第1話 冒険者

闇の中に一筋の光が差し込み、私の視界に再び車内の光景が映し出される。しかし、車窓から見える景気は全く違うものだった。


「きれい…。」


 思わずそう呟いていしまうほど、窓の外の景色は絶景だった。

 雨が降った後なのだろうか、広大な真緑の草原は太陽の光でキラキラと光り、その先には青い海が広がっている。空は雲一つない快晴で、開けてある窓から入ってくる風からは、空気の汚れを全く感じない。


「本当に異世界に来たんだ。」


 私は独り言を言いながら、もうしばらく電車に揺られた。

 しばらくすると、電車は駅のホームに入り、チリンチリンっ!という停車完了のベルがなった後、目の前の扉が開いた。


「あなたが新人さんですか?」


 電車を降りた私に話しかけて来たのは、純白の長い髪を腰辺りまで伸ばし、黒いワンピースのような服を着ている私と同い年くらいの女の子だった。


「あ、あなたは?」


「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだでしたね。私はこのサンスクレッドで異世界召喚者の案内役をしているセリナっていいます。」


 そう言うと、セリナは静かに頭を下げた。


「一ノ瀬汐音いちのせしおんです。よろしく。」


 彼女に合わせるように私も頭を下げた。

 数秒間何のアクションもないまま、ただ時間だけが流れる。そろそろいいかと、頭を上げてみると、セリナは目を見開いて私のことをじっと見ていた。


「あ、あの…、何か?」


 自己紹介をしただけでこんな反応をされると、正直怖いんですけど…。

 すると、セリナは恐る恐る口を開いた。


「あ、あの…、お名前なんと言いましたか?」


「え!?い、一ノ瀬汐音ですけど…。」


 私の名前が一体どうしたというのだろうか。周りが騒がしい訳でもないから、聞こえなかったわけではないだろうし…。

 すると、彼女は驚いた表情のまま再び固まってしまった。


「さっきから一体何なんですか!いきなり人の前に現れたと思ったら人の名前聞いた途端そんな表情で二度も固まって失礼ですよ!」


 我慢できずについ怒鳴っていしまった。

 でも、私は決して悪くはないはず。失礼な反応をしたこの人が悪いのだから。


「ご、ごめんないさい。信じられないことが起こったのでつい…。不快にさせてしまったことお詫びします。」


 そう言うと、セリナは再び頭を下げた。


「あり得ないことって?」


 彼女の言い方から察するに、彼女側にもそんな反応をしてしまう程の事があったのだろう。

 セリナは私の表情を伺いながらそっと聞いてきた。


「何で自分の名前を覚えているんですか?」


 もうぶっ飛ばしてやろうかな。

 純真無垢じゅんしんむくな顔をして裏では絶対私のことバカにしてるよこの子。


「あのねぇ。人のことを馬鹿にするのも大概に…。」


「夢越線で来る人は、必ず記憶を失うんです。」


「……え?」


 途中で割って入ってきたセリナの言葉に、私は耳を疑った。夢越線に乗ると記憶を失うって…。


「一体どういうことか説明してもらえる?」


 セリナはコクリと頷き私を椅子のある所まで案内すると、さっきの話がどういうことなのか話し始めた。

 彼女の話は恐らく普通に聞いていたら訳が分からなくなってしまうような内容だった。異世界だの、魔法だの、術式だのと現実離れした単語が数多く登場したからだ。しかし、私はなんとか話の内容を理解できた。

 ここにきて初めて自分がゲーマーで本当に良かったと思う。

 彼女の説明によると、この夢越線というのは私が体験したとおり異世界の人間をこの世界に召喚するための電車だ。

 しかし、動く機会というのはそう多いものではなく、数百年に一回というペースでしか動かない。それは、この世界に来るために必要なマナ、すなわち魔力を持った者が現れる頻度が数百年に一度だからなのだとか。

