デビル・イーター

黒煙草

第1話

「敵一個体出現、対応できるチームは向かえ」


肥えた腹にはち切れんばかりのスーツを纏う豚はドスの効いた声でそう言うと、目前のモニターで悪魔を討伐者たちに情報共有した


ビル群を遠くから一望できる、簡素な住宅が立ち並ぶ俺たちの住む地区では、“悪魔“と呼ばれる人類悪が蔓延り、時折地区に侵入しては全てを破壊していく存在がいた


俺たち第三者観測者はそういった悪魔を観測すると、討伐者デビルハンターと呼ばれる職の人間に情報を伝達させ、殲滅させる仕事の手伝いをしている


指示を出す豚の横にいる俺は、元々観測者ではなく討伐者だったが、不祥事が重なり、今では後方支援観測者というつまらない仕事をしていた

勿論、大事な役目でもあるが…上司が優秀バカだと仕事した気が起きないのは何故だろうな?


「おい、“首輪付き“!手綱引っ張る俺の身にもなれ!」


首輪付きとは俺の事だが、手綱を持つのは豚では無いのは確かだ

上司に言われ、渋々ながら“悪魔“の映る画面を見る俺は、姿形を画面越しに視認する


相手の悪魔は小型で、色は黒、尖った頭には8つの瞳孔のない眼、猫背、腕をダラりと下ろし、三本の手を地面に付けている

ヤンキー座りの足元は地面を腐らせていた

こいつは餓鬼型の悪魔だ


他の域の話ではあるが、空域では鳥型が、海域では魚型の存在まで確認されている


「獣型っすね…ランクはG、レベルは20くらいすか?」

「首輪付き!上司に対して言葉使い気をつけろと……入ってきた当時から散々言ってる事だろうが!」

「はいはい、えーと…『aチームは右側、bチームは左側で、cチームは前方から囮役…』」

「無視か!というか貴様が指示するな!」


上司が優秀というのは皮肉で、この上司は前線出撃経験が皆無なのだ

戦略的な知識もなく、正面から突っ込ませては討伐者達を負傷させる作戦ばかり執っている


モニタールームのある室内では悪評高いが、1歩外を出ると強者には媚びへつらう態度をとっている


ここに飛ばされた当時はすぐにやめようと思っていたが、かわい子ちゃんが居たので一年以上この観測者に座っている


次の休暇では食事に誘うつもりだ



休日出勤が無ければいいが…


「『c、そのまま後退して…ん?』」


俺はふと目を凝らす


画面にはスーツ姿の男が悪魔に近づいていたのだが、少々スーツに傷みが入ってはいた

しかしそれに劣らず、図体共に強者のオーラがプンプンしてくる


得物はハンドガンだろう、それを片手に悪魔に近づく様は日常茶飯事のように堂々と練り歩いていた


「なんだあいつ…?」

「ふん!知ったことではない、民間人には非難せよと警告は出した!あいつは人型悪魔だ!」


悪魔には人を模した個体も存在するが、画面に映るスーツ姿の男は悪魔ではないとハッキリ分かっていた


だが、この上司はスーツの男も殺そうとする


「『cチーム!スーツの男も悪魔だ!下がらず全チームで攻撃態勢に入れ!』」

「ちょちょ!どんなやつか分からないんすから、下手な命令しちゃダメでしょ?!」


上司の命令により全チームは攻勢に入る


スーツ姿の男と悪魔に向かって攻撃を仕掛け始めようとした全チームは、迷ってはいたものの、上司の無茶ぶりに従った


全チームの動きに気づき、スーツ姿の男は動き出した


aチームリーダーは“民間人は退避せよ!“と言っているがスーツ姿の男は無視し、そのまま悪魔に近づいて首元を足で踏みつけると


餓鬼型の悪魔の頭に発砲した


銃声は10、オートマチック拳銃の銃口から出た弾は悪魔の胸部を蜂の巣に仕立てあげた


悪魔の弱点は心臓部にある核だが、希少種は2つ3つ、胴体に忍ばせている例が存在するが、今回の悪魔は心臓部だけのようで、右手でリロードしているスーツの男の足元にいる獣は、撃たれたあとはピクリとも動かなくなっていた


