第2話
俺こと首輪付きは、全裸で部屋にいた
牢獄でもなく監獄ではなく、ただのアパートの1LDKの一室だ
ベッドの上で、首から下げる新米討伐者に送られるカードキーを見て、懐かしさに染みる
複雑な理由はあるもののそれを経て観測者の席を抜け出し、見事討伐者になった記念と言ってもいい代物
豚さん上司からは「過去の惨事を清算させる所業」だとか、「悪魔に対する討伐処置が合格ラインだ」とか上層部から言われたことをそのまま伝えてきたが、一番の理由を知らされていないようだ
まぁ、俺自身は女王陛下から聞いた通りだ
────狂犬の
監視役とは、予備指名手配犯罪者集団……まぁほとんどが狂犬隊だが、そういった危険人物と遭遇し、牢屋へ監禁され、仮釈放されると囚人1人につき1人付けられる役目を持つ
法に則った義務でもあり、討伐者故のルールでもあるが決めたのはクソ女王陛下だ
「反吐が出るほどムカつく女だ、あのクソみてえな顔に反吐を塗るほど嫌になるが……クハハッ!これ《カードキー》が貰えるなら安いもんだわな」
カーマら指名手配犯罪者集団の1人だ、事故で死んでも咎めやしない
悪魔と対峙した後、囮でこき使えば死んで俺は自由に討伐者になれる
だが、と手錠のしている右手首を見る
「これはねぇよ……」
未だ横で眠るヒョロガリのカーマの左手首に嵌る手錠が、俺の右手首の手錠に伸びているのだ
狂犬隊に対しては特別処置としてこのように手錠をかける必要があったのだ
「ん……んぁ、おはよ…相棒」
「相棒じゃねぇよ、監視役じゃい。おはようさん」
狂犬隊の1人、アノドル・カーマは白のワイシャツ1枚で起きると俺に挨拶をしてくるので返す
女ならときめくだろうが、野郎ならただただ嫌になるだけだ
「しっかし、これじゃ朝飯作るのも面倒くせぇな」
俺は全裸からズボンだけを装備する
「……俺女なんだけど、ちんこ見せねぇ努力とかねぇの?」
「俺のはご立派なんだよ、朝は絶好調だ。それにカーマ、お前男だろ?同性で興奮するわけねぇよな?」
「はぁ?だから女だって、おい──」
俺はカーマのワイシャツをめくる
肉のない下腹部から鳩尾は女らしさの魅力がなく、肋骨の浮きでた胸板は魚が捌けそうなほど崖であった
「……ふ、ふつー、何も言わずにめくる奴がいるか?」
「ほら、それだ。お前には恥じらいがない」
「過去に色々あったからよ…慣れたんだ」
そうか、と俺はカーマのワイシャツを下ろして洗面台へ向かう
「おい!手錠のこと忘れてるだろ!」
「人間二人分の長さだし、どうせ行くとこ同じだろ?」
「俺は先に便所だ!」
「お前寝起きに便所行く派かよ!なら俺も行こう……
「は、おい待て!さすがに下までは────」
カーマが女だと知ったのは、トイレのドア越しからだった
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場所を変え、とある『市役所』
地区ひとつに、必ずひとつ存在する市役所は市民の対応に追われていた
その中でも討伐課では大忙しで、6つある窓全てに列が出来上がっており、俺とカーマは対応してもらっていた
「首輪付き、討伐者復帰祝いに酒でも奢ろうと思ったが、退治した悪魔は相当強かったんだな…」
対応してもらっている職員の男『
この課で悪魔討伐の報酬を受け取る際にも、割と世話になっている
「これか?」
と、俺は人の張り手跡の残る右頬を指さす
「あぁ、そんな平手を打つ悪魔なんて人型くらいだろ?報酬内容は獣型悪魔だが、人型も混じっていたとはな……前に論文に上がってた『悪魔の進化論』の結果なのか?」
「なんだその論文……まぁ、悪魔といえば悪魔かもな……い、いや、冗談だよ」
と俺は、視線だけで人を殺せそうに見てくるカーマと顔を合わせる
俺の貸したフード付きのロングコートを深く被ったカーマは、度々頭を下げていたが、両手がプルプルと震えているのは自分の行いに恥じているのだろうか
「ふぅん、面倒な同棲生活してそうだな」
どうやら察してくれた
あまり長居しても後に続く列に迷惑が掛かるので、俺は本題に入る
「手っ取り早く用事を済ませろー、報酬ー!」
「分かってるよ、えー…と、ほい」
忍丸から受け取った金額は500円金貨2枚
それと紙が2枚
いや、ただの紙では無いのは分かっているが
「忍丸、聞きたくないんだがこの紙は…」
「チョウチンドッガーの出現の際に破壊された道路の請求書と、放ったビームを“首輪付き“が受け流した際に起きた二次災害の請求書。報酬はマイナスのところを
愕然とした
これでは昼飯代しか食えない…
「ま、待ってくれ忍丸…舗装修復や住宅の”全額”補償は
「本当だったらね〜…でも、女王陛下の命令だし」
ババア、俺を奈落の底に突き落としたいのか?
