第3話 重なりて濁し

「飛んで」「よっ!」

本来弓というのは攻めに徹する者ではなく、特攻する武器の足元を補う役割を担っている。

「届けっ..!」

極限まで腕を伸ばしリーチを稼ぐも剣士の短剣では先端が足りず、すんでの処で避けられる。

「ダメだ」「きしゃあ!」

無様に落ちる滑稽な主を補うようにペドラが青い竜の顔に火球を吹く。

『フォォォ...』「ペドラ!」


「やるわね、子ドラちゃん。」

一瞬怯んだ隙にすかさず矢を射る。放たれた一撃は左眼脇に擦り、青い竜が首を強く振った事により真ん中で折れてしまった。

「おっしい、少し硬いわね..」

「痛ってて..大丈夫?」「きしゃあ」

限られた領域に限られた攻撃、倒すには力量と手段が足りない。

「これは手こずりそうね、新人くん。

子ドラちゃん抱えて隅にいて、動かないでね」

「そんなの危険ですよ!!」

「ルーキー庇って闘う方が手間かかんのよ、調子に乗らないでくれる?」

「……はい。」

〝足手まといの面倒を見るこっちの身にもなれ〟との一括強く心に染みました。彼等は事実は異なろうとも実質は例の脳筋野郎と同類になってしまっている。優しく心強い味方が敵に回った瞬間である。


『フォォォ...!』

「悪いけど、落とさせて貰うわ。」

熟練の弓使いは少ない弾数で仕留めるという。力のギアを徐々に上げていき急所を攻めて陥落させる。

「三発ってとこかしら?」

『フォォォ..!』 「覚悟しなさい」

振り回す尻尾を避けつつ飛び上がり、力を込めて左側から首を一撃。

「二発目。」

正面に移り喉を射る、咆哮を上げる余裕を奪い音を遮断。

「最後になるけど、アンタの弱点がわからないから..しっかり倒れてね?」

打つべき場所は共通の死角、首の裏。


「出力最大、これで上がりよ。」

的を絞った一筋の矢は軌跡を描き狙いの点へ。無防備に撃たれた青竜は身体を大きく唸らせ水晶の生える地へ堕ちる。悲鳴を上げる事すらも無く。

「ふぅ..ヤダ、髪に晶が付いちゃった」

粉々の水晶が雨となり降り注ぐ。

「スゲェ..!」「大丈夫? ケガは...」

『フォォォ..』 「...何。」

「シルバー先輩、後ろ!」「嘘..!?」

青い竜リバイアの最たる脅威は体表の硬では無い、異常な回復力だ。

「潰した喉が..もう癒えてる!」

『フォォォッ!!』

大口を開け、水晶と同じ色のエネルギーを溜める。

「来るっ!...でもおかしい。」

目の前の敵を狙うなら、口径を絞り、集中させた方が威力が上がる。

「あれじゃあ広く別の範囲に...」

「気をつけて、きますよ!」

「注意するのはアンタ!

今すぐそこから逃げなさい!」

「..え?」

リバイアの標的は初めから、事の発端である竜とその飼い主。

『フォォォッ!』

息吹く砲撃は、部屋ごと彼等を呑み込んだ。


「ちょっとどうなってんのよ〜!」

「僕に聞くなそんな事っ!」

空飛ぶガルーダをイバラが追尾し、避ければ更に植物が穿つ。

「どうにかなんないのこれ!

チョー楽しいーんだけど〜!!」

「あーダメだこれ..ちょっと頼める?

ミノタウロス、パラディン。」

伸びる太い幹に召喚獣をサモンし、上を走らせる。

「うわーウシさんとナイトじゃん!

それじゃあ私もやっちゃうよ〜!」

「何すんの?」「木なら炎だ!」

攻撃呪文ファイヤを放つ。

「どこ打ってんの?」

「本体狙ってんのだよ〜!」

「あ、そういう事ね。ならコイツでちょっと借りよ、サターン」

二つの幹の間で浮きつつ、炎を二匹に付与させる。

「あれーウシと騎士が燃えたよ〜?」

「そういう能力なの。」

飛ぶ炎と進む炎が植物を焦がしていく

『バフッ!!』 「え、何?」

単発の声と共に山の植物が縮んで消えてゆく。

「どうしたのかな?」

「炎にビビって隠れたか、まぁいいや山を降りよう。仕返しされる前に」

一先ず勝ったと認識し、帰還する事にした。


「らぁっ!」

紅く燃える森の根本で、大きな刀が竜の爪を磨く。

『クオォォッ!!』「吠えるな!」

叫びを上げつつ炎を増やし、男に熱を与える。

「さっきっからギャーギャー鳴いてるが、毎度声が違ぇ。何を企んでる?」

仲間と呼べる森の連中は皆斬った、ならば何を呼んでいるか。

「そういや聞いた事がある、赤い竜は災いを呼ぶと。..何か影響があるとすりゃこの外か...ったく。」

『フルルルルル..!』

「余計な事してくれるぜぇ!」

馬鹿は風邪を引かない。

それどころか、寒い場所で薄着でいたりする。コイツも同じ、無駄な事が起きると、余計に動きを増やしたくなる

「爆炎を斬らせろ!

