第42話「天才児」
「しかし、クレア王女様はこの国でも屈指の紋章士なのは有名なはずですが……。相手はそんなにも腕が立つ紋章士だったのでしょうか?」
じいちゃんが王家の屋敷へ向かう車中の中執事の人に質問をした。
「はい……確かにクレア様はこの国でも屈指の実力を持った紋章士です。しかしここ最近我が王国内で不審な動きが目立っており、そのため王家での仕事も多忙になりクレア様は心身共に疲労が蓄積していました」
「なるほど」
「私共も休むように促したのですがクレア様は頑なに仕事を続け……その結果敵の紋章士の呪術に掛ってしまいこのような事態に……これも私達の失態でございます」
執事さんは申し訳なさそうな顔をし僕らに謝る。
「いえ……心中お察しします。とりあえず今はクレア王女様を助けることに専念しましょう。私も出来る限りの協力はさせていただきます」
「ありがとうございます」
執事の人はじいちゃんに深々と頭を下げた。
「あの機械のセッティング、メディカルスピリットマシンの設定についてなのですが……何しろ複雑な機械なもので1人だと設定に少々手間取ります。出来れば機械に詳しい人を助手を1人手配して欲しいのですが……可能でしょうか?」
「機械に詳しい人ですか?」
「はい」
それを聞き執事の人が考えると電話を取り出しどこかにかけた。
「……もしもし私だ。あぁ……人の手配をして欲しいのだが……構わない」
そして数分後、会話を終え執事の人が電話を切る。
「……失礼。助手の方は大丈夫です。ご心配なく」
「ん……あぁこれはどうも。何か無茶を言ってしまったようで申し訳ないです」
「いえ……これぐらい当然のことです。私共に出来ることがあるなら何なりとお申し付け下さい」
そしてしばらくすると僕たちはクレア先輩の家に乗っていた車が着いた。門が開きそこからまたしばらく玄関先まで車で走る。
「着きました。みなさんお降りください」
そう言われ僕たちは車から降りた。空は夕方から夜になっておりあたり一面はすっかり暗くなっていた……。
「アイリまた機械降ろしてもらって良いかな?」
「うん!任せて」
そう言うとアイリは後ろからついてきた機械を積んだ軽トラックの方まで歩いていき荷台の方へ走っていく。
「無理しないで慎重にね」
「大丈夫だよ」
アイリがそう言うと軽トラックの荷台にひょいっと乗る。すると機械を降ろそうとするトラックの運転手や他のスタッフが荷台の後ろにやってきた。どうやら手伝ってくれるみたいだ。
「お嬢ちゃん機械降ろすから。危ないからそこから降りてもらっていいかな?」
「ん?大丈夫だよ。私力持ちだから」
「いや……あの気持ちはありがたいんだけど、さすがに女の子1人の力じゃ……って……えっ!!」
アイリは運転手の人達や荷下ろしの手伝いの人達の前で機械を軽々と持ち上げた。その姿に皆びっくりしていた。
「お……お嬢ちゃん……す、すごい……力だ……ね」
「うん!だから言ったでしょ」
アイリが人の大きさほどある機械を楽々と持ち上げているその姿に言葉が出ないという感じであった。
「まぁ……あれが普通の反応だよね」
しかし先ほどの執事さんはあの姿を見ても何も驚いた素振りは見せなかったに心の中で引っかかったままであった。それともクレア先輩に仕えている人は何が起きても動じないポーカーフェイスをする何か特別な訓練でもしているのであろうか?
(考えてもしょうがないことか……とりあえず今はクレア先輩を助けることに専念しよう)
「ノエル」
車から降りたじいちゃんが僕の名前を呼ぶ。
「何?じいちゃん」
「機械の搬入はこちらに任せて、お前とアイリは先に家の中に入ってなさい」
「わかった。アイリ!」
「ん?何ノエル」
「機械を運ぶのはじいちゃんと他のスタッフさん達に任せて僕たちは中へ入ろう」
「は~い」
そう言うと手で軽々と持ち上げていた機械を床に降ろし僕の方に歩いてきた。
「じゃあ行こうか」
「うん」
僕たちはそのままじいちゃんの言われたとおりに先にクレア先輩の屋敷に入っていく。
「ノエル様こちらに」
「あっ執事さん……あのアイリもクレア先輩の所へ一緒に連れて行っても良いでしょうか?」
「はい、構いません。アイリ様はクレア様の大切なご友人とのことなのできっと喜ぶと思います」
「良かったねアイリ。でも病室だから静かにしていなきゃダメだよ」
「うん、わかった」
執事さんに誘導され僕たちはクレア先輩が寝ている治療室に行くためのエレベーターに乗る。そしてそのまま僕たち3人は地下へと降りて行く。そして扉が開きクレア先輩を治療している階に着いた。
「どうぞお降りください」
「はい」
「こんな地下にクレアがいるの?」
「うん……そうだよ」
そしてそのまましばらく執事さんの後ろに着いて歩いて行くと治療室に着いた。
「あ……クレア……」
そこには窓越しに点滴と呼吸器をつけ寝ているクレアの姿が見えていた。その姿を見るとアイリの表情も見る見るうちに暗くなっていく。
「あんなに苦しそうに……」
「……」
アイリにかけてあげられる言葉が僕の中に出てこなかった。苦しそうにしているクレア先輩をただ見守るしかない僕とアイリ。
「大丈夫……きっとじいちゃんの機械で治るよ」
「うん……ノエルのおじいちゃんだもんね……。きっと……」
「ノエル君戻ってきたか」
リドさんが話しかけてきた。どうやら僕らが家に機械を取りに行っている間もずっとクレア先輩の近くで見守っていたようだった。
「あ、リドさん」
「機械の方はどうだったんだい?」
