持久走

走るのが得意だったこと 今でもちゃんと覚えている

短距離は負けなかったこと 恥ずかしく思ったことでさえ


忘れたいって思ったのに どうして記憶は優秀だ

笑って誤魔化した言い訳を誰もいないのに呟いてる

覚えられない事は多いのに どうにも記憶は理不尽だ

黙って噛み殺した惨めさは自分が一番わかってる


息が切れて立ち止まって見上げた空に探してる

言い訳の太陽とか 流れ落ちた雨の行方とか

止まったままは怖いから少しずつでも歩いてく

進んだ道は戻れないから 抜け道もわからないから


乾いた声が叫んでいる ハートのずっとずっと奥の方

「まだ足は動くだろ?乾いた声で叫んでやれ」


大丈夫 大丈夫

始まったばっかりの人生だろ

自分を見失わないように自分の価値を考えて

手探りで生きてるだけだから

もうちょっと もうちょっと

ちっとも終わりが見えないだろ

それでも走ってられるように自分の得意を忘れても

すぐ思い出せるようになれるから


最初は1番だったこと 今ではさっぱり忘れてる

長距離は苦手だったこと それは忘れられないのに


走りたいって思ったのにどうして体は貧弱だ

勝手に過ぎてく後ろ姿 誰に向かって手を振ってる?

仲間はいるって思ったのにやっぱり世界は残酷だ

焦って仕舞った悲しさの 位置も自分じゃわからない


つまづいて転げ落ちて見えた空から伸ばされる

優しさの両腕とか かなり速い足音とか

並んで走ってくれたけど少しずつ離されていく

最後までは無理だから 一緒に走ってられないから


滲んだ目で捉えてる 視界のずっとずっと端の方

まだ足は動くかな? 呼吸はどれくらいもつんだろ?


大丈夫大丈夫

よくあるいつもの世界だろ

そんなよくある世界にあなたの心の全てが

どうか変わってしまわないで

もう一回もう一回

なんてことはもう無理だろ

自分で自分を辞めないよう自分の得意を思い出して

走り続けるしかないだろう



それでも疲れて立ち止まって自分自身を見失っても

どうにか動く両足で なんとか保った心臓で


走るのが得意だったこと 今でもちゃんと覚えてる

短距離は負けなかったこと 自信にもってたことでさえ

乾いた喉は乾いたまま ハートのずっとずっと奥の方

まだ覚えているんだろ 最後に主役を教えてやれ


大丈夫大丈夫

終わってなんていないだろ

自分が輝いていれるように自分の価値を考えて

やっと見つけた今だから

精一杯精一杯

ちっとも終わりが見えなくても

走り続けていられるように自分の得意を抱き抱え


ゴールは決まっているから

最後に追い抜かしてやればいい自分の得意を誇って

すぐに自分が好きになれるから

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雑多箱(詩集) 吉正 @44masa

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