第45話「心へ……」
しかし、リゲルは一定値を越え条件は満たしたものの一向に僕とクレア先輩の意識共有がされる様子がなかった。
「数値は基準値を上回っているのにどうして……」
条件はそろったはずなのに意識共有が出来ず心の中に入れない原因がわからなかった。
「じいちゃん……?」
僕はじいちゃんのことを信用している。おそらくはじいちゃんでもわからない予期せぬトラブルが起きたのだろうと思った。
「……リゲルの数値は問題ないはずだ。どこかで意識共有するための何かが止まっているのだと思う」
「どこで止まっているか調べましょう。時間はかかりますがそれしか方法はないと思います」
「うむ……」
じいちゃんとティアはどこで装置がトラブルを起こしているか解明するため装置のコードをひとつひとつ調べた。リゲルは数値に表示され、電気も通っているため内部のトラブルではどうやらなさそうであった。
そして数分後……原因は思ったよりもすぐに分かった。
「これは……そういうことか」
「じいちゃん?」
「うむ……クレア王女様の方に繋いでいるコード、このあたりを調べていたらリゲルの流入が止まっている」
「どういうことでしょうか?」
ティアがじいちゃんにリゲルが止まっている理由を聞いた。
「言いにくいことだが……つまりクレア王女様はイメージの意識共有することを拒否している。つまりノエル……お前に心を開いてはいないということだ」
「あっ……うん、でもまぁ……」
無理もない。僕とクレア先輩はそこまでお互いに話をしたこともなく、最近になってようやく少し会話をしたぐらいだ。別に僕はそこの部分では特に何とも思わなかった。
「でも……そしたらどうやって意識共有をすればいいのさ?リゲルの量が足りても心を開いていないから入れないのならどうしようもないじゃん」
僕がそう言うとじいちゃんはもう1つのヘッドマウントデバイスを出してきた。
「もう1つヘッドマウントデバイスがある。誰か1人クレア王女様が心を開いている誰かを間にいれて意識を共有させる」
しかしそう言われてもクレア先輩が心を開いている相手が誰かと言われても僕にはわからなかった。
「クレア様の執事さんはどうでしょうか?一緒にいる時間は長いですし」
「それだ!じゃあ執事さん……」
僕は執事さんの方を見ると首を横に振りだした。
「いえ……おそらく私には心を開いてはいないと思われます。そうでなければ過労でこのような不足の事態が起こるようなことなかったでしょう……。おそらくクレア様が心を開いている相手は……」
そう言うと執事さんはアイリの方にゆっくり視線を向けた。
「え……私?」
「はい、クレア様はアイリ様と出会った日にとても楽しくその日のことを話していました。あのように楽しくお話をされるクレア様は滅多にないものです。そして何を隠そう今日のパーティーもアイリ様とお話をするために準備したと言っても過言ではありません……」
「うむ……」
そして、それを聞くとじいちゃんはヘッドマウントデバイスを持ってアイリの前までやって来た。
「アイリ……やってくれるか?」
「うん……もちろんだよ」
そしてじいちゃんの持っていたヘッドマウントデバイスを受け取る。
「よし……もう1つのデバイスも繋げる。ティア君すぐ準備にかかるぞ」
「はい」
そう言うと2人はすぐに機械の設定に取り掛かった。そして数分後設定は完了した。
「よし、ノエル、アイリはデバイスをつけてくれ。そしてこちらの機械に電源をいれてからノエルは先ほどと同じようにリゲルを体に溜めてくれれば良い」
「うん、わかった」
「……大丈夫だよねノエル」
いつも明るいアイリが珍しくちょっと弱気な発言をした。
「緊張しているの?」
「うん……戦いなら自信はあるけど、心の中に入って治すなんてそんなお医者さんみたいなこと出来る自信なんてないし」
「……でもやるしかないよ。大丈夫だよ……きっと僕とアイリで力を合わせればきっとクレア先輩をたすけられるさ」
「……そうだよね。私とノエルなら」
アイリを励まし僕はヘッドマウントデバイスを被った。
「お二人とも準備はいいですか?」
ティアが僕とアイリに大丈夫かどうか聞いてきた。
「僕は大丈夫。アイリは?」