「大丈夫です。じいちゃんが今持ってくると思います」
「そうか。それは良かった……」
「ノエルこの人は?」
アイリがリドさんのことを聞いてきた。
「この人はリドさんって言って、この家の警備を担当している紋章士なんだ」
「はじめまして、リドと申します。クレア様のお屋敷で警備を担当しています」
「はじめまして、私アイリって言います」
「よろしくアイリちゃん。ノエル君とはどういった関係なんだい?」
「アイリはその……僕の妹なんです」
「言われてみればアイリちゃんはノエル君に似ているね。いやまぁ兄妹だから当然と言えば当然か」
「え、えぇ……」
まただ……。少し前にじいちゃんの買い物で別の街に行った時の店の店主にも似ていると言われた。でも僕とアイリは本物の兄妹ではない。それどころかアイリは人間ではなくヒューマノイドだ。何で僕に似ているんだろう。
「ん?どうしたんだい」
「あっいえ……すいません。じいちゃんもうすぐ機械を持ってここに来ると思うんで」
「じゃあそれまでは2人共そこの長椅子で待っているといいよ」
「はい」
「では私は人を呼んでまいりますので」
「あぁ……はい」
そう言うと執事さんはエレベーターの方へ去っていった。そして僕とアイリはクレア先輩の容態を見守りながら近くの長椅子に座りしばらくじいちゃんたちを待った。そして数十分後エレベーターが動く音がした。エレベーターの扉が開くとじいちゃんとメディカルスピリットマシンというクレア先輩を治すための機械がやってきた。
「待たせたな」
「あっ……じいちゃん」
「クレア王女様の容態は?」
「それは多分お医者さんに聞いた方が良いと思うかな。リドさん」
「何だいノエル君……ん?この人がノエル君の言っていたおじい様かい?」
「はい」
「初めまして、ノエルの祖父のウィリアム・ゼーベックと申します」
「ん……?ウィリアム……ゼーベック……」
リドさんは一瞬何かを考えたようだった。
「何か?」
「あっ……失礼しました。私この屋敷の警備を担当している紋章士のリドと申します」
「ふむ……君がノエルの言っていた紋章士か」
「私が何か?」
そういえばリドさんに説明をするのをすっかり忘れていた。機械の稼働にはリゲルを使うため紋章士の人の力が必要だという大事なことを。
「あっごめん……じいちゃんそういえば説明するのを忘れていた」
「いやどうせこちらから説明するつもりだったから問題ない」
「あの……」
「リドさん、実はじいちゃんの作った機械を稼働させるには紋章士の人の力が必要みたいなんだ。だからクレア先輩を助けるにはリドさんの協力がどうしても必要みたいで。突然こんなこと言ってごめんなさい」
「そういうことだったのか……」
「大丈夫ですかな?」
「もちろんです。私に出来ることなら出来る限りのことは協力させていただきます」
「助かります。それで肝心のクレア王女様の容態は……?」
「あっそれは多分治療室の中にいる担当のお医者さんに聞いた方が良いと思うよ」
「私が呼んできます」
そう言うとリドさんは治療室の方に入っていきクレア先輩の担当の医者を呼んできてもらった。そしてしばらくすると担当の医者がリドさんと一緒に出てきた。
「ノエル君のご祖父様というのは?」
「私です」
「クレア王女様の容態は聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました。では……こちらに」
じいちゃんがそう言われると奥の方へリドさんと担当の医者と3人で状況を確認しているようだった。
「何か難しい話をしているみたいだなぁ……でもここから先僕に何か出来ることと言えばクレア先輩の容態を回復することを祈るだけみたい」
こう思うとやっぱ僕は無力なただの学生だということを思い知らされる。
「ノエル……」
僕の暗くなった表情を見て心配するアイリ。
「……大丈夫だよ。じいちゃん達を信じよう」
「そうだ……ね」
しばらくするとどうやら話が終わってじいちゃんも状況を把握したみたいだった。
「では機械の搬入と設定を始めます。ところで頼んでいた手伝いをしてくれる助手を手配してくれたらしいのだが……見当たらんが」
「そういえば……執事さんが人を呼んでくるって言ってそれっきりどこかに行ったみたいだけど、まだ戻ってきてないみたい」
「そうか」
そんな話をしているとどうやらエレベーターから誰かが降りてきたようだ。扉が開き降りてきたのは執事さんともう1人は見知らぬ少女であった。その少女の見た目は僕やアイリよりも幼い感じで、褐色の黒い肌ときれいな髪をしており少し神秘的な感じもした。
「お待たせいたしました皆様」
「そちらのお嬢さんは?」
「はい……助手を希望とのことだったので連れてきました」
「ティアと申します。普段は王立騎士団ロイヤルフォースでメカニック担当をしていて機械のメンテナンスなどを担当しています。よろしくお願いします」
「ふむ……こんな年端も行かない女の子が」
「ティアは優秀でして、15歳で大学を飛び級で卒業。王立騎士団ロイヤルフォースで武器など機械の整備や開発などを担当している大変優秀な人材です」
「ほぅ」
「すごい」
僕よりも年下なのに大学を飛び級をして卒業なんてすごいなぁ……素直に驚いてしまった。
「優秀な人物なら誰でも歓迎だ。ティア君……と言ったな?では機械の搬入からやっていくぞ。よろしく頼む」
「はい。よろしくお願いします」
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