DHR/ドラゴンハンタールーキー/

アリエッティ

第1話 ツルギを隔てて

プチドラゴン レベル1

「きしゃー!」「………」

弱い竜、近付くと火球を放つ。

「なんか、倒したくないなぁ..弱い者いじめしてるみたいだ。」


カテゴリ剣士のルーキーハンター

カーゴ・ペンタクル

死んだ親父の肩身を漁って遊んでいたら握りの良い剣を見つけふざけてギルドに向かったらドラゴンハンターと間違えられ名義を登録されてしまった。

「きしゃあ!」

「どうしよ、相手はやる気っぽいしな

..一緒に来る?」


ドラゴンハンターギルド

酒屋や食事場、武器屋まで完備された準備施設。ここから世界へ赴きハンター達はドラゴンを倒しに向かう。

「はぁっ、やっぱ広いなここ」

基本的に戦を終えたハンターは酒屋か飯屋で余韻に浸る。つまりは自慢話を魚にした宴に付き合わされないといけない訳だ。

「お、新入り帰ったか!」

「こんにちは..またいるよあの人。」

いつもの席につくと酒場は既に賑わいを見せ、宴会場と化していた。

「戦歴はどうだ

なんか倒して強くなったのか?」

「急かす事ないでしょ、まだルーキーなんだから。」

「はっ!

今の内からヘタれてたら直ぐ廃れるぞドラゴンは強ぇからな!」

「気にする事ないからね?

こんな脳筋野郎、クズだからさ。」

「なんとでもいいやがれ!

取り敢えず今は呑んでろよっ!」

「はぁ..だから酒飲めないんだって、何度言ったらわかんのかな。」


粗暴なこの男、名をガイアス

カテゴリ ブレイザーの剛腕ハンター

「これ、もう一杯いい?」

隣の口の悪い女性ハンター

ヴィクトリア・キャラガス

カテゴリ アロー、弓使いだ。

「で、どこのエリアに行ったんだ?」

「えっと、雫の森..」


「はぁ!?

あんな弱々しい場所に行ったのか、あんなとこザコしか出てこねぇぞ!」

「自分と同じレベルで物を考え無い方がいいわよイキリバカ、ルーキーとシルバーじゃ階級が違うの」

新入りに優しいのか慣れた者に厳しいのか極端な温度差を使い分け二人を捌くやり手の女ハンターは、ガイアスと同じシルバーランクだ。

「何か収穫はあったのかよ?」

「それが..」「きしゃあ!」

 「うおっ!」

「アナタ持って帰ってきたの?

「倒そうと思ったけどなんか出来なくて、ついこうなっちゃった..。」

肩にちょこんと乗るそれは現状を気に留める事なく欠伸をかいて惚けている


「やっぱりまだまだルーキーね。」

「にしてもプチドラゴンかよ、もっと使える奴を味方につけろって..」

連れて帰った事よりもレベル1の弱小ドラゴンに情けをかけた事に周囲は驚きを見せている。

「誰かに怒られますかね?」

「そりゃ無ぇと思うが、ドラゴンを飼っちまったからな。テイマーの申請書を出す必要性がある」

「タダの剣士のままじゃいられないって事ね頑張って。」

「え〜、またあの面倒なところに行くんですかぁ⁉︎」

「仕方ねぇだろテメェのせいだ。」


ギルドに入る際契約を交わす為に、契約管理室へと誘われ書類を書かされる

その手続きは非常に面倒で窮屈な作業でハンターになって最初の難関と言われるほど嫌われるものだ。

「早めにいけよ、うるせぇから」

「分かりましたよ..。」

出来れば行きたくない。

だが生憎管理室は酒屋の向こうの階段を登った先にあり、行かざるを得ない近さを誇る。

「はぁ..悩ませてくれるよ。」

「きしゃあ?」


二階・契約情報管理室

「もう着いたよ。」「きしゃー!」

本が積まれた棚をバックに受付のテーブルを隔て、椅子に担当が踏ん反り返ってだらけきっている。


「あの..」

「あーなんだーい?」

大福の様なでかい顔にカエルに酷似した身体、座っている筈の丸い椅子は最早見えず浮いているように錯覚する。

「カテゴリの表記を、少し変えたいんですけど..」

「なに、転職かい!?

