそれですか」

 術回、困惑しつつも

「小百合さん、いやここは日本国民ほぼでしょうか、アフガニスタンの彼の地は終結とは未だかの係争中です。どうしても日本は平和ですな、既に11年も全戦力を注ぎ込んでは終始膠着状態ですよ。時間の経過と共に憎悪は増し、アフガンゲリラはその上げた拳はそうは下ろすまいです。彼らは何れ世界を相手に舞台に上がってくるのは必定、日本も何時迄も高みの見物では済まされません。それ相応のご覚悟をして置くべきかと存じます」

 双葉、慌てふためいては

「あっと、ここまで、ここまでにしましょう。瞬太さんはこの手のディスカッション最強ですから、和やかに。そう、術回さんテレビはそんなに興味深かったですか、皇太子様と雅子様は御所を出られましたか、そうそれです、」

 術回、はきと

「それは未だ準備のご様子です。ただその間にも流れる取材映像が、ただ懐かしくも頼もしくも有り、良き事は連鎖するものです。上方デパート松丸百貨店女社長松丸様事京極澄子社長の渋谷カジュアルテナントの目敏さと来たら若者も色めき立ちますな、長崎デコレーション女社長森羅事根津橙子の恩賜和菓子の長崎カステラも見事な出来栄え、日本航空の政府専用機双子スタッフのスチュワーデスの浜慈事芳賀美津子に副操縦士の才蔵事芳賀忠直の悪童もおもてなしが出来るものになったものです、時の宰相とは言え謙信様事上杉照實首相とはいやはや威風堂々過ぎてつい身を引き締めてしまします。ただ、どうしてもおいたをしてしまうのが弾正事松永満腹社長ですなバブル崩壊で散財したのに今日の今日でマルサに踏み込まれるとは、これは見せしめの懲罰ですかな、」

 小百合、思わず仰け反りながらも踏ん張り

「うーん、そのお歴々はやや知り合い多いかな。もう言わなくても上杉首相は謙信様そのもので、照實さんには奉納試合の弓道で何かと招集されては、スケジュールと時刻表の睨めっこですよ。まあ、その断れない依頼で、夏前に厳島と伊勢神宮行かないと、おお、」

 瞬太、さもうんざりに

「全く、満腹社長も今日のこの日に何やってるんだよ、バブル崩壊で開き直りお笑いコメンテーターに転じたのに、全く懲りてないの。海外リゾートホテルに投資しては借金を返せる程の軌道に乗ったのに、まあ想像通り二重帳簿するものかよ、」

 術回、こくりと

「魂の縁続きも、生半に宿業は回避出来ぬのが、これまでの成り立ちでございます。一瞬でも危険と過ぎったら、良き伴侶とご相談なさいませ、答えはどうしても一点に絞られます、成すべき事を成しましょうと」

 瞬太、くすりと

「術回さん、やたらサービス良いな。お母さんとは、それ程までにご機嫌な商いだったのかよ、」

 術回、さも満足気に

「左様でございます。私の真名での掛け軸三幅、一幅百両600万円は江戸時代の通貨基準ではございますが、一品の現代芸術が溢れまくったこの平成では、さも妥当なご提示価格でございます。主要家を最後の頼みにしてはいますが、松平写真堂の鬼籍に入った竹千代様事松平春草会長は清貧に限るなどとけんもほろろでしたな。千里猿運送社長の猿事木下宝生は造詣の深い香道が生じてそちらの収集で余財が無いやら。その点織田家は非常に慈悲深いものです、」

 瞬太、きりと見据えては

「その額面に然るべき掛け軸だが、術回さん、新作であれば施餓鬼等のきついのはなんて無しだからな。分かってるよな、お目出度いご成婚有りきだからな、」

 術回、朗らかにも

「はっつ、御意向は確かに。行脚の身分故に手持ちの作品はございません、滞在先の築地本願寺で心を込めて制作に没入する所存でございます」

 瞬太、得心しては

「意外と素直だな。それでだ、古くの彦左衛門から、地獄絵図で説法しては民衆扇動と袈裟懸けにされた背中の刀傷は未だあるのか、なあ果心居士、良いか、俺は小さい時に蔵出しの儀を隠れて覗いていたから、隈なく経緯を知ってるんだよ、」

 双葉、さもうんざりに

「その真名、いざ聞くと、どうしたものかな。古文書では明確な悪事はしてないし、軟禁のしようも無いし。何より術回さんは博識な方だし、行脚が妥当なんだけど、何か寂しいものだよね。長い時を掛けた行脚なんて胸が一杯になるよ、」

 小百合、ただたじろぎ

「果心居士なんて、まさか不死だなんて、有りえないわ、」

 術回、不意に法衣の背中に触れながらも

「彦左衛門も容赦が有りませんからな、拙僧の老いさらばえた本能の皮一枚で止まっております、」柔和も諭すように「不死は、旧約聖書ではままある血脈です。不可思議では有りませんよ。故というべきでしょうか、私には何かすべき事があるのですね。今日この瞬間にも、辻で魂との対話が待っている事でしょう。さて、きついお話もそこそこに、軽い手綱で和みましょうか」懐から白いハンカチを取り出しては左手に被せると、右手で三つ数え上げと同時に元気に跳ね回る白いハンカチ、皆が目を見張る中、術回が左手の白いハンカチを取り上げるとそこには紅白が一際華やかな陸に打ち上がった琉金が三匹、術回がはいとばかりに声を掛けると、その宙を螺旋を描きながら三匹の琉金が元気に泳ぎ始め始める。