全チームは静止していた

急に割り込んだ男が、悪魔をオートマチック拳銃だけで討伐しているのだ


驚愕のあまりこちらに意見を求めず、呆然と突っ立っていたaチームリーダーは、不意に男に近づこうとする


“──…くな!“


モニター室では男にノイズが走り、聞き取れなかったものの男は叫んでいるようで、aチームリーダーは止まり、銃口を下げた


“あ、悪魔の討伐感謝するが!無茶なことは避けて欲しい!所属と名前を挙げよ!“


aチームリーダーはそう叫び、答えを求めた


“名前──…から言えない、所属は”これ”でいいか!?“


スーツの男はネクタイを弛め、首に下げていたドックタグを見せた


その瞬間

全チームと

モニター前の俺と

上司は────戦慄した


「や、ヤバいヤバい!ドッグタグ持ちの討伐者だと!?」


「まじかよ…っ!全チーム!撤退せよ!!」


俺の言葉が行き届いたのか、aからcチーム全員が慌てて退避し始めるものの、その途中で装備品を落とす討伐者もいたが、気にも留めずに我先に逃げていった


「…お、俺は何も見ていない!!“首輪付き“!あとは頼んだからな!」


そう言い残してモニター室から出ていった上司


取り残されたのは俺とかわい子ちゃん、ほか2名の観測者


静寂が部屋を満たすが、面倒だが仕方ないと決心した俺は指示を出す

面倒事を押し付けられるのは前にもあったからだ


「ここからは俺が指揮を執る、まずは撤退したチームの安全確保を優先、怪我人は治療室に!3人はそれに当たれ!急げ!俺はここから指示を出す!」


他2名とかわい子ちゃんの観測者が俺の指示に従い、撤退したチームの対応を急ぎ、モニター室から出ていった


俺は画面に向き直り、スーツの男の様子を見る


少しも肉が付いてないのか、ヒョロガリなイメージはあるものの、至って健康体、金と黒のメッシュの髪は鼻先まで隠れており、目が確認できないのはシャイなのか


そして、悪魔の首元を押さえつける脚力は異常であった


討伐者の中でも異常な力を持つものは“処刑人“と呼ばれ、このスーツの男はその類だと断定する


しかもドッグタグ持ちときた


所属を示す道具にはカードキー等が用いられ、少し細工をすれば外見を変更できたりする


討伐者の新米はカードキーだ


しかし処刑人含む熟練者チームになると

赤狼あかおおかみ隊“の連中は【家の鍵】に変更したり

黒鴉くろからす隊“は口元を覆い隠す【布】に変更出来たりする


今回、スーツ姿の男が持つ【ドックタグ】は“狂犬隊“の1人で、敵味方関係なく容赦なく惨殺するチームとして有名だった


上層部の人間は“狂犬隊“を悪評高く評価しているが、チーム全体としてのしっかりとした目的があるため、予備指名手配犯罪者集団と揶揄侮辱されている


狂犬隊の1人であるスーツ姿の男が、先程新米チームの落としていった装備品のインカムを拾い、こちらに話しかける


『観てるか観測者?ドックタグ見せただけで急に逃げたすなんて、失礼な連中だよなァ?』


その一言で第一印象が決まった

こいつは嫌味なやつだと


「日頃の行いを振り返ってから言え、“狂犬“共」

『あ?観測者は男かよ…詰まんねぇな、まぁ俺のことは知ってるみてぇだから自己紹介は省くがよ』


“狂犬隊“の連中はリストに登録済みなので誰がかは把握済みであるが、スーツの男に見覚えはない


狂犬隊所属の大半は、2年前に起きた隊内での内乱を期にソロ活動を行っているとの記録がある


性格は今の通り、嫌味なやつで確定した


相手は言葉を紡ぐ


『ドッグタグ見せねぇと誰かわからねぇってのは上層部の教育不足ってやつだろ?予備指名手配犯罪者集団の狂犬くらい教えとけっての』


「『すまんな、さっきのチーム全員新米なんだよ、カードキー見たろ?』」


『それで納得するバカがどこにいる?俺の事じゃねぇよな?』


図星を突かれたが無視する


「『お前、悪いことは言わんから回れ右して歩け、この地区に“狂犬“は要らねえ』」


『名前はカーマだ…まぁいいけどよ、その提案はお断りする』


カーマという名前を聞いてフルネームを思い出した

『アノルド・カーマ』、ソロ活動の1人だが……なぜだ?