 私の居た世界にとって私の持つマナは強力過ぎて、少しずつではあるものの世界を狂わせてしまう可能性があったので、ここに召喚されたのだと言った。


「召喚された理由は分かったわ。しかも、私は進んでこの世界に来ているのだからそんなことはどうでもいいの。私が聞きたいのは、さっきあなたが言っていた夢越線を使うと記憶を失うって話よ。」


 私が詰め寄ると、セリナはそのことについても丁寧に説明してくれた。


「異世界というのは、元の世界と何一つ同じところがないと言っても過言ではないほど文化も文明も全く違います。そんな何もかもが違う世界に順応しようと思えば、前の世界での記憶は邪魔になるだけ。だから、夢越線は人を運ぶ時にその人の記憶を全て消し去り、新しい一人の人物として生まれ変えさせてしまうのです。」


 セリナは少し表情を曇らせた。

 つまり、この世界に召喚された者は自分の事も含めて何もかも忘れた状態になるのが普通だが、私だけがなぜかそうはならなかったと…。


「今までにこんな事は?」


「無いです。もっとも私が生きている間に召喚されたのはあなただけですので確かな事は分かりませんが、過去に事例が無いのは事実です。」


 そう言ってセリナは首を横に振った。


「今の私の存在はこの世界にとって良くないものなのかな?」


「今はハッキリとした事は分かりません。しかし、恐らくは問題ないかと思います。元々、夢越線の記憶剥奪きおくはくだつシステムには昔から賛否両論あって、記憶の一部だけ消せないかとか、記憶があっても順応出来るんじゃないかって言う人も居たくらいなんです。ただ、やはり記憶を消す側の意見が多くて。自分は経験すらしていないのに勝手な事ばかり言う人達が…。」


 怖い顔で呟くセリナ。

 私は、この世界に問題がないならそれでいいと思っている。その方が前の世界とこの世界の違いを楽しめそうだし、ゲームで得た知識も役に立つかもしれない。

 それに、この世界は私が夢見てきた世界そのものなのだ。他の人はともかく、私にはこっちの世界の方が良いのかもしれないとも思っているくらいだ。


「とりあえず、この世界に何も問題がないなら私はこのままこの世界を存分に楽しみたいんだけど、あなた案内役って言ったよね?この街のことを案内してくれるの?」


「あ、いいえ。私は異世界に召喚された方が混乱しないように居るだけですので、今のあなたに関して出来る私の仕事というものは実はもう無いんです。」


 そう言って、セリナは駅の出口を指差した。


「その改札を抜ければサンスクレッドという街に出ます。そこに出るともう私と話すことも出来ません。最後に聞いておきたい事はありますか?」


 最後ということで、案内人らしく淡々とした態度をとるセリナに私は一つだけ聞いた。


「この世界は楽しい?」


「はい!あなたはこの世界に召喚されるだけの力を持っています。その力の使い方次第で、きっと楽しい異世界ライフを満喫できると思います!」


 そう言ってニッコリと笑うセリナに私も微笑み返すと、早速改札を抜けて外へと出た。


 街に出た私は、目の前に広がる町並みに言葉を失っていた。

 床はレンガが敷き詰めてあり、三角屋根の洋風な建物が並ぶ町並みは、日本に居たら絶対に見ることの出来ないような風景だった。


「す、凄っ…。」


 どうやら私はサンスクレッドの大通りに出てきたらしく、昼間だというのに大勢の人で賑わっていた。

 セリナに礼でも言おうかと後ろを振り返る。まさか、送り出した本人がまだ目の前に居るのに姿を消してしまうほど薄情な人ではないはず…。

 しかし、実際は。


「あ、あれ?」


 私の背後にあったのは駅ではなく噴水だった。しかも、いつの間にか私が着ていた服も制服から、質素な服へと変わっていた。まぁ、この服の方が、この世界には合いそうだけども。


