第2話 身の丈もリーチも足りない
「いよし!
全員欠けずにいるよなぁ!?」
「何でアンタが仕切ってんのよ。
...いい加減にしろよこのクソカスが」
西口に集うハンター達。
自分を入れて6、7人いるが半分が知らぬ顔。もう半分は酒屋のヤンキーと無理矢理感の漂う見た目だけの女。
「で何処に行くんで?」
「指示待ちですか、若いですねぇ..」
「持ち物は...充分だな。」
「レッツらゴー!」
「バッラバラだな、このチーム。」
「きしゃあ..」
指揮りたがりは尚も先頭に立ち指示を続ける。
「いいか?
西口を出たら何手かに別れる。
三色竜は色通り三つの拠点を持ち暮らしてるからな」
赤き竜の住む 雫の森深部
蒼き竜の住む 水晶の鍾乳洞
緑の竜の住む 茨の針山道
「割り当てはこっちでするが先ずは雫の森の入り口付近で何でもない広場がある。そっちに移動するぞ」
「誰に命令してんのよ、いい加減にしないと潰すわよ。」
「いちいち怖いなあの人..」
「僕は有難いけどね、丁寧に指示をくれるってのはさ。」
口が悪いのか性が悪いのかいよいよわからなくなった辺りで各々が移動を開始する。
「では行きますか..」
「楽しみだねーレッツパフパフ〜‼︎」
「行こうかペドラ」「きしゃあ!」
いこうといっても少しズレるだけだが冒険の幕開けには変わりない。
数分歩いて辿り着く、森の入り口へ
「よし、点呼を取る。」
はぐれる筈もないというのに、しっかりと確認する。粗野に見えて割と真面目なようだ。
「ヴィクトリア!」
「気安く呼ばないでくれる?」
「ルーキー!」
「はい、あ..カーゴっていいます。」
「ペッキー・パートン」
「は〜い、ペッキーちゃんだよ〜!」
「クロノア」
「はい、何をします?」
「あと..ジジイにオッサン!」
「グレースです、何故知らない?」
「ファイブル...まぁいいか。」
十人十色、正確には七色だが皆が異なるコントラストを浮かべ並ぶ。
「全員いるな?
じゃ早速この七人で..」
「きしゃあ!」 「ん、なんだ?」
一匹名前を呼ばれず弾かれた事に腹を立て、カーゴの肩でペドラが暴れる。
「あーそういやいたな、もう一匹」
「一応、ペドラっていいます。」
「ペドラ..そいつから離れんなよ?
別に関係もねぇけど」
「きしゃあっ!」
「あれ飼ってるの?」
「テイマーとは珍しいですね..」
すっかりリーダー面のガイアスは三手に別れるメンバーを己で定め伝えた。
それが意図的なものなのか、ランダムな割り振りなのかは知らないが、頑なに「変更は無い」と言う。
「いいか、じゃあ言うぞ?」
水晶の鍾乳洞 カーゴ ヴィクトリア
茨の針山道 ペッキー クロノア
「赤い竜はオレが行く」
「私達は?」
「ここで待機だ〝治療班〟としてな」
「……成る程。」
ジジイの方グレースのカテゴリは僧侶
纏めて移動するならば強力なアシストとなるが三手に別れるのであれば扱いにブレが生じてしまう。オッサンの方はオッサンの方で役割がある。
「ならばお一つずつお持ちになって下さい、旅の私が造った回復薬を。」
懐にねじ込まれたのは果実に呪文を込めた回復アイテム『キュアリンゴー』
人や場所によって〝癒しアポー〟とか〝リカバりんご〟といった違いはあるものの既存の名称はこれである。
「つー訳だ、後は好きにやれ!
出会った竜は気絶させるなり息の根止めるなり自分次第だ。」
「そもそもの依頼が竜退治でしょ?」
「オレは行く、事を終えたらまたここで会おう。アッハッハッハ!」
高らかに笑いあげ森の中へと消えた。
お調子者というよりはおそらくバカに近い。
「..やっぱあいつは精神ゴキブリね、行きましょう新人さん。」
「あ、はいっ!」「きしゃあ!」
続くように続々と自然の中へ、竜の住処へと対峙する。
「待ってろ主様よォ..!」
B斑青の部隊
ツーマンセルで行動する事になった三手の内の二番手水晶の鍾乳洞へ向かった二人は、半ば強引に連れてこられたという共通点を有していた。
「あの人、大丈夫ですかね?
なんか一人で行っちゃったけど。」
「最初からそれが目的なのよ、邪魔なモノは纏めて他所に行かせて自分は一人でドラゴン退治。そのまま一人でくたばればいいのにね」
煌く水晶の優美さの中冴え渡る毒は空気を濁す事なく人を傷付ける。
「カラーズとかっていう三色竜ってそんなに強いんですかね?」
「さぁね、まぁでも依頼自体はシルバー案件よ。」
「シルバー..大丈夫かな」
「平気よ、現役のシルバーが横にいるわ。向こうはどうかしらね、あの子達どっちもブロンズだから。」
後輩には甘いのか悪口は飛ばさない。
カーゴはなんだか安心していた。
「優しいんですね」
「そうね、目の敵にする程際立たないから目下の人は。」
「……」
はっきりと解った、彼女は口より性格が悪い。
「きしゃあ!」「うお、どうした?」
大人しく肩で寝ていたペドラが何かに呼応し飛び回る。
「野性が残ってるのかな..」
「水晶に反応しているのね、蒼き竜の
晶(いし)は竜に影響を及ぼすと云われているの。」
見えない何か、晶の鼓動が直接語り掛けているのかもしれない。
変わってC班
棘の生えた山道は土から生えたイバラの突起で無闇に触れると毒素に侵される。そこを渡れとは当然の無理強いだが竜はモラルが欠けているらしい。
「痛っ!
