終幕
川縁に生い茂った草が、夕日を浴びてキラキラ光っていた。川面も夕焼けを反射して輝いている。世界が金色に染まっていた。
侑歩は加藤と一緒に川縁に座って、その世界の美しさに目を細めた。
夕陽が目に染みる。金、紫、桃色、あかね色、グラデーションを見せる空を、金の光を反射して飛行機が横切っていく。
「加藤、俺、女になるかもしれないんだって」
ずっと黙っていた侑歩が、やっと口を開いた。
「うん」とだけ、加藤は応えた。
「そんで、あの女の人さ、若林とか言う…あの人、俺と同じインターセクシュアルなんだって」
「そっか」
加藤は、ごそ、とポケットを漁って、小さな白い紙を侑歩に差し出した。
「俺も、名刺もらった。侑達が診察受けてる時に」
「そうなんだ…俺、男か、女か、選ばないといけないって。体は女になっていくのに、ミクが好きって、なんか笑えるよね。しかも、振られちゃうし、さ…」
侑歩は自嘲気味に笑った。また、涙が零れそうになる。
「未来ちゃん、家庭科部に入るらしいよ。奈緒ちゃんが言ってた。部活動、楽しかったんだって」
侑歩は黙っていた。未来とは、もうクラスメートという以上の接点はない。
少しの間、沈黙が続いた。加藤は、枯れ草を手持ち無沙汰に、ぶちぶちと抜いた。
二人の間を吹き抜ける風が冷たさを増した。
「侑、はどっちを選ぶの?」
「全然分かんない」
「もし、何にもしなかったら、女の子になるの?」
侑歩は夕陽を見ていた。その頬が金色から、あかね色に変わっていた。
「そうなのかな、完全にはならない、と思うけど…」
「もし…もしさ、侑歩が女の子になっちゃったらさ、俺がいるから。俺が責任持ってもらってやるから、心配ないよ!」
言いながら、加藤は思わず拳を握りしめていた。侑歩がびっくりしたように、加藤を見上げる。加藤は言い切ってから、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
思わず、侑歩は込み上げる笑いを抑えられず、くくく、と笑い始めた。
「くく、亮ちゃんがもらってくれんの?」
「そうだよ!」
半ば投げやりに、加藤は言った。
「そっか、じゃあ、女の子も、考えてみよう」
笑いながら、侑歩は泣けてきた。
夕陽と、自分を大事に思ってくれる親友と、夕闇の冷たい風と。
もうすぐ、季節は冬になる。
侑歩は、ポケットから、アフロディテの名刺を取り出した。彼と、女の子と、女の子のお父さんと、お腹の赤ちゃん。幸せそうな、ごく普通の親子の光景を思い出す。これから、どの性を自分が選び、どういう選択をしていくのかは分からない。
それでも、彼の手には、小さな希望の欠片が握られていた。
双頭の夢〜二つ頭の見る夢は〜 青い星 @blueplanet
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