1話 ハジマリノはじまり

 4月も2週がすでに過ぎ、高校1年生と言えどもすでにクラス内にはグループが出来上がっていた。

 しかし、遠道未来はどこのグループにも属さず、ただ一人休み時間を過ごすことが多い。

 高校生になってはしゃいでいるような奴らは好きじゃなかった。女子の耳に触るような甲高い笑い声や、どたばたと動き回る男子。すべてが憂鬱だった。

 今日も未来は一人机で寝ている。

 しかし、急に未来の視界にほっそりとした太ももが現れた。

「ねぇ」

 少し冷たく感じる女の声。

 未来はその声を聴き顔を上げる。

「……」

 彼女の名前は何だっただろうか。同じクラスなのは覚えているのだが。

 ツインテールで、やせ型。そして表情こそ怖いものの綺麗な顔立ち。

 高校生活勝ち組のような雰囲気をまとう彼女が一体俺になんのようがあるっていうのだか。

「ちょっと、返事ぐらいしなさいよ」

「ああ、はい」

「遠道未来、あなたに話があるの」

 彼女は一方的に話しを進める。

「今日の放課後6時、月城公園に来なさい」

 全くもって話したこともない相手に命令口調。そして、ついには腕まで組む始末。

「返事は?」

 戸惑っているのが彼女にも伝わり、強い口調で返事を要求される。

「あ、はい。あ、あの……、名前」

「はぁ?2週間も同じクラスにいて名前も覚えてないの?」

「ご、ごめんなさい」

 そりゃ当たり前の反応なのだが、俺は別にクラスの奴らの名前なんて正直言ってどうでもよかった。

「結城みく、人の名前ぐらい覚えなさい」

 すべてが命令口調で、上から目線。こんなこと今までなく、未来の頭は混乱状態だった。

「じゃ、放課後6時ごろちゃんと来てよね」

 みくがくるりと回りツインテールがふんわりと浮く。

 未来は彼女が教室から出ていくのをじっと見つめていた。

「なんなんだ、あいつ……」

 高校に入って俺にも青春が来たのだろうか。かわいらしい女の子から告白。そんな夢に見たような高校生活が、俺にも訪れるなんて。


 いつも通りだが、放課後になるのはあっという間だ。

 ただ、いつもと違うことといえば未来は放課後に向けて胸を躍らせていたという点だろう。

 月城公園は学校からそう遠くないものの、とてもこぢんまりしていて子供がたくさん遊んでいるというような公園ではない。

 遊具はお飾り程度にあるブランコ2台と滑り台のみ。

 人もそんなに利用している感じではなく、場所自体も人通りのとても多い場所でもなかった。

 未来は制服から私服に着替え、公園に6時前に着くようにして家を出た。

 まだ少し寒さの残る4月。暗くなるのも早く、6時となれば多少なりとも暗くなっている。

 公園に着くと、すでにみくが一人ブランコに座って空を見上げていた。

「遅かったわね」

 みくはそういうが、未来は決して遅刻していない。現に、未来の時計の針は6時を指す前だ。

「ま、待たせてごめん」

 たとえ今は上から目線でも、この後にはきっと告白をして、彼女は顔を真っ赤にさせて俺を見上げてくるのだろう。

「隣に座りなさい」

「あぁ、うん」

 しかしまぁ、同い年にしては命令口調に堅苦しい喋り方。未来の中ではなんだかそこが気になった。

「単刀直入の方がいいかしら」

「え?」

 間髪入れずにみくは話を続けようとする。

「あなたのご両親は生きているわ」

「は?」

 みくの一言は何かの冗談にしか思えなかった。

「それも、魔界でね」

「は、なに言って……」

 未来の頭が弱いとか、そんな話ではなく未来はその話を受け止められなかった。キャパオーバーだ。

 それもそのはず、死んだはずの両親が生きているという話だけでなく、なんとそれも「魔界」だというのだ。

「ちょ、ちょっと待てよ。新手のドッキリだろ、それ」

 どう考えてもドッキリとしか言いようがないのだ。

「何言ってるの。本当の話に決まってるじゃない。それに、あなたの両親があなたに会いたいって言ったのよ。それで、私はこうやってあなたに話をしているわけ」

 人生初の告白だ!なんてちょっと調子づいた半日前の自分を殺したい。告白は告白でも全く違う告白だった。

「て、てか魔界って何なんだよ」

「魔界は魔界よ。あなたの両親も魔界人だし、そんなあなたも現に魔界人よ。あなた、人間じゃないわよ」

 今日、人間遠道未来は死んだ。俺は魔界人らしい。受け止めきれないが。そして、信じきれもしないが。

「だ、駄目だ。何から突っ込めばいいんだ、これ」

「いいわ、話していても埒が明かなそうだし、実際に見た方が早いわね」

 みくはそういうと勢いよく立ち上がった。

 みくの綺麗な足が月の光に照らされている。

「さぁ、魔界に行きましょう」

 彼女に差し出された手を、俺は結局のところなんの躊躇いもなく握っていた。



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魔界少年未来 @mikux2love

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