「すみません。ここって駅じゃなかったですか?」


 近くを歩く婦人に訪ねてみる。


「はい?ここには何年も前から噴水しかないですよ?」


 婦人は不思議そうに私を見ながらそう言った。


「そ、そうですよねぇ。私、どこと勘違いしてたのかなぁ?すみません。ありがとうございます。」


 かなり不思議そうにしている婦人に、私は顔を引きつらせながら礼を言うと、素早くその場から離れた。

 あーもう!私の悪い癖だ!ゲームの中だとボイスチャットだろうが何だろうが気軽に話せるのに、いざ人前となると緊張してろくに話も出来なくなる…。いわゆるコミュ症ってやつなのだ。

 噴水から離れ、近くの路地に入って息を落ち着かせる。何か悪いことをしたわけでもないのになぜこんなにもコソコソとしているのだろうか。


「バカみたい…。」


 私は自分の頬をパシっと叩き、胸を張って再び大通りへ出た。

 そこから少し街のことを聞いて回った私は、集めた情報を元に役場まで来ていた。

 この役場という施設は、何か困ったことが起きると、冒険者という職業の人を派遣して助けてくれるらしい。まぁ、今回ここに来たのは、冒険者という職業が気になったからなのだが。

 役場の扉を開けて、恐る恐る中の様子を伺ってみる。すると、個性豊かな格好をしている人たちがガヤガヤと話をして盛り上がっていた。


「コ、コスプレパーティーみたい。」


 気弱な見習い魔法使いのような格好の女の子や、重そうな鎧を着ているゴツい男性、露出の多い妖艶ようえんな格好の女性など、本当に様々な衣装を身に着けている者ばかりで、私は心を踊らせていた。


「邪魔…。」


 中を見るのに夢中になっていた私は、背後から突然聞こえた声に慌てて振り返った。

 すると、黒っぽい服を着た赤髪の少女が、肩からダラダラと真っ赤な血を流して立っていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てる私の顔をギっと睨みつけた少女は、私にぐいっと顔を近づけて唸るように言った。


「邪魔!」


「は、はいっ!」


 彼女の凄まじい圧力に私は、慌てて一歩ずれた。

 少女は右足も引きずるようにして歩いていたので、私はそっと肩を貸しに少女に近づいた。


「あのね、邪魔って言ったのがまだ分から…。」


 そこまで言うと、少女はグラッと大きくよろけた。


「怪我してるんでしょ?肩くらいしか貸せないけど、困ってる人見つけて放おっていられないの。」


 彼女の左肩の傷に破いた服の袖部分の布をあてがい、右腕を私の肩にまわさせる。そのまま、彼女を役場の中へ連れて行くと、白い髭を伸ばした老人が近くのベンチ椅子を空けてくれた。


「お嬢さん。ここに寝かせてやるといい。」


「あ、ありがとうございます。」


 周りの人の力も借りて、少女の体をゆっくりと寝かせる。相当傷が深いのだろうか、あてがった布から彼女の血が染み出し私の手まで真っ赤に汚していた。


「あ、あの…、この子早く病院に連れて行ってあげないと…。」


「その必要はないんじゃよ。」


 周りで少女を見ている人たちにそう言うと、さっきの老人が口を開いた。


「確かにこの街には病院はある。じゃが、病院とて暇ではない。今日も患者が居るはずじゃ。もしかすると、他の患者で手一杯になっているかもしれん。そんな中彼女が病院に行けばどうなる?」