「私も大丈夫だよ。ティアちゃん私は何もしなくていいの?」
「はい、アイリさんを経由してノエルさんがリゲルが規定値を越えれば自動的にアイリさんもクレア様と意識共有が出来ると思います」
「わかった。ありがとうティアちゃん」
「じいちゃん、成功した後は僕らはどうすればいいの?」
「うむ、おそらくだがクレア王女様が意識を失っている原因が心の中にある。それを意識共有している間に見つけ排除出来ればクレア王女様は目を覚ますはずだ。まずは原因を2人で探すんだ」
「わかったよじいちゃん」
「よし、では電源をいれるぞ。ノエル、リゲルを体に溜めてくれ」
じいちゃんはそう言うと機械に電源を入れ僕もそれにあわせてリゲルを溜めた。
「……はぁぁぁぁ」
僕の体が徐々に光始めた。
「数値大丈夫か?」
「はい。問題ないです」
「なんか……頭の中がぼーっとしてきたような」
「多分、意識共有が成功してきている証拠だと思います……頑張ってくださいアイリさん」
「そう……なんだ」
「はぁあああ!」
そしてディスプレイの数値が一定になった。
「よし!いけるぞ」
そして僕はじいちゃんのしゃべり声をなんとなく聞き終わったぐらいに意識を失った……。
「……成功したんですか?」
「あぁ、まず間違いなく」
ぐったりとしたノエルとアイリの姿を見てどうやら意識共有することに成功したのを確信した。
そして……
◇◇◇◇◇◇
「……ん?ここは」
目が覚めると真っ白な空間にいた。
「あっ!ノエル気づいた」
真っ白い空間の中にはアイリがいた。
「ここがクレア先輩の心の中……ってことなのかな」
途方もない真っ白い空間の中で僕は立ち上がりまわりを確認する。
「うん。そうなんじゃないかな、よくわかんないけど」
「でもただ真っ白な空間が広がっているだけで何もないよ……。こんな所に本当に原因なんてあるのかなぁ」
「あっ!ねぇねぇノエルあっちにドアがあるよ」
アイリが指を指した方向を見てみると真っ白な空間の中にポツンとドアがそこに存在していた。
「本当だ……。でも何だろうあのドア」
「んー……とりあえず行ってみようよ」
「そうだね。とりあえずここから移動しないと」
僕はアイリと2人でそのドアの方に向かって歩いて行った。そしてドアの前に立った。
「さて……このドアを開けていいものかどうか」
「でも他に何もないよ。あとは真っ白な空間が広がっているだけ」
「うん。あっそうだアイリ、アイリの機能でここから辺をレーダーで探知とかできないの?」
「やってみるね」
そう言うとアイリの目の色が変わりレーダー機能を使ってもらった。調べてもらうのと同時ここの広さがどれぐらいなのかと同時にこの白い空間の中でアイリのヒューマノイドとしての機能が使えるのかどうかも気になる。
「どう?」
「ダメみたい。なんかERRORって出てくるだけで何も調べられないよ」
「そっかぁ」
どうやらこの空間ではアイリの機能は正常に機能しないようだ。他の機能はわからないがこれはどうやらアイリに頼って簡単に行く
「仕方ない。とりあえずこのドアを開けてみよう。ここで考えていてもしょうがないし」
「わかった」
「じゃあ……開けるよ」
僕はドアノブに手をかけ、静かにガチャっとドアを開けた。
そして……そこには豪華で広い部屋が広がっており、その中に少女が一人いた。
「あ~あこのお人形さん飽きちゃったわ……もう」
人形を片手にどうやら1人で遊んでいるどこか気品のある美しいショートヘアーの少女。
「あれ……あの女の子誰だろう……それにここは?」
先ほどとは違い真っ白な空間ではなく物凄い豪華な部屋に今度は移動したようだ。
「ねぇ君……」
僕は部屋にいる女の子に話しかけた。
「あ~あお姉さまのお稽古早く終わらないかしら……」
「あれ……気づいていない?ねぇ君……」
「このお洋服も飽きてきちゃったわ」
どうやらこちらの存在に気づいてはいないようだ。
「ノエル、この子私達が見えてないみたい」
「うん……みたいだね」
先ほど話かけた様子から見るとどうやら彼女には僕らの存在が認識できていないということは僕にもわかった。
すると、アイリはこの少女を見ているとのあることに気付く。
「ねぇノエル……この女の子誰かに似ていると思わない?」
