春よ、来い。

雨世界

1 私のところに、来い。

 春よ、来い。


 本編


 春よ、来い。


 私のところに、来い。


 その日、とんとんと日差しの差し込む、掃除の行き届いた古い伝統のある校舎の中の階段を駆け上っていた、学院の二年生の女学生、春野千代は一人の同じお嬢様学校である名門校、桜花女学院に通う一個上の先輩に恋をしていた。

 ……恋という言葉は、難しい。

 恋をしているというのは、あるいは、憧れている、といったほうがいいのかもしれないけれど、千代は自分がその先輩に確かに恋をしていると感じていた。


 その先輩の名前は、渡瀬『千花』先輩といった。

 千代の一個上の先輩の三年生で、上品で、明るくて、綺麗で、本当に素敵な人だった。

 でも、そんな千代の恋には一つの大きな障害があった。


 それは渡瀬先輩の『お姉さんの存在』だった。


 渡瀬先輩には、一人のお姉さんがいた。

 それも、先輩と『双子の同級生のお姉さん』だ。


 その先輩は、学院の生徒会長も勤めているとても有名な人だった。(ちなみに、渡瀬千花先輩は副会長をしていた)


 千花先輩は、まるで天使みたいに優しい人だったのに、先輩と同じ顔をしたその生徒会長の先輩は、まるで悪魔のように、意地悪な人だった。まるで、天使が堕天使になったみたいだった。実際に、それは千代が勝手に一人で思っていることではなくて、双子の先輩姉妹は学院の中で、天使と悪魔の双子とか、天使と堕天使の姉妹とか、そんな風に影でみんなに、二人の関係は呼ばれていた。(その悪魔のような先輩は、その噂を楽しんでいたみたいだったけど)


 その先輩の名前を渡瀬『千枝』先輩と言った。


 千代が階段を上りきると、そこにはその悪魔のような先輩である、渡瀬千枝先輩がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春よ、来い。 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