 順番を待てば彼女の治療が遅れると言いたいのだろうか。しかし、こうしている間にも、彼女の傷口からは大量の血が流れている。顔も青ざめ、もう長くは持たないはずだ。


「たとえ順番待ちになったとしても、ここで素人が治療するよりも…。」


「まぁ、黙って見てな。」


 老人と逆隣にから、中年のおじさんが私の肩にポンっ!っと手を置いた。


「君はあの子を心配しているんだろう?だったら街の病院で治療を受けるよりも、ここで治療を受けたほうが確実だ。」


「え?」


 おじさんが指を差した方を見てみると、二人の男女が少女の周りで座り込んでいた。


「こりゃまた随分と深いな…。」


「早くしないと危険ね。」


 布を取っぱらい、あらわになった傷口に二人は手をかざす。

 二人の手を淡い光が包み込み、次第に少女の傷口をも覆っていく。すると、酷く抉れていた傷口がグチュグチュと音を立てて見る見るうちに再生していった。


「はい、おしまい。」


「あとはここでしばらく寝かせてやってください。」


 作業を済ませた二人は、そう言うとそそくさと役場の奥へ戻ってしまった。


「き、傷が…。」


「すげぇだろ?これがこの役場で治療係を担当してるアスティとカイエンの実力だ。」


 まるで自分の事かのように胸を張るおじさん。

 アスティとカイエン。あの傷を短時間で完全に治してしまう程の治癒術の使い手は、恐らく他には居ないんだろう。機会があれば一度話をしてみたいものだ。


「そういや見ない顔だけど、何かの依頼か?」


 おじさんは思い出したかのように私の顔を見た。


「あ…いえ、冒険者っていう仕事に興味があって、今日は色々知れたらいいなって思って来たんです。」


「そうかそうか!新入り希望の方か。だったら俺が色々と教えてやろう。」


 そう言うと、おじさんは私の前に手を差し出した。


「俺はグレイスだ。君は?」


「シオンです。」


 私は名字は言わず下の名前だけを答えた。


「シオンか。いい名前だ。あぁ、そうだ。俺の名前は呼び捨てで呼んでくれ。さん付けされるのが嫌いなんだ。」


 私は頷きながら彼の手を握った。

 グレイスと握手を交した私はまず、グレイスに連れられて役場の窓口へと向かった。


「ここでは任務の依頼や、受注可能な任務の確認が出来る。冒険者にはそれぞれ階級が決められていて、安全上自分の階級以上の任務は受けることが出来ない決まりになっている。」


 グレイスの指差した紙には、任務内容や報酬、依頼者の名前などいろんな事がびっしりと書いてあった。


「冒険者のランクはA〜Fの6段階あって、最初は全員Fランクから始まる。まぁ、例外で最初からEランク以上の実力があると判断されれば、その後すぐに臨時の昇級審査が行われるわけだが…、まぁ、殆ど無いことだからあまり覚えなくてもいい情報だ。」


 グレイスはそのまま指をずらし、紙の端まで動かした。そこには、丸で囲まれたEという文字が書かれている。


「この文字はこの任務を受けることの出来る最低冒険者ランクだ。つまり、この任務はEランク以上の冒険者でないと受けることが出来ないという事になる。」


 グレイスの説明を聞きながら、私は静かに胸を踊らせていた。まぁ、踊る胸が無いんですけど…。

 この世界はまるで私のために出来たかのように、私の好きな要素がいっぱいだった。この役場もゲームの中ならギルドなんて名前で呼ばれるのかもしれない。セリナが言っていた魔法の類も、アスティやカイエンの使った治癒魔法でなんとなくどんなものなのか理解することも出来ている。恐らく、魔法陣を描かないタイプの魔法なのだろう。そうなると、習得方法は謎なのだが。