雑魚1匹倒したのだから、ここにいる必要性はもう無くなったはずだ


俺は別のモニターに目を移し、悪魔がいるか確認するが──


「『悪魔は最初の一体で終わりだ、故にカーマ、お前は不要だ』」


『ちげぇ、ちげえな観測者よォ…Lv70の悪魔はもうここを知った』


瞬間、ドゴンッッ!と腹の底から響く音と同時に、コンクリート塗装の道路を割り、這い出てきたのは先程よりも数十倍あり、20mの体長もある獣型悪魔だ


人類が敵視する悪魔にはLvがある


先程、カーマが仕留めた獣型悪魔はLv20程度。そして今現れた悪魔は


「…ッ!悪魔レベル測定!!判定!Lv70ッ!」


俺は驚いた


この辺は過去200年前に“討伐者“の英雄クラスが一掃し、更地と化した平野を一般の人達が整備して街にした地区なのだ

それ以来、迫る悪魔は群れを外れた低レベルの悪魔しか来なかった程度だ


討伐者初心者に最適であり、平和といえば平和でもあった


その場所を────


「まじぃな、Lv70相当だと熟練者が何人束になっても───」


『だから俺がいるんだよ、観測者さん?』


通信機の向こう、モニター越しの向こうでは、犬が血に飢えたように嗤う


「狂犬風情に勝てる相手か!お前たちが熟練者プロといえど、五体満足じゃ済まされるわけがない!!」


過去の公式データから見ても狂犬隊全員の悪魔討伐記録に、Lv55以上の討伐記録はない


しかも内乱前での狂犬隊では、立ち位置が不明な『アノドル・カーマ』だ


戦闘に適しているのか、はたまた指揮に適しているかわかっていないのが現状である


『悪ぃな観測者さんよォ、こいつァ俺のモンだ!“狂犬隊“が佰版!『アドノル・カーマ』が逝くぜぇ!!』


カーマがハンドガン片手に突っ込んでいく

相手は大型の獣型悪魔


モニター画面に映し出された情報では、推定Lv70に相当する悪魔と表示され、名は“チョウチンドッガー“と記録されている


チョウチンアンコウのように低レベル獣型悪魔を操り、そいつが殺されるか捕獲されれば本体となるLv70が瞬間移動して現れ、街ひとつを壊滅させていく種類の悪魔だ


予兆としては、先の低レベル獣型悪魔が彷徨いていれば分かる


「……なぜ現れた?」


『俺ァ知ってるが!こちとら集中してんだ、そっちで勝手に推理してな!!』


カーマよりも遥かにデカいチョウチンドッガーの丸太2本分もある腕を振るう攻撃を、回避し続けるカーマにとって集中力を切らせば、そこで死は確定する


俺は可能性を見出す。モニターに映る公式の情報は、『低レベル悪魔で誘い出し、殺されるか捕縛されるかで本体が出現する』それのみだった


予兆は『低レベル獣型悪魔が彷徨いている』のみ

明らかに情報が少なすぎるが、討伐記録事態非公式な面も多いので信ぴょう性に欠けたのだろう


しかし、俺の戦闘記憶ではチョウチンドッガーとの交戦は非公式ではあるものの、本体の出現位置は5km範囲内と思い返す


それは出現した後に分かったことであり、5km程度なら観測者側でも補足できるのだ


つまりは、それ以上に離れていた可能性があり


「『悪魔自身が…強くなってる?』」


俺の回答に、通信越しからカーマが鼻で笑い、説明しだす


『ハッ!今更その答えにたどり着いたか!ちなみにさっきの低レベル獣型悪魔はァ、適切な処理しねえと半径10km内を自爆させる能力持ってやがる!』


俺の思考は5分経っており、その5分間ずっとチョウチンドッガーの攻撃を避け続けたカーマは、“狂犬隊“でLv55の悪魔を討伐したとは思えないほどの運動能力を持ち合わせていた


立ち位置が不明とはいえ、カーマが処刑人なら当たり前だろうか?

