第44話「素質」
「どうかね?数値の方は」
ウィリアムはティアにディスプレイのリゲルの数値を聞く。
「上昇はしていますが……まだ足りていません……」
冷静にティアがウィリアムに数値を伝える。
「そうか、リドさんまだ稼働の数字までには足りませんもう少しリゲルの方をお願いします」
「は、はい!……はぁぁ」
ウィリアムの指示通り体にリゲルを溜め続けるリド。
しかし、ウィリアムの顔に少し焦りが出てきた。
(これでは……)
「ウィリアムさん?」
その焦りに少し気づいたティア。
「あぁ……す、すまない。数値の方は?」
そして数十分が経過した……。
「ダメです……数値がやはり足りません」
「…………」
「はぁ……はぁ……」
リドはリゲルを体内に長時間溜め続け体にかなりの疲れが出てきた。その証拠に汗が大量に体から出てきているのが2人からもわかった。
「ウィリアムさん」
「あぁ、主電源オフ。リドさんヘッドマウントデバイスを外してください」
「えっ……何故ですか?ウィリアムさん私はまだ……」
「いや、外から見ればわかります。かなり疲労がこちらからも伺える。とりあえずこちらの指示に従ってください」
「はい……」
そう言われるとリドは渋々デバイスを脱いだ。
「ティア君、リドさんの数値は可動域までに必要な数値のどれぐらいまで上がった?」
「はい……MAXでも半分ほどしか……」
「そうか」
リゲルの数値が一定以上上がらないのであればこの装置は機能しない。そんなことは本人もわかっていることだった。このままではここに来た意味もなくなってしまう。
「ウィリアムさんもう一度設定の見直しをしてみます」
「……あぁ頼む」
そしてティアと共にもう一度設定などを見直す。しかし、いくら設定を見直してたりなどしても数値に届くことはなかった。
「ウィリアムさんやはりダメです……」
「……うぅむ。他に紋章士の方はいないのでしょうか?」
「今ここにいる紋章士は私しか……私の力ではこの装置を使うことはやはり無理なのでしょうか?」
そしてリドがそう言った後、ウィリアムは少し考えた。
「……仕方がない。紋章士の方は私がなんとかしよう」
「えっ……一体」
「何とかするって」
(やはり……頼るしかないのか……)
◇◇◇◇◇◇
「なんか静かになったね。部屋も光らなくなったし」
「うん」
部屋の外で僕とアイリは静かにじいちゃん達の成功を祈るのみであった。
「大丈夫なのかな」
そんなことを心配しているとじいちゃん達が部屋から出てきた。
「あれ……じいちゃん」
「…………」
ウィリアムは部屋を出てきて僕達の方を向いて無言で立っていた。
「……じいちゃん?」
「……ノエル」
じいちゃんが神妙な顔でこちらを静かに見つめ僕の名前を呼んだ。
「お前はクレア王女様を救いたいか?」
「え……急にどうしたの?」
「どうなんだ?」
「おじいちゃん……?」
急な問いかけに対してアイリも思わずどうしていいかわからずにいた。
「そ、それは……もちろん助けたいに決まっているよ!だからこうして……じいちゃんに頼んで機械を持ってきてもらっているんじゃないか!」
当たり前のことを聞かれたからなのか少し声が大きくなってしまったようだ。
「うむ……わかった。では部屋に入ってこい」
「えっ……?何で」
「いいから部屋に入ってくるんだ」
「う、うん」
じいちゃんにそう言われると僕は立ち上がりクレア先輩が治療している部屋に入った。
「あっ……ノエル」
ノエルが立ち上がり部屋に入ろうとするとその後ろからアイリも一緒についてきて部屋に入る。
「ノエルさん……?」
「まさか紋章士の方を何とかするというのは……ノエル君のことですか?」
リドさんがそう言うとじいちゃんは小さくうなずく。まわりにいたリドさんとティアは驚きを隠せないでいた。
「ウィリアムさん一体……」
「リドさん、ノエルにリゲルを体内に溜める基本を教えていただけませんか?」
「えっ……それは」
じいちゃんに言われるとリドさんは少し渋る様子を見せた。
「確かにノエル君には紋章士としての素質の片鱗は見えましたが、この装置を稼働させるまでの力があるとは」
「やってみなければわからないこともあります。それに他に紋章士はここにはいないのであれば他に手段がないと思いますが」
じいちゃんは冷静に今の状況をリドさんに説明をする。
「……わかりました。本当はダメなことなのですが……では本当に基本だけ」