カテゴリの変更って言う事はそういう事だろう!」

いや、変更っていうか..カテゴリの追加をしたいっていうか、その...」

「ハッキリいいな!

気に入らないモノを変えるってね‼︎」

「あぁもう..。」

手続きの比重を少しでも柔らげようとここに来るまでの経緯を説明し分かりやすく仕上げようとする。部屋に入ってから終えるまで、常に「早く帰りたい」としか思っていない。


「ほら、これです。」「きしゃあ!」

「うわ気持ち悪っ!

じゃあここに書いて、訂正して。」

「気持ち悪いって..まぁ思う人もいるか。剣士に/して、ドラゴンテイマー...っと。これでよし」

「書けた?

はいじゃあ次、竜の申請書。その子の特徴とか、元の生息地とか書いて」

「はぁっ..」

殺生を避け軽い気持ちで持ち帰ったが実質保護扱い、経過を見守ると共に育成を継続する。

「生息地、雫の森。特徴は..丸い?

小さい羽が生えている、レベル1...」

「書けた?

じゃあこれ、はい。」


「うおっ..まだ何かあるの?」

投げ渡されたのは手の甲から腕の関節近く迄を覆うバンド。

「それを左手に嵌めて、甲の部分に画面が付いてるでしょ?

そこから経過を読み撮ってその子の成長記録が自動で更新されるから。」

「これで記録が..?」「きしゃあ」

書いた書類はファイルに閉じると本になり、1ページの歴史となる。情報から記事になった文字は映像を記録し、形を徐々に変えていく。

「以上で手続きは終わりだね、用が済んだらお帰り」

「どうも..」

事を終えると追い出すように部屋を出る事を勧められる。やる側も面倒な作業なのだろう。


「やっと終わった。

お前の事飼うことになっちゃったよ」

「きしゃあ?」

「これが言ってたモニターってのか」

手の甲に寝そべる小さな四角い画面の中には景色と不思議な『ペドラ』という三文字。

「ペドラ..?

あぁ竜の名前か、書類に思い付きで書いたんだよね。名前無かったから」

「きしゃあ!」「なに?」

「きしゃあきしゃあ!」

「もしかして...喜んでる?」

言葉は分からないが気分が高揚して見えた。付けた名を気に入ったようだ。


「お、いいところに来た新入り!」

「あの人..まさかまだ呑んでんの?」

ジョッキを片手に以前と同じ場所で声を上げる姿に白い目を向けつつ階段を降り距離を縮める。

「何呑んでるんですか...」

「仕方ねぇだろ、ヤケ酒だヤケ酒」

「さっきも呑んでましたよね?」

「今までは祝い酒だ。」

「結局のんでる、でなんですか?

何か用があるみたいでしたけど..」

「あぁそうだ!

今ギルド長から依頼を受けてよ、メンバーを集めてたんだ」

「ギルド長から?」

文字通りギルドを束ねる長の事だ。

そんな者からの直々の依頼など、確実に手を焼くことが目に見えている。


「カラーズとかいう三色の竜をノして来いってよ、こなすまで帰ってくるなと。だからこうして溜めるように酒呑んでんだ」

「なんでそんな聞くからに大変そうな依頼に僕を誘うんですか!」

「仕方ねぇだろ、メンバーの枠一人余ってんだからよ。それにこれこなしゃ一気にランク上がんだぞ?」

「ランク上げても命落ちるよ..」

プチドラゴンを斬れない剣士がシルバー相当の依頼に巻き込まれる、なんと無様な景色だろうか。

「もう申請しちまってるから一緒に来いよ?」

「嘘っ、何勝手にやってんの⁉︎」


「うるせぇ!

行くっ言ったら行くんだよっ‼︎」

横暴、かつ無謀

隊を束ねる器では決して無い。

「準備できたら西口まで来いよ!」

「.....はぁ。」

こういう時に、酒が飲めたらと酷く後悔する。

「きしゃあ!」

「喜ぶ事じゃないよペドラ..。」

竜との疎通もままならず、深く重たい溜息のみが机に残った空のジョッキに響いて弾ける。

「親父の剣さえ抜かなけりゃあな..。

なんで抜いちゃったんだろ?」

後悔、後先に立たず。

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