そんな考えから俺は頭ごなしに否定し、回避に専念するカーマに質問する


「カーマ、お前は避けてばっかか!?」


『機ィ伺ってんだよ!チョウチンドッガーの弱点となる核の位置は過去も今も変わってねえはずだ!』


俺の覚えてるチョウチンドッガーの核は、四足歩行する獣の尾てい骨に位置する尻尾の付け根だ


しかし、チョウチンドッガー自身は己の弱点を理解、把握しているのか、カーマを正面に見据まま中々後ろ姿を晒さない


『2人要りゃ楽だが!ちと時間かかるぜ!!』


「処刑人のカーマ様なら、後ろに移動して攻撃できたりしねぇのか?!」


『出来るがやらねぇ!やりようはあるが手の内は晒さねぇ主義だ!』


しっぽの付け根への攻撃手段はあるものの、手の内は晒さないとなれば────


「分かった!!記録ログは現時点で切断、電源を切る!」


『いいのかァ!?責任問われっぞ!!』


「人手がいるんだろ?ちょうど暇してんだ」


『はァ?おい、誰が指示を────』




俺はモニター室の電源を全て切り、俺一人だった部屋から出ていった


━━━━━━━━━━━━


チョウチンドッガーの現れた地点では状況が悪化していた


まず遠目からだが、カーマは体力の限界だろう体の節々に深手を負っていた


改めて見るとスーツは女性物で、胸は絶壁であったので、そういった体型の男性だと俺は思った


俺は現場にたどり着く前に、先の討伐者チームが落としていった少しの盾を背に担ぎ、到着する


新品同様の鉄の大盾は初々しく、穢れのひとつも見当たらなかった



姿勢を低くして、チョウチンドッガーの背後から忍び寄る俺

それを目にしたカーマは声を荒らげる


「民間人?は避難しろォ!」


どうやら俺は民間人だと思われたらしく、観測者としての威厳がなかったようだ


チョウチンドッガーは俺の気配に気付いたようで、すぐ様俺とカーマを正面に見据えるように動き出した


「俺はさっきの観測者だ!バレたら意味ねぇだろカーマ!」

「ア?てめぇ観測者か!!だが手柄は俺のもんだ!!」

「んな事言ってる場合───ッ!!」


チョウチンドッガーの8つ目が光り出し、光の粒子を吸収すると口から黒いビームを出してきた


「チッ、避けろ!」


「黙って見てろ!!チェェエッッイイ!!」


右足全体で地を踏みつけ固定し、盾を前にして防御姿勢になり、黒のビームを討伐者成り立てから奪った盾1枚で俺は受け止めた


「やるねぇ!」

「チ、チョウチンドッガーは8つの目から視覚情報を得て敵を討つ!あとは分かるな!!」


この情報はが知っている情報で、カーマは目を見開くもすぐさま目を細め、俺を疑う


「……信用するぞ?」

「2人居れば楽なんだろ早くしろ盾が持たん!」

「……クハハッ!!」


大型の獣型悪魔故に、口の上に目がある

がまだ活きていれば、進化していなければ


たらればの話になってしまうが、獣のくせに視覚に頼るチョウチンドッガーであれば────




「ふぅー……」


一息入れたカーマ

ハンドガン片手に、もう片方の手を地面に這わせ姿勢を低くし、突進する


その間チョウチンドッガーは四肢を立たせており、ビームの反動を尻尾で地面に受け流しながしている

対する俺も、ビームを盾全てで受けきっていた


「うごご!キッついなやっぱ!」


ビームを受けきる俺に対して、カーマはチョウチンドッガーの腹下を低空で跳躍すると、弱点の付け根に滑り込む


「捉えた!!【我が砲なりて全ての悪よ、滅せよ】!!」


カーマは背中を地面につけ、片手に持っていたハンドガンを天に向けると、尻尾の核があると思われた弱点に向けて発砲した