テメェの腹ごとなぁ!」

無駄に大きな刀身を腹部に入れ、裂くと、熱波と火炎が溢れ出る。

「ぐあぁぁっ!

身体に火山を飼ってんのか!?」

しかし大きい一太刀、自身も重症を負うが腹を割っている訳だ。相手もタダでは済まない。

『キュルララララララ..ラ...ラァ!』

「だからギャアギャア喚くんじゃ..ねっての!!」

腹から抜いた大剣を、そのまま顎へと突き上げる。顎の傷口から、腹同様に炎が溢れ男を燃やす。

「ぐあぁあぁぁっ!!」

熱に耐えきれず直ぐに刃を抜き地面へ転げ消化を開始。解放された竜は空を見上げ、無様に口を広げている。

「何だヌシサマ?

降伏の格好かよ、逃すと思うのか⁉︎」

『......ヴォ..。』

ズタズタの口で微かに声を出すと空に異変が生じる。

「..なんだ?」

『クオォォ..』『フルルル...』

『キュルララララ..!』

聞いたことのある鳴き声を発す疎らな大きさの竜達が紅を求めて下降する。

「これは..声に共鳴してるのか?」

複数の声が徐々に大きくなり、しまいには威嚇のソレと化していた。

「うるせぇっ!

さっさとどっか行きやがれ!」

野次馬共は赤い竜の身体を包み鳴き続ける。

「だからうるせぇって言ってだろ!」

我慢しきれず剣を振るうと竜達は飛び去り、赤い竜の姿も消えていた。

「根こそぎ消えやがった...」

森の木々が燃える音だけが寂しく残って鼓膜を煽る。


「痛った..ルーキー君!?」

水晶が無残に砕け、怪しく光る大きな空間となった鍾乳洞の隅、ハンターは完全にのびている。

「きしゃあ!」

「子ドラ君は無事なのね、無傷?

..この子を庇って倒れたの。良い子」

成り行きであっても愛着があるようだ

「.,竜は何処かへ行ったのね。

とにかく広場へ運ばなきゃ、傷は深いだろうけど治せなくは無い筈よね」

結局は新人に手間を掛ける事になる、本意では無いがやむを得ない。


「大変ですね、これは。」

肝心の基地は今、共鳴により無数の竜に囲まれていた。

「慌てるな..」 「わかってます。」

冷静に言うと男は刃物を取り出し飛び上がる。

「ワイバーンレイジか、上物だ。」

「武器が出刃包丁とは大胆な」

「武器じゃ無い、調理道具だ。

隠し裏包丁、地獄千切り」

彼はハンターでは無く料理人、広場に残ったのは帰還するハンターの飯を作る為。

「ご馳走様..」

「ギルドの方はいいのですか、アナタ料理長でしょう?」

「....誘われたなら、仕方ない..。」

料理は格別に美味いが、押しに弱く頼られると断れない。彼の多大な欠点だ

「..クシャナーダか、頂こう。

隠し裏包丁、煉獄輪切り」

羽を持たぬ長竜を手頃なサイズで切り落とす、食事にはこれで充分な量だ。


「治療を頼む!」

「おやおや..次は私の仕事ですね?」

食材を調達した頃B班がボロボロの姿で帰還する。

「酷い傷だ、ささっこちらへ。」

「ただいまです」「お久〜!」

「二組目が来たぞ。」

「いや、三組目ですよ」

C班続きA班も帰還。

「全員ですか、目まぐるしいですね。

お相手はどうでした?」


「..逃げられた。」「アタシも同じ」

「こっちも...似たようなもので。」

「あー嘘付いてる〜!」

「アイツ次あったらタダじゃおかん」

「そうですか、それなら..」

『グウォォォォ!!』

「なんだ?」「黒い、龍?」

言い伝えはもう一つある。

三つの竜怒りし刻、黒く彩を変え故郷を一つとし翼を広げる。


「アイツ、何するつもりだ?」

「嫌な事に決まってるでしょ。」

天高く飛ぶ黒龍は、熱を帯びる業火の息を三つの居場所に吹き掛ける。

「地形を潰しやがった..」

焦げた跡を確認すると静かに飛び去っていった。

「森も洞窟も山も燃えた、黒く..」

「きしゃあ」

伝説は、新たに動き出す。

         第一部序章完結 

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