第7話 エピローグ(この世界のどこかで)

 以上で彼を知る5人の証言を終えるが、いかがだっただろうか。

 精霊ルビスより加護を授かりし若者は大魔王ゾーマを滅ぼし、アレフガルドに平和と安寧をもたらした。人々は彼を讃え、勇者「ロト」の称号を与えた。この後より彼の子孫と呼ばれる者達が一度ならずアレフガルドの危機を救い、ロトの伝説はアレフガルドにて永遠に語り継がれることとなる。

 ロト自身はアレフガルドを救った後、姿を消し、その後の足跡を知るものはない。元いた世界に戻ったとも、神の御許に向かったとも噂されたが、その真偽は定かではない。

 人々は英雄「ロト」の足跡こそ語り継げども、勇者ロトの父「オルテガ」の名はその伝説で一切語られることはないだろう。

 結果重視のリアリスト達、善意を偽善と呼ぶ露悪家達、そして、ただの一度の挑戦も無いが故に、ただの一度の敗北を知らぬ批評家達の目に彼の姿はどう映るだろう。

 神より祝福を賜りし勇者が、神の鳥に跨り山を越え、精霊の与えた橋で海を渡るその傍らで、火山を越えようとして火口に落ち、己の身一つで荒れ狂う海を泳いで渡る。

 ルビスの加護も、仲間の庇護も受けられない。その時点で諦めてしまえば良いものを、人を救いたい、ただそれだけの想いで身の程もわきまえず戦って、何の成果も出せなかったあの男が皆の目にはどう映っただろうか。

 叶わぬ想いを持ち続けたあの男は愚かだったのだろうか。

 達成できぬ目標を追い続けたあの男は馬鹿げているだろうか。

 敗北を、失敗を、挫折を、人々は嘲笑し、叱責し、貶めるだろう。

 それでもひたむきに努力し、頭を捻り、地べたを這いずり、汚辱に塗れたその挙句ですら結果が得られぬ事もあるだろう。

 だが、魔王と名の付くバラモスもゾーマも倒せず、ただの一つとして使命を果たせなかったあの男は、それほど見苦しく、滑稽だっただろうか。彼を取り巻く人々の流した涙は意味のない感傷だったのだろうか。


 断じて違う。


 「努力は必ず結実する」「夢は必ず実現する」そんな蒙昧で嘘に塗れた言葉はゴミ箱に叩き込んで忘れてしまえ。

 英雄とは、人々が喝采し、栄光を掴んだ者のことではない。

 ただひたすらに自らの想いと向き合い、困難に立ち向かう者こそが、多くの人の心を動かし、真に胸を打つ英雄たり得るのだから。

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英雄の起源 海水木葉 @umimizukonoha

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