 とにかくこの世界はリアリティーMAX、やりこみ要素MAXの私の大好きな異世界RPGの世界だということは概ね間違いないだろう。


「続いて君の新規登録についてだが…。」


 任務について一通りの説明を終えたグレイスは、次に私を役場の奥へと案内した。


「ここに置いてある器具で君のマナの性質や、強さを測るんだ。いくら冒険者になりたくても、素質のない者はなることが出来ないからな。」


 そう言うと、グレイスは右側に置いてある装置の透明な液体の中に手を突っ込んだ。


「この装置の液体がマナに反応して変色しだす。これで、自分のマナが攻撃型なのか、サポート型なのかが分かる。」


 話しているうちに、装置の中の液体がどんどん変色し真っ赤に染まっていった。


「これが俺のマナの性質だ。赤が攻撃、青がサポート。真っ赤ということは完全な攻撃型だな。」


「真っ赤ってことは、真っ赤じゃない事もあるんですか?」


「おぉ!察しがいいな!」


 グレイスは少し驚いた表情を見せると、近くにいた青年を呼んで装置に手を入れさせた。すると、今度は装置の中の液体が青がかった紫色になった。


「こいつの性質は攻撃手段も持ったサポート型だ。」


「へぇ…、便利なんですね…あれ?」


 そこで私はあることに気がついた。


「この水、さっきよりも色が薄くないですか?」


「ははっ!全く…、君はさっきから本当に良いところに気がつくね。」


 グレイスは嬉しそうに声を上げて笑った。


「今、こいつのマナは攻撃側とサポート側の2つの仕事を同時に行っている。ただでさえ一人二役はハードルが高いのに、まだ未熟なこいつのマナでやるとなれば、この水を変色させるのがやっとってところだろう。」


 装置から手を引き抜いた青年は、疲れたようにぐったりとしている。そんなに疲れるものなのだろうか。


「よし、じゃあ試しにシオンもやってみろ。」


 青年と場所を交代して装置の前に立った私は2つの穴から腕を中に入れ、中の液体に手を入れた。


「あれ?なんか気持ちいい。」


 液体はまるで炭酸水のようで、手を入れてみるとシュワシュワと手を心地よく刺激してきた。


「ほぅ?気持ちいいか…。」


 なにやらニヤニヤと私を見るグレイス。その横ではさっきの青年が驚いた表情で私を見ていた。


「気持ちよかったらダメなんですか?」


「いいや、そんなことはない。むしろ安心しろ。今の君の反応は合格だ。どの性質だろうと君が失格になることはもうない。」


「え?それってどういう…。」


 そう言おうとしたその時、装置の中で液体がボコボコと沸騰し始めた。


「な、なんか熱いんですけど…。」


 どんどん温度が上がっていく液体に、私はそろそろ限界を感じていた。


「手を守るイメージで力を入れてみろ!」


 グレイスが声を荒げるが、いきなり言われてもそんなこと出来るはずがない。


「あ、熱い…っ……。」


 奥歯を噛み締めて我慢していると、突然後ろから近づいてきた何者かによって、無理やり装置から両腕を引き抜かれた。


「何やってるの!?あなた自分の腕を焼き焦がす気?」


 目の前で怒鳴ったのは、さっき少女を素早く治療したアスティさんだった。


「あーあ、もう肉が完全に焼けちゃってる…。いくらどれだけの能力があるか知りたいからって、あれだけ反応を起こした液に無防備な手を突っ込んでたらこうなることくらいあなたなら分かるでしょ!」


「す、すまん…。珍しく新人があれだけ反応させたからついどこまでいけるのか知りたくてな…。」


 アスティさんに怒鳴られて、グレイスは申し訳なさそうに肩を竦めた。

 その反応は、まるで逆に娘から怒られてしまったお父さんみたいだった。


「全く…、ここまで焼けてるともう再生術しか手は無いけど、今カイエン居ないのよねぇ。」


 真っ赤に腫れあがり、シューっという音と共に白い煙の出ている私の手を見ながら眉をひそめた。あの術はどうやら二人でやらないと使えないようだ。


「かなりの痛みになるけど大丈夫?」


「…え?」


 何かを決心した顔で聞いてくるアスティさんに私は思わず頷いてしまった。


「これ、噛んでて。」


 アスティさんが用意したのは白いタオルだった。彼女は私の口にタオルを突っ込むと、少女を治した時のように私の手に治癒魔法をかけた。


「うぐぅ!……うっ!うぐぐっ……!」


 さっき両手を焼かれたあの液体よりも遥かに激しい熱を浴びせられているようで、私は体をのけ反らせた。


「この子を押さえつけててっ!」


 アスティさんの指示に、周りで見ていた数人の冒険者が私の体を押さえつける。


「うぐっ…!うぅー!!!!!」


 押さえつけている人を押しのけようと身をよじる。すると、突然後ろから頭を押さえつけられ、首元にチクッ!っと痛みが走った瞬間私は意識を失った。

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ゲーマーの異世界戦記 白くま @sirokuma660

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