第1話④ 魔法✟少女になりたいかな?

俺は全体をよく観察すべく、そのフィギュアの足を持ち上げた。フィギュアは真っ逆さまになった。半透明のスカートが捲れ上がり、パンツが丸見えに・

「キャッ!」

 人形が慌ててスカートを押さえる。そして涙目になった。顔を真赤にしてこちらをにらむ。

 そんなわけない。これは幻覚だ。アニメを見れないことに対する苛立ちから来る幻覚だ。

 俺はそのフィギュアを机の上に置いた。やや乱暴に。バンッ! と音がするくらい。

「イタイ!」

 人形が動いた。床にうつぶせに叩きつけたのに、ゆっくり手をついて立ち上がった。

 そして俺に指を指して怒りながら言った。

「ちょっと、何するんですか! イタイじゃないですか!」

「げ、幻覚、幻聴? そうか禁断症状!」

 アニメを集中して見れないことに対する極度のストレスから、ついにこんな幻覚を生み出してしまった。

 コレはマズイ! 緊急事態だ。

 こうなったらやむを得ん! 無理矢理にでも見るしかない!

 そう思って、俺は再びDVDの再生ボタンを押した。


 だが、突然テレビがつかなくなった。

 俺は焦る。テレビをバンバン叩く。だがテレビはビクともしない。

 ふと、電源スイッチの隣のランプを確認すると電源OFF時でも付いているはずのランプがついていないではないか!

 無論コンセントはちゃんとささっている。

 なんてこった! 非常事態だ! 俺は息が苦しくなった、過呼吸だ。

 ヤバイ早くしないと! 発狂するう!!!

「ちょっと! 聞いてるんですか!」

 幻聴はまだ聞こえる。俺はそのへんな幻聴、幻覚を無視してしきりにテレビのコンセントを抜いたり入れたりして、なんとかテレビをつけようと、必死に試みる。

 だが、変な幻聴はしつこく絡んでくる!

「あの~! 無視しないでくださいよぉ!」

「うるさい! いま忙しいんだ! 話しかけんな!」

 幻聴だろうが、幻覚だろうが、関係ない。

 アニメを覧れないことは俺にとってこの上ないストレスである。

 こんな禁断症状が出るくらいだ。一刻も早く対処しなければならない。

「くそっ! なんでだ! こんな狙い撃ちに! あああああああっ! アニメナジーが!アニメナジーが切れるぅぅっぅぅっぅぅっ!」

 頭をかきむしりながら部屋中をうろつく俺! 

 幻聴人形は指を加えて首をかしげた。

 そうだ、リビングだ! この時間はだれもいない。

 と思い立ち、俺は部屋を飛び出して一階へ。

 すると、今度は外からゴゴゴゴゴォ! っと轟音が。俺は二階の部屋荷掛け戻って、ベランダの外を確認する。なんと三軒隣の家の前で工事をしやがっているではなか!

 もやはテレビの確保云々ではない!

 俺のアニメ生活を現実が邪魔しやがっているのだ。 

 なんてこった。クソ! クソッ! クソォォォォォォ!! 


「あのー」

「しつこいなボケ!」

 俺は幻聴人形をおもいっきり掴んだ。

「い、イタイです! 離して下さい!」

「ちょっと待て…… お、オイお前……。俺と会話できるのか?」

「え、ええまあ。見えているんでしたらもちろん」

 パチリもう一度目を見開いて人形を確認する。

 そういや手触りが人形よりなんというか柔らかい。

「ちょ、ちょっと、どこ触っているんですか!」

 親指がちょうど胸のあたりに当たっていた。と、言ってもこいつの場合殆ど無いに等しかっただが、ふとその声に力を緩めると、人形はひとりでに浮き上がってしまった。

「と、飛んでる!?」

「当たり前です! 妖精ですから!」

 俺はぽかんと口を開けて、部屋を飛び回るそいつを見上げた。

 そいつは部屋を一回りしてから、学習付けに降り立った。


「……ええと、わたしはこの世界とは別の世界からやってきまして……、守護となるべきキャラさんを探さないといけないのですが……」

「いやいきなり自己紹介されても。てか、意味不明だし」

 案外落ち着いている自分がいた。いや、俺はこの時少し興奮していた。

「確認するがお前は幻聴でも幻覚でもなく、実体としてここに存在するのか?」

「実体としてか、と言われますと困りますが、わたしはちゃんとここにいますよ?」

 ちょっと待て、状況を整理する。

 今俺はものすごくいらついている。

 理由はアニメを見ることが阻まれたことによる極度のストレスだ。

 そして、その禁断症状からフィギュアが独りでに動き出して語りかけてくるという幻聴幻覚まで見えている危ない状態に陥った。

「あの……」

 俺が一人、顎に手を当てて安っぽい探偵アニメの推理シーンのようなポーズで部屋を歩きながら考えをまとめていると、自称妖精はひょろひょろ俺の周りをゆっくり旋回してつきまとった。

 目が合う。俺のひょじょうを、様子を伺っているようだった。

 そうしているうちに俺も状況を次第に理解し始めた。

「そうか! お前はアニメの世界から来た妖精だな!」

 フィギュアが語りかけてくる。しかも、別の世界から来た妖精だと自称した。

 こんな奇想天外が目の前に起きている。

 となれば、回答は一つ。

 そう、こいつはアニメのせかいからやってきたんだ!

 俺を二次元の世界(理想郷)へ呼び覚ますために!

 そう考えるのが妥当だ! うん、間違いない!


 俺は飛んでいるそいつをつかむと、

「お前は、俺をこのクソッタレで窮屈で汚れ現実世界から解き放ち、夢とロマンと希望に満ち溢れ、暖かく、柔らかく、美しく、そして一点の汚れもない、アニメの世界へと誘ってくれるのだな! そうだな!!」

 と思いっきり揺すって叫んだ。

 ついに来た!! 俺はいよいよこの世界から解放される。そして二次元へゆくのだ!!

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魔法少女❤マジカル✟メタモル☆かな☆ くろぺん @kuropenink

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