第21話
その後、あの生き物の消息はつかめなかった。けれども、馨は分かったら知らせるという、聖也の言葉を信じていた。
季節は、街路樹のケヤキが紅葉する秋を過ぎ、夕闇の残照にその濃いシルエットが美しい初冬を越えて、寒さの厳しい真冬へと変わった。その間、馨たちは例外なく勉強に追われていた。
そして、春が待ち遠しい季節がやって来た。
受験生である馨たちの元に、ようやく春を告げる知らせが届くのだ。
―――『さくら咲く』
いわゆる合格通知だ。馨たちは自分たちで受けた高校の合格発表を見に行き、学校の教師にそれを告げるのだ。私立を受けた学生の中には、早くも合格を決めた者もいた。馨もそのうちの一人だった。県立は受けるが、馨は第一志望が志津南学園高校だったため、こちらが合格したら、あとは力試しのようなものだ。
馨が合格発表を親友の綾子と一緒に見に行き、その合否を担任の山本に伝えて職員室のドアを閉めたところで、ばったり聖也に会った。
「あれ、あんたも、報告?」
「いや。もうした。馨は?」
どうだった?と首を傾げる聖也に、馨は会心の笑みで指を二本立てて見せた。
「そっか。おめでと」
「うん。聖也は第一、これからだよね。あたしも志津校は受けるけど、あたしのは力試しだから…」
続けようとする馨を制して、聖也が言った。
「志望校さ、変えたんだ。もう、第一は受かったから、県立は受けない」
「え?」
「てことで、四月からもよろしく」
そう言って、軽く馨の肩を叩くと、聖也は笑みを浮かべて歩み去った。その後ろ姿を、思わず声もなく見送ってしまう。
「…楽しくなりそうじゃない?」
いつの間に来たのか、綾子が隣で嬉しそうに笑いながら、馨を見ていた。
「…綾、知ってた?」
「うん、聞いてたよ」
その言葉に、馨はもう一度、聖也の後ろ姿を見返してしまうのだった。
了
春の香り 夏の匂い 青い星 @blueplanet
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