言いたいだけ
@ynkm27
ラーメン
俺はただの大学生である。
今は昼休みであり、近所のラーメン屋に友達と二人で来ている。
ここのラーメン屋は昼時には行列ができるほどそこそこの知名度がある。
現に今、俺たちも20分くらい並んでいる。昼休みが終わったら3限の授業に出なければならないので少し俺たちはそわそわしている。
だがせっかく並んで時間も経っているのでいまさら店を変える気もなく胃もすでにラーメンを受け止める準備万端である。
待っている間、暇を持て余している俺たちは他愛もない会話をしていた。
友達がこんなことを言い出した。
「ねえ、ドラマや漫画で一度やってみたいシーンやセリフはない?僕は死ぬ間際が人間一番かっこいいと思うんだ。『俺が死ぬわけないだろ』って言って一人で戦場に突っ込んでいったり、致命傷を負いながら『俺、すごく幸せだったとか』言いたい。」
「確かにかっこいいとは思うけどそれ全部死亡フラグだろ?絶対死ぬやつじゃん。俺は嫌だな。結局主人公の引き立て役感もあるし…。」
「じゃあどういうシーンがいいの?」
「俺は―」
とその時だった。店内はカウンター席のみであり席が空くのが見えた、店員が俺らに中に入るように声をかけてきた。
俺らが席に着くとラーメンがすぐに出てきた。お昼時は混むことを見込んでか俺たちが着席する前にす既に麺を茹でているらしくこれで店の回転効率も上がり多くの客をさばけるのだろう。
俺たちは3限もあることだしすぐに食べ始めた。
ラーメンを6,7割ぐらい食べ終えた時には俺の満腹中枢はフル稼働していた。
もともとここは他のラーメン屋に比べて量が多い。そのうえがっつり系で味は濃く食べ始めはそれが大変美味であったが後半は喉の奥から生じる斥力に加勢していた。
食べる前は朝ごはんも食べておらずお腹がペコペコでラーメンなんか飲み物だと思っていた。
箸が一向に進まない。一口ずつ口に押し込んでいるが目に映るどんぶりの中に変化は見られず、麺を片側に寄せたり、スープに沈めて少なく見えるようにしている。そうすると視覚的に少し楽なのだ。―多分。
その傍ら友達は順調に食べ進めている。もう2口も食べればなくなるだろう。
俺も食べても食べても減らない麺にうんざりし、一つの選択肢が浮かぶ。それは―
【残す】
けれどもそんな選択しはすぐに消える。残すなんてあり得ない。これは俺の信条でもあり美学でもある。幼少期、忍たま〇太郎の食堂のおばちゃんを観て育った俺としては当然である。それにカウンター席であり店員の距離も近い、そんな中残す度胸など俺にはない。
そんなことを考えているうちに隣を見ると友達は食べ終えていた。友達は俺の様子を見て一言。
「食べ終えるまで待っているよ。」
彼は残酷な一言を言った。
ここは行列のできるラーメン屋並んでいる客は1秒でも早く席に座りたい。そんななか食べ終わっている客がちんたらして一向に席を立たなかったらどう思うだろうか。
また店員も逐一客の器をチェックして食べ終わることを予想し、次の客が座る時間を計算して麺を茹でている。ある客が食べ終わっているのに席を立たなかったらその計算に狂いが生じ次の客は伸びきった麺が提供されることだろう。
さらに加えて俺たちは大学生でありこのあとに3限を控えている。俺がのんびり食べているせいで3限まで時間がない。近所のラーメン屋とはいえここから教室まで歩いても数分はかかる。しかも運が悪いことに3限の授業では授業の始まりに出席をとることになっている。すなわち遅刻をすればその日は欠席扱いになるのだ。
俺のせいで友達はラーメン屋のお客、店員そして教授すらも敵に回すことになる。こんなことになるのなら少なめにしとくべきだった。俺はスープではなく苦汁を飲んだ。
最悪友達はここのラーメン屋を出禁になり、単位を落とすだろう。俺のせいで。
だが俺のミスのせいでそんなつらい思いはさせない。もちろん俺はもう助からない。ラーメン屋は遅延行為による営業妨害で出禁、授業は欠席扱いとなり教授の逆鱗に触れ単位は落とすだろう。俺は決意する。友達だけでも助けようと。
すでに満腹状態による咀嚼という相当な負荷をかけ疲弊した重い口を開いて友達に声をかける。
「「「「「俺にかまわず先に行け」」」」
そういうと友達は
「うん、分かった。先行ってるね。」
とあっけなく店を出て行った。
置いてかれた俺は時間はかかったが何とか食べ終え、授業には遅刻しつつもしっかりと受けた。
P.S.
ラーメン屋は出禁になることもなくその後も通い、単位も1度の欠席では落とさなかった。
言いたいだけ @ynkm27
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