第5話

「不承知だ。

 俺は不承知だぞ。

 ペイズリーを手放したりはせんぞ!

 やれ、やってしまえ!

 俺が王に成ったら、皆に爵位をくれてやる」


「「「「「は!」」」」」


 一瞬の事でした。

 ホールに詰めている近衛騎士の大半が剣を抜き、私だけではなく、国王や王妃にまで殺到したのです。

 ですがさすがに、国王陛下の側近くに控える近衛騎士までは、王太子殿下も籠絡できなかったようです。


 最初の一撃で、王太子が手を伸ばさなかった、王に忠義を尽くす近衛騎士の大半が、怪我をしてしまいました。

 いくらフルアーマープレートを装備していても、不意に剣の一撃を受けたら、怪我をしても仕方がありません。

 しかし、シャビエル卿は違いました。


 飛行騎士団に所属する天馬騎士のシャビエル卿は、近衛騎士と一緒にこのホールにおられましたが、装備が違うので一目で分かります。

 近衛騎士が鋼鉄製のフルアーマープレートを装備しているのに比べて、天魔に負担をかけないように、軽量で強固な魔獣の皮鎧を装備されているのです。

 シャビエル卿が獅子奮迅の活躍をしておられます。


 シャビエル卿が瞬時に私の側に駆け寄り、私を斬ろうとした近衛騎士を斬り殺してくれました。

 最初からアレックスと約束していたのでしょう。

 親友のアレックスとの約束を守り、例え王が相手であっても、私を護る覚悟をしてくれていたのでしょう。


 ギャァァァァ


 アレックスが竜を駆って助けに来てくれました。

 私がアレックスに渡されていた竜笛を吹いたので、助けに来てくれたのです。

 

「国王陛下は味方です。

 敵は王太子とペイズリー。

 彼らに味方する謀叛人の近衛騎士達です」


 助けに来てくれたアレックスと竜に、誰が敵なのか伝えました。

 その後は一方的な虐殺でした。

 強靭な前脚を振るうだけで、数人の近衛騎士がフルアーマープレートごと紙のように切り裂かれるのです。

 遂には王太子とペイズリーも、ズタズタに切り裂かれて息絶えました。


 その後の事もアレックスの独壇場でした。

 竜に跨ったアレックスに、国王も正妃も抵抗などできませんでした。

 マーキス男爵家は、フォーファー伯爵領を加えて、マーキス侯爵家となりました。

 もっともフォーファー伯爵領は、マーキス男爵家が自力で討伐して切り取らなければなりません。

 アレックス個人も竜騎士として一代伯爵と成りました。


 我がウェセックス伯爵家も、謀叛に加わった近衛騎士の領地を、飛び地として拝領しました。

 そして私はアレックスと婚約しました。

 幸せです。

 ですが結婚して子供が産まれたら、一時的に離れ離れにならなければなりません。


 アレックスはシャビエル卿に約束していたのです。

 手助けしてもらう代わりに、一緒に竜を探しに行くと。

 命懸けの旅に成りますが、今度はアレックスの竜も一緒です。

 前回の旅よりは安全でしょう。

 それに新しい竜に勇気を示すのは、シャビエル卿です。

 アレックスに危害はないと信じています。

 

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伯爵令嬢が婚約破棄されて、幼馴染の竜騎士が激怒した。 克全 @dokatu

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