「えっ……似ている?う~ん……」
「クレア様!」
考えているうちに部屋の外から誰かが入ってきたようだ。格好から見るとどうやらメイドのようだ。
「ん……?クレア様……。あっそうだよクレア先輩だ」
「うん。そうだよね……でも何でクレアこんなに小さくなっちゃたんだろう」
「……う~ん」
「クレア様もう……こんなに玩具を散らかして。そんなことではソフィア様に笑われてしまいますよ!」
「もうナターシャまたお説教なの?もう……」
どうやらこのメイドの名前はナターシャというらしい。しかし会話の中に出てきたソフィアという名前どこかで聞いた覚えが僕にはあった。
「ソフィア……?」
聞いた覚えがある名前であった。
「どうしたのノエル?」
「いやソフィアってどこかで聞いたことがあると思って……」
僕はこのソフィアという名前に何故か引っかかりを覚えた。しかし明確に思い出せないでいる。
「お姉さまは次期王位継承者ですもの。立派なのは当たり前ですわ!私はどうせ王位は継げないもの」
「もうクレア様。そんなことではいけませんよ」
「ん……?ソフィア……お姉さま……そうだよ!確かクレア先輩には確かお姉さんがいたはずなんだ」
「えっ?そうなんだ」
「うん……でも確か昔何かの理由で……」
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「クレア入るわよ……いいかしら?」
「あっ!お姉さま……うん、いいわよ」
クレアがそう言うともう1人クレアによく似た美しいロングヘア―をした少女が入ってきた。容姿は普段僕らが見ているクレア先輩をそのまま幼くした感じでとても美しく気品があった。
「クレア良い子にしてた?」
「うん、してたわよ」
「そう、でも部屋が少し散らかっていないかしら?」
部屋の中は確かにソフィアの言う通りお世辞にも綺麗とは言えず、遊んだ人形などが散乱していた。
「そうなんですよソフィア様……クレア様ったら遊んだものを片付けられなくて……」
「そんなのまわりの使用人にやらせたらいいじゃない」
「クレア、そんなことではいけませんよ……あなたもフィールランド王家の王族の1人なんですから。まわりの模範になるような振る舞いをしなくては」
「どうせ私は次女だし、王位継承は出来ないんだからお姉さまのように立派になる必要なんてないわよ」
「クレア……」
どうせ王位継承は出来ない……とても冷たくその言葉をソフィアに言い放った。そしてその言葉を聞くとソフィアも表情をみるみる曇らせてしまった。
どうやら僕の知っているクレア先輩とはまるで真逆であった。わがままで本当に世間知らずな女の子という感じがする。
「うわぁ……なんかこの小さいクレア凄いね。私の知っているクレアと全然違う」
アイリも僕と同じようなことを思っていたらしい。そして僕はこの光景を見てある1つの仮設を立てた。
「うん……。あと推測でしかないんだけど……多分僕達はクレア先輩の過去を見ているんじゃないかな」
「えっ?どうしてここが過去だってわかるの?」
「まずはクレア先輩の容姿。見たことはないけど、どう見ても子供の頃のクレア先輩だ」
「それは私にもわかるけど、他に理由は?」
「あとはクレア先輩のお姉さんソフィア様が生きていること……」
「えっ……?クレアのお姉さんって……死んでいるの?」
アイリはソフィア様が故人であるという事実を聞くととてもびっくりしたようだ。しかし……アイリがソフィア様が故人であるという事実を知らないのは無理もない。
「うん……確か僕の記憶だとお姉さんが死んでそのせいでクレア先輩が王位を継がなきゃいけないことになったらしいんだけど。僕も詳細は良く知らないんだ」
「ここがクレアの過去の世界……」
僕達がこの光景を見ているその理由は……。
紅涙の機械戦乙女(マシンヴァルキリー) 玖城和希 @kujokazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。紅涙の機械戦乙女(マシンヴァルキリー)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます