第43話「紋章士の輝き」
「あの……作業中に聞くことじゃないと思いますが、もしかしてあなたはウィリアム・ゼーべックさんではないでしょうか?」
機械を治療室に入れる作業中にティアがじいちゃんにそう言った。
「確かにそうだが、それが何か?」
「やはりそうですか。私ウィリアムさんの大学の講演に足を運んだり著書などはそれなりに拝見させていただいていますのでもしかしたらと思ったのですが……ウィリアムさんのお手伝いを出来るなんて私ちょっと感動してしまいまして」
「そうか。そういえばどこかで見かけた顔だと思ったが……」
「はい、何度かウィリアム先生の講演で質問もさせていただきました」
「へぇじいちゃんってやっぱ有名な人なんだね」
「ん……ところでこちらの方々は?」
ティアと呼ばれる少女が僕とアイリのことを聞いてきた。
「その2人の名前はノエルとアイリ。私の孫とその妹だ」
「僕ノエル・クスガミ。今日はじいちゃんの助手を務めてくれるということでよろしくお願いします」
「私アイリ、今日はよろしくねティア」
「よろしくお願いします。ノエルさんアイリさん」
「ティアさんは僕のじいちゃんの講演とかに行ったことあるんだ」
「もちろんです。それとウィリアム先生の量子力学の本や量子コンピューター理論の本などは全て目に通させていただいています。ノエルさんはウィリアム先生のことをよくご存じないのですか?」
「う~んあんまりは……」
「それはすごいもったいないです。ウィリアム先生は過去にも我がフィールランド連合王国でヒューマノイドの開発にも大きく貢献をしている偉大な人なんですよ?」
「あぁ……何となくそれは知っているかな。詳細は良く知らないけど」
そう、僕のじいちゃんは過去に軍で研究者をやっていたというのは僕も聞いている。でも後に軍の研究者を辞め、今は大学の教授をしたり、色んな機械を自宅で作ったりしているが何で軍を辞めてそうなったかは僕にもわからない。
「……昔の話だ。それよりティアそちらの設定の方を頼む」
「あ……すいません。では……」
そう言うと2人は機械の方の設定の方の作業に移っていく。
じいちゃんはなぜか昔の話をあまりしたがらない。特に軍に在籍していた時の話などは僕もこちらからはあまり聞かないし、じいちゃんも自分からは話をしたことがない。昔一度だけ子供の頃聞いたことがあったがじいちゃんが何だか悲しそうな顔をして、そのせいか今でも聞きづらくなっているというのが本当の所だ。
(じいちゃん……軍にいたころ一体何があったんだろう……。僕には何も話してくれないし)
そんなことを考えているとリドさんが口を開く。
「そうか……やはりノエル君のおじいちゃんはウィリアム・ゼーベック博士であったか」
「リドさんもご存じなんですか?じいちゃんのこと」
「まぁ少しはね……。彼女ほど本を読んだり講演なども出向いたことはないが、私も耳にしたことぐらいはあるよ」
「へぇ……そうなんですか」
僕の知らないじいちゃん。いつも家で一緒にいるけどやっぱ凄い人なんだ。そう思うと僕は少し誇らしげに思えた。そしてしばらくするとティアという少女に機械の説明をしたあとどうやら初期設定が終わったようだった。
「ではティア君、マシンを治療室へ運ぶぞ」
「はい」
そう言うと台車ごとじいちゃんの機械をクレア先輩が治療している部屋に入っていく。ピッピッピッピッ……と心電計の音が響く真っ白な部屋にじいちゃんとティア、そしてリドさん達が入っていく。
「このコードをそっちのプラグに繋いでくれ」
「はい」
「電力供給の方は問題ないか?」
「出力のほう安定していません」
「ではサブバッテリーの電源をメインに接続して安定させる。回路の切り替えを」
「ではB回路を切り替えます」
何だか難しい作業をしているみたいで僕の出る幕はどうやらないみたいだ。
(それにしても僕とそんなに変わらない年のしかも女の子がクレア先輩を助けるために役に立っているのに僕はただこうやって見守るしかないのか……)
僕は心の中に自分の無力さに葛藤しながらもじいちゃんとティアの作業を見守った。
◇◇◇◇◇◇
「このケーブルを繋げば……よし、ティア君ではこのケーブルをクレア王女様の頭と胸の部分につけてくれ」
ウィリアムは機械から出ている数本のケーブルをティアに渡した。
「……このあたりでよろしいでしょうか?」
そう言うとティアはパッドが付いたケーブルを頭に2つ胸の真ん中あたりに1本合計3本をクレア先輩の体につけた。
「何とかマシンの設定の下準備は終わったな。さて……ここからがこのマシンの本題だ。クレア王女様の心の中に入る準備をする」
「では接続します」
ティアは何かの機械をマシンと接続し始めた。
「あの……ウィリアムさんもノエル君も言っていたのですが、心の中に入るというのは具体的には一体どういうことなのでしょうか?」