 小百合、ただ感嘆しては

「おお、これは見事な琉金さん、Mr.マリックも驚愕ですね。仕組みはどうなってるのでしょう、」

 双葉、小百合の視線を辿っては黄金に輝く虹彩で見つめるままに

「ふーん、微力な黄金動でさえも、一切の余念を封じる事が出来るものなのですね。どこが手綱なんですか、視界との境界線さえも垣間見えませんよ」

 瞬太、さもうんざりと

「術回、大層なデモンストレーションだが、そこまで真名晒す必要があるのか、もう分かったって、」

 術回、一礼しては右手を差し出しては拳を握ると、その螺旋のまま宙の遥か上まで琉金三匹が昇華しては消えゆく

「これは失礼しました。お三方の少々の力量を測らせて貰いました。双葉さんはややですが、瞬太さんと小百合さんは、世間に流される前に多少の修練は必要と存じます。過去の歴史より、悪人の素性は仮面の下に隠れる向きでございます。これからのご研鑽の程を、」

 小百合、神妙にも

「それが、真名での説話に漏れ聞く御前披露なのですね。肝に銘じましょう」

 瞬太、はたと

「いや、見えるものは見えるし。術回さ、その琉金なんだけど、俺のリクエスト有りきで人数分を掛け軸に書けるかな、いつか思いを馳せたい、」

 術回、神妙にも

「それもまた華にございます。瞬太さんの興の趣きの深さ、決して干からびぬ様に願います」

 瞬太、歯がゆくも

「言うね術回も。とは言え、お母さんから何でもかんでもアイディア提出しろって、明日からまたかつかつだよ、どうしたものかな、」

 双葉、ため息のままに

「瞬太さんも。もうね、GIGで浮かれてないで、良い加減身を固めなよ。ミッツが瞬太さんファンの専用回線の留守番電話を消去するのにうんざりしてるよ、」

 小百合、溜め息混じりに

「やはりも、そこは、許容範囲ですよ。まあもてるのも四十路前までしょうから、自業自得にならない様にお好きにどうぞ。私は子育てに邁進しましょうか、」

 双葉、一気に華やぎ

「瞬太さん瞬太さん、凄いですよ、ばさら容認の寛容な方なんて今まで出会った事ないです、これはどうしてもの縁ですよ、うんでもあれ、子育てって、えっつ、あっつ、何か照れちゃうけど、小百合さんが言うと自然、と言うか素敵、はっつ、ミッツに呼ばないと、金の公衆電話でポケベル呼び出し、322 55251、ミッツここに来ても、直接呼びに行った方が早いけど、この全部の名シーン見逃せない、えーと、やっぱり我慢しますね、ミッツごめんね、」ただ両手を組んでは胸に

 術回、破顔のままに

「実に結構ですな。信長様帰蝶様の安土城での佇まいをどうしても思い出してしまいます。安土城城下町での市での金魚すくいの仲睦まじさ、まさかそれが最後になろうとは、拙僧でも思いはしませんでしたな。そう、本能寺の何故にの今際の際に間に合わずは逡巡が未だ止みません」

 小百合、ふわりと

「術回さん、その全てを受けとめざる得ません。とは言え、いざのサービスも、本当芸が細いですね。滞在中は築地本願寺のアトリエに表敬訪問しないといけませんね、」

 双葉、口を尖らしながら

「瞬太さん、ここです、ここですよ、行って、行きなさいです、」

 瞬太、微笑み混じりに

「で、あるか、未来永劫、おれの女は帰蝶だけだぜ、」

 双葉、目を見張っては

「分かりにくっつー。瞬太さん、何で照れます、ここは小百合さんの直指名ですよ、あなたは本当に、」

 小百合、くしゃりと

「そこは信長様が仰るのなら、然もありなんです。末長くよろしくお願いします、」改めて深いお辞儀へと

 双葉、あんぐりと

「えっつ、乗った反った、有りなの、小百合さん、こんな、ばさら行ける系は、うーん、欧米のコレクションに行ったのなら、そう言うリアクションも拾えるのか、うん、流石です、」

 術回、はきと

「これは漸くの長き悠久からの再びの目出度き事です。申しましょう。良いですかな、夫婦の二世の契りは一生とも申します。肉体が滅し、彼の涅槃で暫し憩っては、再びこの地に降ります。その器たるものが、熱い魂に等しい猛き血と健やかな肉体でございます。拙僧が諄く申します過去生は、その容姿そのままに魂が宿っては、今様に自然と惹かれ合い至極当然の成り行きにございます。ここは宿るべき肉体の血脈を守り抜いて来た祖先に感謝すると同時に、お二人の出会いをどうにか粗雑にすべきではないかと思われます。何卒、お近い程に、どうか願いのままに」溢れ出る涙のまま、瞬太と小百合の距離を狭める仕草のままに


 惹かれ合う合う様に一歩二歩と自然と近ずく微笑みをたたえた二人、意識もせずに、瞬太と小百合阿吽の呼吸で右手と右手のハンドシェイクの一手二手三手も鮮やかに決まりがっちり握手。

 瞬太、不遜にも

「すげえ握力だな、信じられないよ、でも酷く懐かしい感じ」笑みのままに

 小百合、事も無げに

「もう、逃さない証明ですけど、かなり伝わりますよね。懐かしいなら尚更ですよ」笑みで返しては

 一同、ただ微笑みが絶えぬままに

 後ろの四谷一番角電気店のモニターには、皇居からいよいよ出でるパレードの為のオープンカーの車列。

 そして、空には新時代を告げる、敬虔さを醸し出す二重の虹が特大のアーチを描き世界の果てをどこまでも臨もうかと。



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