俺が聞こえた銃声は10に満たず、されどしっぽを切断するには最適なほどの威力であった


「これが…狂犬隊…」


ポロリと零した言葉だが、所詮弱点部位を切断しただけに過ぎない

悪魔全体に言えることだが、チョウチンドッガー本体を殺すには核を狙う必要があるので俺は目を凝らし、チョウチンドッガーの尻尾を見る


尻尾を切断されるというのに消滅しないと言うことは核をまだ失っていないということだ

ということは己の核を動かしているということで、奴が次に防御するところを隠すはず


「っ!カーマ!頭だ!!」


チョウチンドッガーの頭がギチギチと硬くなり始める


「はァ!?核は────チッ!移動してんのか!」

「そうだ!チョウチンドッガーは核を頭に移動させたんだ!!」


今回のチョウチンドッガーが黒いビームを出すまでの速さは、過去に退治したチョウチンドッガーとは比べ物にならないくらい、光の吸収からビームの射出が早かった


他の悪魔でもそうだが、遠距離攻撃を放つには核を経由しなければならない


つまり────


「チッ!尻尾からだと移動がめんどくせぇな!!」


女性のような高い声を出したカーマはチョウチンドッガーの背によじ登るが、頭にたどり着くには9、10歩必要な距離だった

着く前までには振り落とされるのがオチだろう


尻尾を切断されたことにより、チョウチンドッガーはビームを停止させているようだが、足を折りたたみ尻を地面に着けると地面が腐敗しだす


「なんだ、座り込んだ…?まさか、その体勢でビームを撃つ気か!!」


チョウチンドッガー光を吸収し、俺に向けて黒光のビームを吐き出した


「避けりゃ街に被害…受けても盾が使い物にならねぇだろうな…」


俺は初めのビームを受けた焦げついた盾を地面に接地させ固定し、斜めに傾けると黒光のビームを受け流し始めた


「ガァァァアア!くそぉぉぉおおお!!」


叫ぶ余裕はあるものの、受けている盾には余裕がなかった

盾にヒビが入り始めると、俺はカーマに叫び出す


「あが、が!か、カーマ!持って5秒だ!!」


「短い!10秒!!」


「死ね!7秒!」


「言ったな!?7秒でケリ付ける!!」


カーマは獣の背中を駆ける


どうするのかと、俺はビームを受けながら見ようとするも盾が視界を占領して見えない


ふと、ビームがブレる

カーマを落とすため背中を揺すったのだろうが、その程度で落ちるカーマではない

チョウチンドッガーがカーマを本気で落とすには、ビームを中断しないといけない


「俺に対する攻撃足止め手段はビームだけみてぇだな」


呟く俺に対し、カーマは息を切らしながら這いつくばって頭頂部に到達する


「ハァハァハァハァ……もう走れん、じゃくて……核、はどこだ……わかんねぇ、まあいいや【我が砲なりて、面を滅せん】!」


叫びと同時に、カーマの両手に出現させたるは2丁のダブルバレルショットガン


銃身は黒、細かな金の模様が煌びやかに入っており、向けられたチョウチンドッガーの頭には、今か今かと銃口が震えていた


「今喰わしてやる…ショット!」


ズガンズガンと、2丁のショットガンから一丁につき2発、計4発の音を響かせた銃弾は、チョウチンドッガーの頭から顎を貫通した


そう、核を吹き飛ばしたのだ


チョウチンドッガーが撃たれると同時にビームが消滅し、俺は開放された

黒いビームを生成する核が潰されたことによる結果だ


「ハァー…ハァー…おつかれさん、観測者さんよ」


「いや、そっちもお疲れ様だ、カーマ」