当然の疑問であった。心の中に入るというのは言葉に表しても具体的に想像は出来ないものだ。
「うむ……では丁度準備が出来たところで少し簡単に説明させてもらおうか。まずクレア王女様に繋いだケーブル。このケーブルを通して心の中のイメージを信号化する。そしてマシンを通しヘルメットのような形をしたヘッドマウントデバイスがその信号を拾いイメージを具現化、着用した人物にそのイメージを具現化したものを意識レベルで共有をするということだな」
「なるほど……」
「だが、このイメージを具現化し意識レベルで共有するというのは一定のリゲルが必要不可欠なのです。すなわち紋章士の力がいる……。だからこの心の中に入るという仕事はリドさん、あなたの紋章士としての力が必要なのです」
「クレア様の命を救うことが出来るなら喜んでその役引き受けさせていただくこと、身に余る光栄です」
「そうか、ではこのヘッドマウントデバイスを付けてくれますかな?」
そう言うとウィリアムはヘッドマウントデバイスと呼ばれるヘルメットのような機械のをリドさんに渡す。
「これ……ですか?被れば良いのでしょうか?」
「うむ」
「あの……」
リドは一瞬、何か言葉をと途切らせるとウィリアムから渡せれ着けようとしたヘッドマウントデバイスの着用をやめた。
「何か?」
そしてリドが口を再び開く。
「……恐らくなのですが、クレア様の呪術が解けていないということはまだ敵の暗殺者はクレア様の深層意識の中で生きていると思われます。もしクレア様の心の中に入ることが出来たとしても、クレア様の心の中で敵を排除するということは戦闘もあるかと思います。その……大丈夫なのでしょうか……?」
「それは……」
ティアの心配そうな声が漏れる。するとウィリアムが口を開く。
「そこまでは正直私にもわかりませんな……。何せこの機械を使うこと自体が初めてなのですから。私も研究者の端くれです。不確定なことに対して安易な回答は出来かねます。ましてや絶対大丈夫ですなどと気休めで詐欺師紛いのようなことも言うつもりもない」
「そう……ですよね」
「どうしますかな?」
しばらくリドとウィリアムそしてティア達との間に部屋の中で沈黙が訪れた。
すると……
「わかりました……やります。それが私にしか出来ないことであればやらせて下さい」
「良いのですね?」
「はい、どちらにしろこのまま何もせずにいればクレア様の命が危ない事には変わりありませんので……」
そう言うとリドは再びデバイスを手に握った。
「わかりました。では椅子に腰を掛けてデバイスを頭に着けてください。着け終わったら椅子に腰をかけリゲルを体に溜めてもらいます。マシンが作動し意識を共有すると自分の意識がなくなるので立っていられなくなりますので」
「再び私が意識を戻すにはどうすれば良いのでしょうか?」
「うむ、こちらからマシンの装置の電源を切る、もしくは患者が目を覚ますのどちらかですな」
「了解です」
そう言うとリドは近くにあった椅子に腰をかける。
「それと、わかっているとは思いますがこちらからは中の様子は一切わかりません。こちらが危険と判断した場合は電源を切り治療は中断させてもらう場合もあります」
「わかりました。当然と言えば当然ですね」
リドはそう言うとヘッドマウントデバイスを頭に着けた。
「では行くぞ。ティア君……リゲルのデバイスコンソールの方にも電源を入れてくれ」
「はい」
ティアがマシンのいくつかあるうちのスイッチをつけるとディスプレイにあった画面に別の画面がが表示される。
「リドさんでは……リゲルを体内に溜めてください」
ウィリアムにそう言われるとリドは静かに黙り意識を集中させた……。
「はぁぁぁ……」
リドの体が白く光り始めた。
「どうだ……?」
「今の所トラブルは見受けられません。数値はこちらの画面では順調に上昇しています」
「うむ……」
「……はああああ!」
掛け声が激しくなると共にリドの体は輝きを増し、リドは体内にリゲルを溜め装置でイメージを具現化出来る稼働領域まで持っていこうとする。
「綺麗……これが紋章士」
「どうした?」
ウィリアムは少しティアの気が散ったのを少し気にかけた。
「いえ……紋章士としての力をこうして目にしたのが今初めてだったものでつい」
「そうか、まぁ見る機会などは普通ないものだからな」
「ウィリアムさんはあるのでしょうか?」
「あぁ……」
そして、そのリドのリゲルの輝きはノエルとアイリがいる部屋の外での外まで漏れていた。
「ん……部屋が光っている?」
「ノエル、これが紋章士の力の証。リゲルの光だよ」
アイリがノエルにそう言う。
「これがリゲルの光……紋章士の力……」
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