3つのカモフラージュ
金星人
第1話
昔、あるところに欲望に満ちた王がいた。こう言うと如何にも悪役のように聞こえるが、王とは国を治め敵国を潰して領土を拡げる者。欲がなければ王にはなれないのが自然の摂理なのである。
ある日彼の住む宮殿に、一人の神がやってきた。その神は彼の崇拝する者であって、それはそれは盛大に歓待した。国中から美味しいものをかき集め、一流の料理人を雇って絶品料理を振る舞った。神がつまらん、と言えば優秀な兵士たちに剣術や弓術の催し物を披露した。眠いと言えば高級な宝石で装飾されたきらびやかなベッドと、枕や暖かいふかふかの高級毛布を用意した。実のところ神は神であるかから何だってできる。だから心のなかでは、
こんな凝ったもんよりカップ麺食いてー
とか、
見せ物よりDSやりたいわー
とか、
家の低反発枕もってくりゃよかったわー
などと考えていたが彼が自分のためにその時代ではかなり立派なおもてなしをしていたし、何よりそうしようとしてくれる気持ちが神ながら嬉しかった。その為、
そんなに長居をするつもりはなかったのだが、ずるずると10日間も居てしまった。
「そなたには随分と世話になった。最大限のおもてなし、心から感謝する。」
「この上ない有り難き御言葉。これからのあなた様のご活躍を心より願っております。」
後日、その神の弟子と言う者が訪ねてきた。
「先日は私の師がお世話になったそうで。なんとも、国をあげて歓待したとか。」
「えぇ、それは勿論。なんといっても私が崇拝する神でありましたからな。」
「そうでしたか。でしたら、そのお礼といっては何ですが、あなたの願い事何でも1つだけ叶えて差し上げましょう。」
「うぅん、困ったものだな。彼をもてなしただけでここまでしていただけるとは。受け入れるのが申し訳ないくらいだが、断ればそれはそれで彼に対して失礼な行為だ。よし、ではこの願いを叶えてもらおうか。」
「何なりと。」
「私が触れる物なんでも黄金へ変わるようにしてくれたまへ。」
その弟子はそれを聞いた途端、目をぱちくりとさせて呆気にとられていた。
「…何か、思い悩んでいることでもあるのですか。私はただお礼がしたいだけなのですよ?何か他の願い事くらい、いくらでもあるでしょう。」
「何を言っている。私の今の願いはこれだ。触れるだけで金を作れたらこの国の繁栄は間違いない。私は末永く偉大な王として祭り上げられるだろう。それとも何か、私の願いを叶えられないというわけではあるまいな。先になんでも叶えられると言ったのを忘れたとは言わせんぞ。」
「いや、やろうと思えば容易くできるのですが。でしたら庭に生えている木々を金に変えるのはどうでしょうか。」
「あの木々を金に変えたくらいではこの国は栄えん。その為にも私に金を作る能力を与えろと言っているのだ…」
暫くはこんなやり取りが続いた。弟子が何とか触れるもの全て金になるようにするという願いだけは止めて欲しいと説得するも欲強い王に聞く耳はなく、とうとう彼の意地っ張りに負けた。
「そんなに言うなら仕方ありません。しかし、私も責められたくはありません。どうしてもその願いを叶えろと言うのならここにサインを。」
「やれやれ、面倒なやつだ。ここに書けばいいんだな。全く、最初から聞き入れていればこんなやっかいなこと…」
弟子はサインが書かれているのを確認して嫌々その願いを叶えることにした。
「宜しく頼むぞ。嘘をついていたら許さんからな。」
「…はい、分かりましたよ。」
弟子は胸元にしまっていた杖を出し、ヒュンヒュンと振った。
「…終わりましたよ。」
「おぉ、これで私の栄華が…」
と、王が言い終わる前に彼は一瞬で黄金の像になってしまった。
弟子はため息混じりにこう呟いた。
「はぁ、だから言わんこっちゃない。触れるもの全て金にしろって言われたらそりゃこうなりますよ。何せ、中身の臓器は密に詰まっていて互いに触れあってるし、血が身体中の血管に触れている。更に髪や肌、目、鼻の穴まで全部空気中の窒素や酸素などに触れているのですから。しかし1つだけ何にも触れていないものがある。意思だ。それは体のなかにあるのだが何処に在るのかはわからない。つまり人ではなくなったが死んだとも言えない奇妙な状態になってしまったのですよ。だから恐らくその像のなかで私のことを酷く言っているでしょうね。でも私は貴方の願いを叶えただけですからね。」
彼ががっかりしている処に宮殿の中から数人、彼に仕えている者が出てきた。
「貴様、何者だ。そこで一体何を…
何だこの金の像は。これは王ではないか。王に何かしたのか。それならば許すわけにはいくまい。」
彼らが腰の剣を鞘から抜くのを目て弟子は慌てて弁明を始める。
「いえいえ、私は先日までここでお世話になられた神の弟子です。その事でお礼をしたいと王に申したところ、彼の崇拝する神のもとへ連れていき、その神に奉仕させてほしいと仰ったのでたった今神界へお届けしたところなのです。その証拠にここに彼の黄金像とサインした書類が。」
「確かにこれは王の字に間違いない。そうかぁ、彼はあの神のもとへ… これから王のいないのは苦労するだろうが彼にはとても感謝している。これは宮殿に飾っておこう。」
それからというもの、王がいなくなったとはいえ、彼の子供が王位を継承し何とかやっていたが永遠に続く国など存在はしない。次第にのその国の勢力は衰え隣国に侵略された。
そして真っ先に王の金の像は溶かされその国の色々な製品に使われた。またその製品が古くなれば解体され希少金属として回収されて使い回され今度は輸出品となって…
やがて時はたち、この話がおとぎ話として語られる時代では科学が進歩していた。その人たちは金が使われている電子機器を常に持ち歩き、おとぎ話にあるような教訓を含め、様々な情報を求めている。
無論、金が意思を持っているかもしれないと言うわけではない。
但、確かに言えるのは、人類は強い欲望を持っていて、その王が死んだという事実が無い___。この2つのことである。
3つのカモフラージュ 金星人 @kinseijin-ltesd
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