「……なぁ、お前なんでその呼び方してんの?」


カーマの俺に対する疑問は、突然聞こえてきたヘリの近づく音と混ざる


「呼びやすいだろー!」


「はぁ?!なんて言った!?クッソ、ヘリの音うるせえ!!」


着陸する軍用ヘリにはスーツを着たボディガード3名と、ドレスを纏う老婆が降りてきた


「久しぶりね、“首輪付き“?あぁ、堅苦しい形式は結構よ」


その第一声は老婆からだ


カーマが165cmだとすれば、腰を曲げたこの老婆は145cmくらいだろうか


綺麗に施してある白髪は穢れを知らず、露出の少ないドレスから見えるシワの多い肌は紫外線を知らないと言えるほど真っ白だった


白を基調としたドレスは純白無垢であるものの威厳があり、街歩く平民ならこうべを垂れて地面とキスするであろう


「……ちっ、また歳をな?クソ女王陛下」


俺は皮肉のように挨拶を返すと、スーツを着たボディガードに押さえつけられる


「イダダダッ!やめろクソ!悪魔のビーム受けたあとだぞ!?」

「全くあなたという人は…私だってこれでも忙しいのですよ?」

「いってぇ!……知るかよ、んな事」

「はぁ…あなたは悪魔の呪いで歳を取らず、私は能力者として歳を減らさねばならないというのに」

「あんたが選んだ道だろうが…グアッ!」


拘束を強めるボディガード

強めた痛みで女王陛下に敬服しろと言うことだろう


「ごめんなさいね、悪気はないの」

「あんたは無いだろうな!………それで、用件があるんだろ?」


押さえつけられる痛みを堪え、本題に入る俺はクソババアの顔を見上げる


「そんな怖い顔しないで、えぇと?」


と、老婆は狂犬隊の1人、カーマを見やる


「アノドルさんでしたわね?あなたに相棒監視役を付けますわ。首輪付きの彼よ」


「「……は?」」


言われたことが理解できないのか、呆然とする俺とカーマ


「あら?2人とも耳が遠くなりまして?」

「い、いやいやいや!何初対面で変なこと言ってんのこのバァァアアア!!?」

「いつも唐突なこと言って認知症でも患ってんのかと思ったが……とうとう年貢の納め時じゃねぇのかバァァァアアア!?」


俺とカーマ、2人してババアと卑屈なことを言った瞬間、ボディガードに肝臓レバーを拳で殴打される


「オゴォ…」

「ゲフゥ…」


「私はまだ若いのですけれど?2人してババアとは酷いこと言うわね」


女王陛下の見た目は老婆だが、実際の年齢は30歳と、俺と歳が変わらないのである


それをカーマに伝えるとめちゃくちゃ驚いてた

目ん玉すんげぇ見開いてた


「上層部はほとんどイカれてたが、トップの人間はもっとイカレてんだな」

「もっと言ってやれ……そんで?女王陛下さんの話は終わっただろ?さっさとおうちにハウスしな」

「いけずなことを言うわね首輪付き、私はあなたのことを気に入っているのよ?」

「気に入っているのは俺をペットとしてだろ?」

「分かってるじゃないのよ、みなまで言わせないで」


と、本当に要件が済んだのか軍用ヘリに歩き始める


「あなたたちは今後、前線に立ってもらいます。首輪付き、次の休みにかわい子ちゃんとデートできなくてごめんなさいね」

「なんで知ってんだ、くたばれくそババア」


ボディガードも俺の拘束を解き、ヘリへと向かう


「なぁカーマ、次来たらぶん殴ってやろうぜ」

「それにゃ同意見だ」


カーマと俺は瓦礫が目立つ一帯を飛び立つ軍用ヘリを見ながら、土埃を払う



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