「お、お願いします」
そう言うとリドさんは立ち上がり僕の方に来て基礎を教えてくれることになった。
「ではノエル君本当に基礎だけ……。まずはノエル君にこの空間に漂っているリゲルを感じられることが出来るようにします」
目の前で手を広げリドさんは僕のおでこに指をあてた。するとだんだんと何故か体の内側から熱くなってきた感じがする。
「……リドさんこれは」
「手っ取り早くリゲルを感じ取れるように今ノエル君の額にあるリゲルを感じ取るための孔を開いた。しばらく苦しいと思うがすぐに慣れる」
体がだんだんと熱くなり呼吸が出来なくなるような感覚になっていく。僕は苦しくなり地面に手を着いた。
「うっ……はぁはぁ……」
「ノエル!」
僕が倒れた瞬間アイリが声をあげる。しかし段々リドさんの言うように慣れてきて平気になり僕は地面から手を放し立ち上がる。
「……ノエル君、どうだいこの空間の感じは?」
「部屋の感じ……?」
確かに先ほどとは違った感じがした。何だかこの空間自体が別のような感じがした。
「なんか同じ空間なのに違う感じがします……」
「その違和感こそリゲルを感じ取れるようになった証さ」
「これがリゲルの感覚……」
「そして最後にリゲルを体に溜める方法だ。まずは私が溜めるからそれをノエル君は見てくれ。習うより慣れろ。リゲルを感じ取れるようになった今なら多分見ただけでなんとなくわかるはずさ」
そう言うとリドさんはすっと構えを取り息を静かにして深呼吸をし始めた。
「はぁぁぁ……」
リドさんの体が段々と白く光り始める。
「あ……」
紋章士の輝きと思われるリゲルを体に溜めて自らの力にする光景。思わずその美しさに僕は見とれてしまうほどであった。そしてしばらくすると再び光が収まる。
「どうだい?」
「やってみます……」
何となくだが理解はぼんやりと出来た。リゲルの流れを感じ取れるようになったおかげでリドさんがどうやって体にリゲルを溜めたのか今の僕にはそれが理解できたような気がする。
「はぁぁぁ」
この空間にあるリゲルを素直に感じ取り、潮流に逆らわずそれを呼吸をする同じ感覚で体に溜める。
「あっ……ノエルの体が……白く光り始めた」
「ノエルさん……すごい」
「あっ……僕の体」
自分の体が白く光っていることに気づいた。
「うまく出来たか。すごいなノエル君。しかも初めてでかなりのリゲルの量を溜められている」
「よし……ノエル早速で悪いが時間がない。このヘッドマウントギアを被ってもらうぞ」
じいちゃんがそう言うと僕にヘルメットのような機械を渡してきた。
「えっ……これ」
「クレア王女様の心の中に入るための機械だ。これを被りリゲルを体に溜め装置を稼働させ心の中に入りクレア王女様を助けるのだ。お前にしか出来ないことだ」
そしてその後ティアさんから軽く装置の使い方などの説明を受け、僕は覚悟を決めた。自分にしか出来ないこと。そしてそれを出来る力を今持っておりみんなから求められている。断る理由など僕にはなかった。
「ノエル君頼んだぞ……クレア様の命」
「はい」
(しかし、ノエル君のこの紋章士の素質……末恐ろしい。少し見ただけで私のリゲルの量を遥に超えている……。クレア様程とはいかないがこれが天才、才能の違いということなのか……。しかしこれからもし鍛錬を積めばもしかしたらクレア様以上の……)
そして僕はじいちゃんに渡された機械を被り準備は完了した。
「ティア君準備はいいか?」
「はい、ウィリアムさんいつでもどうぞ」
「では装置の電源をいれてくれ」
「了解」
そう言うとティアはメディカルスピリットマシンに装置に電源をいれる。
「ノエル、リゲルを体に集めてくれ」
「わかった」
そしてじいちゃんに言われるがままに先ほどと同じ要領で体にリゲルを溜める。
「どうだ?」
「今のとこ順調です。数値は上がって行っています……すごい」
「うむ……まだ数値には足りないがノエル大丈夫か?」
「……大丈夫。はぁぁ……」
自分の体にどんどんとリゲルが体に溜まっていくのがわかる。
「すごいよノエル!」
「ティア君、計測器の数値は?」
「数値稼働基準値を越えました!いけます!」
「よし……成功だ。ノエル準備はいいか」
「うん!」
そしていよいよクレア先輩の心の中に入る。
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