ゲーマーの異世界戦記
白くま
プロローグ いざ、異世界へ
授業が終わり放課後になると、やっと私の大好きな時間がやってくる。
それは、下校途中にあるアニメショップでお宝を探すというものだ。
私はゲームが大好きだ。特にRPGなんてやりだしたら何時間でもやってられるほどのゲーマーなので、何年か前に話題になった少年少女がゲームの中に閉じ込められ、ゲーム内で死ねば現実世界でも死ぬという過酷な状況下で、個性豊かな仲間たちとラスボスが待つ百階を目指して奮闘するアニメを見た時なんかは、実際に私もその世界に入り込みたい!なんて思いながら見ていたものだ。
でも、そんなことは現実に起こるはずがない。だから、こうして毎日ゲームショップに顔を出しては、新作ゲームの情報はないか、見逃しているゲームはないかと情報を集めて回っている。
今日も学校が終わるといつものゲームショップに立ち寄った。
「いらっしゃい。」
「こんにちは。」
店の中に入ると、店長のおじさんが私の顔を見るなりクスッと笑う。
「汐音ちゃん、また来たの?」
「またって、昨日は来てないじゃん。」
「一昨日来てたでしょ?」
店長の言葉に私は小さくため息をついた。
「ゲームの最新情報はいつ出るか分からないものもあるでしょ?それでこの前新作情報逃したし…。だから、頻繁に情報収集しておかないと。」
「でも、でもほぼ毎日来たってほとんど新しい情報なんて…。」
そこまで言って、店長の言葉が止まる。
「どうしたの?」
私が問うと店長はさっと店の奥に入り、小さな封筒を持って出てきた。
「これ、昨日仕入れたものなんだけど、汐音ちゃん何の付録か分かる?」
「ん?」
店長から封筒を受け取って、色々観察してみる。しかし、真っ黒なその封筒には何も書かれておらず、中を見ないと何も分からなかった。
「これ、開けちゃダメなの?」
「未開封品らしいから開けるとしたら買ってからだね。」
私は封筒を見つめて少し悩んだ。
「なんで売りに来た人に確認しなかったの?」
「したよ?でも、本人もあんまり知らないみたいで…。」
額をポリポリと掻きながら言う店長に、私は呆れ顔で大きなため息をついた。
「あのねぇ…。中身も分からないものをなんで買い取るかなぁ…。」
「いやでも、その人は言ってたよ?これは全てのゲーマーが夢見る品物だって。」
「またまた大層な…。」
そう言いながらも、マジマジと封筒を見てしまう。大げさとはいえ、全てのゲーマーが夢見る。とまで言われると、中身が気になってしまう。
「おじさん、今日はこれ買うよ。いくら?」
「本当に!?じゃあ、200円で買ったから、300円にしとくよ。」
夢と言う割に安いなと思いながらポケットから財布を出してカウンターの上に300円を置き、そのままその場で封筒の封を切った。
「中身はなんだい?」
店長が身を乗り出して私の手元を覗き込んでくる。
封筒の中身は、白紙の紙と何かのカードが一枚入っていた。
「白紙の紙と…、なにこれ?切符?」
取り出したカードは、
「これはまた、バカバカしいのが出てきたな。あ!言っておくけど、返品は出来ないからな?」
おじさんは手を前に突き出して、拒否のポーズをとる。
「大丈夫だよ。開封して中身を確認だけしておいて返品するなんて、そんな質の悪いことしないから。」
そう言って紙と切符をポケットへしまうと、私はショップの中の物色を始めた。
結局、その日はめぼしい物が見当たらず、謎の切符だけを家へ持って帰った。
「この切符どうしよ…。」
自室に入り、ポケットから紙と切符を取り出し、机の上へ置いた。すると、ショップで見た時は白紙だった紙に、何やら文字が書かれていることに気付いた。
「あれ?さっきまで白紙だったのに…。」
私は再びその紙を手に持ち、書かれている内容に目を通す。
『一ノ瀬汐音様。この度は、夢越線の切符をご購入いただき、誠にありがとうございます。つきましては、この切符の使用方法をこの紙に印し、役立てて頂こうと思っております。使用場所と使用方法については、KR線迦故川駅の4番乗り場にて西側から数えて3番目の黄色いタイルの上で、切符を手に持ってお待ちください。そちらの世界では走っていない、見慣れない一両のみの車両があなたの前に現れます。あとはその車両に乗って頂くだけで、こちら側の世界へ来ることが出来ます。ただし、そちらの世界にあるものは一切持ってくることが出来ません。その点はご注意ください。来られた際のお洋服も自動で変更させて頂きます。この条件でももし、こちらへ来られるのであれば、くれぐれもお気をつけてお越しください。きっと、あなたにとって退屈しない毎日が待っていると思います。』
といった風に、丁寧な言葉で書かれた手紙には、私の名前と私の住む町の最寄り駅の名前が書いてあった。
私は半信半疑だったが、いきなり現れた文字に興味を引かれ迦故川駅へ向かった。
紙に書かれていた指示通りに、4番乗り場へ向かい、切符を手に持って西から3枚目の黄色いタイルの上に立ってみる。
「まぁ、何も起こらないと思うけど…」
タイルの上に立ってから1分ほど経ち、そろそろ家に戻ろうかと片足を上げようとしたその時。
フオォーン!
突然、大きな警笛を鳴らしながら本当に一両編成の見慣れない車両が現れた。しかも、周りに居る人達はこの車両の事に気づいていないようだ。
「ほ、ほんとに来ちゃった…。」
突然現れた電車に戸惑いながらも、中をそっと覗いてみる。運転席はあるものの、人が乗っている気配は無かった。おそらく無人車両なのだろう。
少し怖い気がしたが、好奇心に負けた私はそのままその電車に乗ることに決めた。
電車に乗ると自動的に扉が閉まり、ゆっくりと私を乗せた車両は走り出す。
いくつかの分岐を超え、川にかかった鉄橋に差し掛かったところで突然窓の外が歪み、車両は闇の中を走り出した。
次第に車両の中も歪みだし、視界がにどんどん闇が増えていく。
音もだんだんと遠ざかり視界が闇に包まれる頃には、私は今意識があるのかどうかも分からなくなっていた…。
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