大丈夫なのかこれ..こっわいなぁ」
「レッツゴーゴーゴーごぉ〜!」
「なんであんなに平気なのあの人?」
歌って踊るウィーザードカテゴリ
ペッキーは疲弊を感じさせず器用にトゲを避け山を行く。ちなみに魔法は一切掛けていない、素面の身体だ。
「あれあれ〜元気ないぞ〜?
どうしたのクロノア・ウォルキンス君
笑いなよ、ね!」
「なんで名前覚えてるのよ。」
「当たり前でしょー!
ファンの人の事は皆覚えてるよ?」
「別にファンじゃないけど..」
「応援ありがとー!!」
「聞いてないしね、全っ然。」
流石の指示待ちも信用出来そうにない自由度を誇る、実用性は低そうだ。
「ていうかさっきからさー
この山動いてな〜い?」
「え、動いてる?」
「足元の〝ツタ〟がいつも違うところにあるよ!」
「..あ、ホントだ。」
さっきまで左足の脇にあった植物が両足の中心にある、確実に床が動いている証拠だ。
「誰が動かしてるんだ?」
「決まってるよ、ドラゴン!」
「そんな事...無くはないかも。」
憶測のシャレじゃなく考えてみれば全面が竜の領域、何が起きても不思議ではない。天変地異も充分あり得る。
「山が息してるみたいだ」
「君も私のファンなんだね?
応援ありがとー!」
どうやら彼女は生物をファンと呼ぶタイプのようだ、物珍しい。
「ここまで勝手に動かれちゃ先へ進めない。なら仕方ないか...」
ぼそりと呟き紙切れを取り出す。
「何それー、カード?
私もあるよ生写真トレカ!」
「もしかして一緒にされてんの?」
クロノアのカテゴリはサモナー。
召喚獣の宿った札の束を持ち歩き、必要に応じて使い分ける。謂わば究極の他力本願スタイル。
「ほら乗って、ガルーダ!」
『ピヨー‼︎』
空に投げた札は鳥となり翼を広げた。
「わーすごーい!」「だろ?」
まるで自分の力かのように背中に飛び乗り空を仰ぐ、植物の徒長を越えて。
A班雫の森奥地
大きな剣(つるぎ)を肩に掛け、緑を闊歩する男がいた。
「相変わらずここはザコばっかだな!
サビ落としにもなりゃしねぇ。」
ただ暮らし、危害を加えてすらいない竜達を邪魔だといって薙ぎ倒しながら進む。森の住人側から見ればそのサマは狂鬼、正気の沙汰では無いだろう。
「ん、この熱と彩...間違いねぇな」
幾つもの木々で隔たれた道の隙間から紅い熱風が漏れ怒りを主張する。
「主様のご登場か?
だったら...さっさと飛んでこいっ!」
重なる木々を纏めて刀身で叩き潰し、粉々に斬り裂く。枷を失った熱風は森へ一気に吹き荒ぶ。
「はっはっはっは!
しゃしゃるじゃねぇか主サマよぉ!」
『フゥゥゥ〜..』
「……なんだ、おい?」
熱風を粗方薙ぎ払うと、声か音かもわからない、微かな音が聴こえた。
「..なんですか?」「……どうした」
「森の方から何か音が」
「……知らんがやるぞ。
俺達は還り場所を造るんだ」
「..解っていますよ。」
息吹はこだまし、他の色へも。
「..何?
水晶から光が。」
「水晶からじゃない、内側からの光を〝反射〟させているだけ」
「きしゃあ..」
「ねー、下ヤバくない?」
「え...うわっ、床全体にツタが絡まってる。」
「落ちたら大ケガだね!」
「そういう問題?」
言い伝えがあった。
イロ一つ脅かす刻、三色崩れ竜穿つ。
「はっ..!現れやがるのか!」
森を燃やし
水晶を壊し
山を呑み込み..。
三つの大地をそれぞれが飛んで染める
「おっと..しまった筈なんだけどね。
これ、さっきのルーキーの記載書かい
...これはどういう事だい?」
申請した情報の一部が、青白く光大幅に更新されていた。手続きをしてからほんの数時間後の出来事だ。
「あはははははっ!
こいやぁ森のドラゴンよぉ!!」
『フウゥゥ..』
「これって、嘘だろ..?」
「..悪いけど現実みたいね。」
「思ったよりデカ過ぎるってコレ」
「緑の友達がデキそうだね!」
『フアァァッー!!』
『キョルオォォッ..!』
『ブルァッ‼︎』
三竦みが一斉に吠え轟き、災いを告ぐ
「あの人よく誘ったよ。
こんなルーキーハンターをさ..」
「きしゃあ...。」
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