そう勘ぐりたくなるくらいひどい仕打ちに、受け取った500円玉2枚を握り潰そうとする
「明日生きていけないレベルで金欠なんでしょ?潰したらまずいよ」
「そ、そんなことねぇし!」
「前みたいに公園の水道と、日光だけで二酸化炭素を吐く害悪にはならないでよ?」
「俺は葉っぱ以下か!あん時はだなぁ……」
と、言葉を続けようとしたが裾をカーマに引っ張られる
「……もういい、忍丸大好きだ。この奢りでなにか食うよ」
「どストレートな告白やめてくんない?!課内で変な女子たちに勘違いされるからさぁ!」
「ラブじゃねぇだけマシだろ、考えすぎっつっとけ」
「えぇ〜…」
忍丸の嘆きを聴きながら、俺とカーマは市役所をあとにした
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昼マックとは?
職に就いてる人間が金欠になった時に利用する、そんなメニューだと俺は自負している
むしろ肯定してもいい、なぜなら美味しいからだ
最高だよ、ジャンクフード
明日も来るよ、ジャンクフード
「なぁ、喰い足りねぇんだけど“首輪付き“さんよォ」
横で愚痴るはアノドル・カーマだ
ヒョロガリのくせに成人男性以上に食べる女はこいつぐらいだろう
「上げないからな」
「下のバンズだけでもくれ!」
「どうやって掴めって言うんだよ!手がギットギトになるわ!」
「じゃあ紙くれ!」
「紙!?余計ギットギトにならねぇか?!ていうか、ソース付いた紙を舐めるとか言うなよ!?」
「舐めねえよ!喰うからくれ!」
「ヤダよ!てかカーマ食うの早いな!ゴミすらねぇじゃん!何処やった!?」
「プラスチック以外食った!俺さぁ雑食系女子なんだよ」
「雑食系の意味!!お前は微生物か!」
「
「偏見はやめろ!好き嫌いくらいはあるはずだ!」
「微生物の……嫌いな物?赤潮?」
「それはプランクトンの死骸な!」
俺はプラスチック製の盆以外をカーマの口に流し込んでやる
「なんだこの生ゴミ処理機」
「モゴゴー」
「褒めるなよってか?……ってか、これからどうすんだよ」
今は昼時
午前中に『市役所』でカーマの住民票登録も済ませてあるので、悪夢が出ない限り暇なのが討伐者のデメリットだ
「モググモグ」
「食い切ってから喋れ」
「ゴックン、ゲフゥ……鍛えんのは?しねーの?」
「鍛えるねぇ……ジムでも通って体鍛えるかぁ?」
俺のボヤキに、カーマは手錠を見せる
「そうなんだよなぁ、手錠……どうすりゃいい?」
「これさ、俺のショットガンでも壊れなかったんだよな」
「え、試したのかよ!?いつだ!」
「昨日の晩、てめぇが寝てる時に試した」
「跳弾したら死ぬわ!次からやめろ!」
「」
デビル・イーター 黒煙草 @ONIMARU-kunituna
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