第15話✵別れ~最終話✵
私たちは別れを決めた。
時にはヒカルの店に行ったし世間話もする、お互いに深い話から逃げているだけなのだけど、私にはそうする事しか出来なかった。
バレンタインデーには今まで通りチョコレートを贈った。
私の人生の一部になっていた人なのだ、それを切り離すことができるほど私は強くない
古い友達と遊んだり、誘われれば男性とデートもした。
気が向いた時にはセルピコに立ち寄った。
ヒカルの知らない私をたくさん作っていく事しか出来なかった。
そんなある日夜の街で宮崎さんに会った、歯の治療が終わってたのでクリニックに来ることが無くなっていたので半年ぶりだった。
「大石さん、こんな夜に1人?」
私は小さく笑うしかなかった。
「彼氏と別れちゃったんです」
その言葉を口にした途端に涙が溢れた、ずっと我慢していた感情が涙と一緒に堰を切ったように流れた。
「とりあえず、僕で良ければ話を聞くよ」
春のまだ肌寒い夜
公園のベンチに並んで座り私はぽつりぽつりと話した。
私の話が終わるまで静かに聞いてくれた宮崎さんは優しく私の肩を抱いた。
驚いた私に
「心配しないで、弱ってる女の子につけ込むことなんかしないから」
その言葉を聞いて私は初めて笑えた気がした。
「宮崎さんはそんな悪い人には見えません」
「それって、無害ってこと? だったら男として自信なくすなぁ、でも嫌なことあったらいつでも聞くよ 」
寄り添ってくれたその気持ちに私の凍ってしまった心が少しづつ溶けていくことにも気がついた。
私も笑えるんだ……
*****
少しづつ
歩いて行こうと思っていたのに………
ホワイトデーにヒカルが予告も無しにクリニックの帰り道に立っていた。
傍らには愛用の自転車がある
「なに? 自転車で来たの? 」
ヒカルの店や自宅がある町からは急行電車で3駅目だし各駅停車なら15駅もある、自転車なら2時間以上は掛かるはずだ。
嬉しさよりも悲しくなった。
手渡されたバレンタインデーのお返しのクッキーの箱を思わず突き返した。
「なんでこんなことするのよ! 私の気持ちなんて少しも考えてくれてないでしょ……なんでこんなこと……」
ヒカルの優しさが憎いと思った。
その優しさが好きだったのに、私の心は傷だらけだ。
涙が溢れて止まらなくなった。
ヒカルはきっと苦しんでいるし揺らいでいるのだと思うけど、泣いている私のそばでただ立ちつくしているだけだった。
「ヒカルはその宗教が救ってくれるんでしょ、私なんかより信じることが出来るんでしょ、ならこれ以上優しくしないで!! 私はそんなに強くなれないから ! 」
今まで抑えて来た感情が溢れ出して止まらなくなり酷い言葉となって私の唇から出てしまった。
こんな事を言いたいわけじゃなかったのにどうしてこんな風になっちゃったんだろう。
夜の闇の中半分だけの月がぼんやりとヒカルの後ろ姿を照らしていた。
愛おしい恋人の姿に駆け寄って後ろから抱きしめたいと思った。
その夜に見た後ろ姿が、私が見た最後のヒカルだった。
22歳で出会い、たくさんの夜を超えて5年目の夜に私の恋は終わりを告げた。
私の愛した人は寡黙で、頑固者だけど優しい心を持った人だった。
宗教ってなんだろう?
それは彼の心を救ってくれたのだろうか?
死ぬまでヒカルとは会うことはきっとないだろう。
そして会わなくていいのだと思う。
あの日私さえ同じようにその神に祈りを捧げたのなら2人は結ばれたのだろうか。
二人で平穏に暮らして行けたのだろうか。
そうしたのなら、きっと私は逃げ出しただろうと思う。
これで良かったのだ。
私は今も思い出す、あの夏の日の線香花火を……そして初めて結ばれたあの夜の激しい口づけや愛撫を昨日の事のように思い浮かべる。
それは忘れる事の出来ないものだし忘れてはいけない事だから。
結ばれることはなかったけど、20年たった今でも思うのだ、あれは紛れもなく『大恋愛』だったのだと……
子ども達の賑やかな声が私を呼ぶ
この幸せの中で、今でもまだ心の中で生き続けている愛おしい男の名前はヒカルなのだろう。
TheEND
✵大恋愛~瑠璃色の心✵ あいる @chiaki_1116
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