世界征服の資質

牛☆大権現

第1話

「初めまして、民衆諸君。余は、斉藤ハジメ。いかにもありきたりな名だが、いずれ世界の王となる者の名だ。そんな存在と、一時でも学友となれた事を光栄と思うがよい! 」

ソイツは、高校最初の自己紹介で、そんな事を堂々と言ってのけた。



「おお、先客が居ったか」

屋上で昼寝をしていると、忘れようもない自己紹介をしてきた本人が、姿を現す。

「おれゃあ、寝相が悪いんでな。生憎だが、昼寝をご所望なら離れときな」

「いいや、王は常に場の中心にいるべきもの!故に、中心に近い貴様の隣を使わせて貰うぞ! 」

野郎、本当に結構近い場所に寝転びやがった。

新入初日にキャラ設定間違ったような面倒臭い相手と、関わり合いになりたくなかったから、適当な方便で追い出そうとしたってのに。


「本当は、いずれ余の君臨する、この世界の美しさを見に来たのだが、こういうのも悪くないな。貴様、名をなんと言った? 」

「桓武天皇」

「息をするように嘘を吐くでないわ! 」

ちっ、もっとそれっぽい名前を出すべきだった。

「木場 利彦だよ」

「ふむ、トシヒコか。見えぬ牙を、歳経て尚研ぎ澄ます。良い名だ」

「俺の名を、そんな風に解釈したのは、あんたが初めてだよ」

「あんたなどと、仮にもクラスメイトに他人行儀過ぎやしないか?ハジメと呼ぶ事を許すぞ」

「世界の王様を、そんな馴れ馴れしく呼んで良いのかい? 」

「余が許すと言ったら、それで良いのだ!別に、暴君を目指しておる訳でも無いのでな」

ハジメは、経営学のなんたらとか書いてある、分厚い本を取り出した。

「勉強熱心なんだな」

「当然、王にはそれに足るだけの能力が必要。常に勉学は欠かせないのだ。しかしだ、勉学をしながら、トシヒコとの対話を続けることは、充分可能故、危惧する必要は無いぞ? 」

「ふーん、何で世界征服なんて目指してんの?面倒そうじゃない? 」

「それはな、余の征服欲を満たす為だ! 」

意外な答えだった。

「へぇ、おれゃあもっと、世界を平和にしたいとか、そういうのかと思ってたんだが」

「余の世界征服の最大の動機が、そこにあることは事実故、嘘はつきたくなかったのだ。無論、世界を支配する以上、その責任として、経済発展や医療の普及などに努める予定ではあるし、組織を立ち上げたならば、それなりの大義を掲げる予定ではある」

コイツ、思ってたより面白い奴では…?

「おれゃあ、そういう自分の欲望に忠実な奴は、好きだぜ。なにより、言葉の裏を読むとか、面倒な事をしなくて済むからな」

「そうか、余の魅力を知って貰えたのは喜ばしい事だ! 」

「そんで、具体的にはどう世界を征服する予定なの?テロでもやるんなら、分が悪くないかい? 」

「それは、こういう事よ! 」

ハジメは、チラシを出してきた。

「え~と、秘密結社世界征服団? 」

「うむ!実に分かりやすい会社名だろう?代表者名を見てみるがよい! 」

「斉藤ハジメ…へえ、高校生でも起業できんのね。でも、この会社がどうしたのよ? 」

「余は、この会社を育て上げ、財力と交渉を持って、大きな土地を買い国を作る! 」

「…ほほう、こりゃあまた大きく出たねぇ。そんな事可能なのかい? 」

「国には、土地と住民と統治機構があればよい!ならば、まずは島を一つ買い上げ、そこに民を呼び寄せ、統治機構を作れば、一国家の完成だ!人が住める島一つともなれば、莫大な金は必要だが、世界的な企業ならば不可能ではあるまい? 」

矢鱈と具体的なプランじゃねぇか。

今の今まで、単なるキャラ付けだとしか思ってなかったんだが、こりゃあ認識を改める必要があるかね。


「…ここまでの計画は、ハジメが一人で考えたのかい? 」

「いいや、余一人の考えではない!余の参謀として、共に計画を練り上げている友がいる。作り上げた国を広げ世界を統一するまでの計画も、練り上げている最中よ!! 」

「…一つ、謝らせて貰おうか。実を言やぁ、おれゃあてっきり、世界征服なんざ、耳目を集めたいが為の嘘っぱちだとばかり思ってたんだ」

「そう思うのも無理は無い!余の野望はそれだけ大規模故な! 」

「…おれにゃあ、計りきれる気がしねぇがだ。あんた、世界征服を実現できるかはさておき、きっと大物になれるぜ」

今こそ確信した、この男は確実に本気であり、その荒唐無稽な夢を、実現するための手段を本気で考えているのだと。

無気力に生きてきたおれにゃあ、心底眩しい相手だ。


「…なあ、トシヒコよ。余の旗下に加わる気は無いか? 」

「おれゃあ、夢も持たず、無気力に生きてきた学生だぜ?ハジメの野望はちと荷が勝ちすぎると思うがね? 」

「人を作るのは、才能ではなく、立場だ。必要な能力なぞ、今からでも磨きあげれば良い。それより、余は貴様が気に入ったのだ」

「…ほう?それはまた、理解に苦しむね?ハジメの興味を持つような発言をした覚えは無いんだが」

「余の発言を、こう真面目に聞いてくれる人材なぞ、会社を立ち上げた同志達を除けば、ほぼおらなんだ故な。嬉しかったのだ」

ハジメは、足を跳ね上げて、反動で立ち上がると、右手をこちらに伸ばしてくる。

「貴様、余の片腕となれ。余の覇道を側で見届けて欲しい」

「…具体的には、俺にどういう役割を与えたいんだい?」

「国を作ったならば、余がその国主となるは当然。しかし、会社の財力は世界征服の野望には必要となる。故に、会社を任せられる、信頼出来る人物が欲しい…トシヒコ、お前に、余が抜けた後の会社運営を頼みたい」

「いいぜぇ、精々俺に出来る全力で努めさせて貰うとしますか」

俺は、ハジメの手を取って立ち上がり、改めて握手を交わした。



それから、10年近くが経った。

ハジメが立ち上げた会社は、世界経済の一角を担う程に成長し、どこの国にも属していない、外洋沖の一無人島を購入するに至った。

漸く、世界征服のスタートラインに立てた、と言えるだろう。









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世界征服の資質 牛☆大権現 @gyustar1997

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