怖い話22【霊の見える女】1100字以内
雨間一晴
霊の見える女
「あなた、人を殺してますよね?」
ベージュ色のトレンチコートに手を入れたまま、女が目を細めて挑発的に訪ねている。真ん中分けの黒いロングヘアーの下で、真っ赤な唇が楽しそうに歪んでいる。唇の横にあるホクロがセクシーだった。
「おいおい、初デートで聞くことかい?」
大袈裟に肩を上げながら、首を傾げた男は、秋なのに日焼けをしていた。プレイポーイのサーファーといったところだ、短く後ろに流れている金髪、短く整った
人気の無い穴場の夜景スポットだろうか、山中にある小さな公園に、二人の会話が静かに響いていた。夜景が忙しく金色に光り輝いている。
「私が、出会い系アプリで、どうしてあなたに連絡したか分かりますか?」
「うーん、俺の魅力に惚れちゃったかな?」
「正解です、見えるんですよ。あなたの後ろに」
「え?」
「あなたが殺した人が、後ろに憑いているんです」
「なにそれ。君って不思議ちゃん?」
「女性を殺してますよね?あなたの後ろで、あなたを睨んでますよ……」
男は素早く左右後方を確認した。女は楽しそうにそれを見ていた。
「二人は殺してますよね……」
「お前、本当に見えてるのか……」
女が、より邪悪な笑顔に変わったとき、男は女の首に両手で掴みかかった。
「なんで分かったか知らねえが、生かしておけなくなったな。後でじっくり殺すつもりだったんだが、くくく」
首を掴まれ女の体が宙に浮きかける、かかとが上がる。それでも、女は歪んだ笑顔のままだ。
不意に、男が手を離した。驚いた表情で、腹部を抑えている。芝生が赤く染まっていく。
「お前……、くそ!」
反撃しようと立ち上がる男の首に、出刃包丁が突き刺さった。倒れた男から、声にならない血に溺れた音が聞こえる。
「良い切れ味でしょ?ポケットから取り出せるように、コートの中に固定してあるのよ、ふふ」
見せ付けるようにコートのボタンを外した。黒いロングコートの内側に、様々な形の刃物を収納出来る革製のケースが、いくつも縫い付けられていた。
動かなくなった男の髪を掴み上げ、女は首を傾げながら優しく笑っている。
「あら、もう死んじゃったの?私ね、幽霊なんか見えないのよ。出会った人全員に、人を殺してますよね?って聞いてるの。まんまと釣られちゃったわね。私を殺せると思った?ふふ」
男の頭を地面に返してから、ふと肩越しに背後を確認した。
「ふふ、人殺しを殺すのは、何でこんなに楽しいのかしらね。女相手に余裕ぶった顔が崩れるのは、思い出すとゾクゾクしちゃうわ。私の背後には何人が憑いているんでしょうね、ふふふ」
女の背後で、風も無いのに木々が揺れていた。
怖い話22【霊の見える女】1100字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu
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