第2話夢だって思い通りにいかない事の方が多い

ここは…どこだろう。

ぼんやりとした意識で、ぼんやりとした視界を見つめる。

足先が少し浸るくらいの薄い水が張っていて、どこまでもどこまでも続いている。

見覚えはない気がする…いや、あるのかな。

そんなことを考えていると、いつの間にか目の前に誰かが立っていた。

手を伸ばせば届きそうだけど、触れたら壊れてしまいそうなくらいの儚さを感じた。

性別はどっちだろう…まあどっちでも良いか。

「…てはいけない。」

性別がどちらかもわからない、儚げなその誰かが必死に伝えようとしてる。

ああ、また夢か。

そういつもの夢、次は大体急かされる…と思ったら。

「…いい加減、起きろモム。」

「…へ?」

モム?…語尾がモムってどこのどんなゆるキャラなんだ?

そんな疑問を、戸惑いながらも冷静に考えていた。

「だから、いい加減起きろモム。」

”いやいやモムって”と言おうとした矢先、みぞおちの辺りに鈍くて重い衝撃を受けた。

「ぐおふぉっ?!」

その痛みとともに僕は目を覚ました…だが、起き上がれない。

手足は動かせるのに、胴体におもりを乗っけられたように動かない。

息もしずらい状態で、なんとか上体を起こしつつお腹の上を見てみた。

「?!!!!」

ウリ坊?パンダ?いやなんだこの生き物は。

30センチくらいの白黒の物体が微動だにせずに、視線だけこちらを見ていた。

「やっと起きたモム、舐め回しても起きないから強行手段に出てみたんだモム。」

「えっ?!うわくっさ!」

そう、僕の顔はそのモムモム言ってる得体の知れない生き物に舐めまわされ、ベッタベタになっていた。

その跳ね起きた勢いで、やっとその生き物が僕の上から降りてくれた。

正確には、跳ね飛ばしたと言うのが正しいけど。

「何をするモム、せっかく起こしてやったのに。」

「どんなモーニングコールなんだよ!…ちょっと待って、なんでウリ坊が喋ってるんだ?!」

頭がおかしくなったのか、急に動物と喋れる能力でも身についたのか、その得体の知れない生き物と僕は普通に言葉を交わしていた。

「失礼な、ムーはバク科のモムだモム。」

もう、ちんぷんかんぷんだ。

その得体の知れない生き物が言うには、一般的に夢を食べる事で知られているバクの中にも種類があり、その中のモムと言う種類らしい。

ちなみに「ムー」は一人称だとか。

夢はいつもと違うし、目が覚めたら得体の知れない生き物が話しかけてくるし…。

とにかく状況整理をしたいのと、ベッタベタになったかわいそうな自分の顔をスッキリさせたいのとで、洗面台に顔を洗いに行った。

それにしても、ここは自宅ではないらしい。

なのに洗面台の位置はわかっていた…来たことがある所なのか?

顔を洗いながら考える、そう言えばいつもの夢を見て、起きたら知らないイケメンが立ってて、なんやかんやで気絶させられたんだっけか。

で、起きたら知らない所で…実はまだ夢の中なのか?

「ご名答〜。」

「うわぁぁぁぁぁ!」

心の中を読んだかのように、僕が思っていたことに誰かが返事を返した。

あの僕を気絶させたイケメンが、ちょっといたずらっぽく笑ってそこに立っていた。

初めて見たときは気づかなかったけど、僕が着ている服とは全く違う格好をしていた。

上下が白で統一され、チュニックのようなゆったりとしたシャツとパンツを履いていた。

斜めがけで薄めのヨモギ色のストールのようなものを片側にかけ、シンプルなブローチのようなもので留めている。

「やっとお目覚めですか。」

「いやいや、って言うかここどこなんですか?!」

その爽やかイケメンは、”何をおっしゃる”とでも言いたげな顔で僕にウインクをした。

「言ったじゃないですか、寝てくださいって。」

「え?あ、確かに…え?!」

「そう、ここはあなたの夢の中ですよ。」

信じたくはないけど、変なことが起きすぎてるし、なんとなく納得できてしまうのはやっぱり夢なのか?

だいたい、なんで夢の中で夢を見て、起きるなんてことがあるんだろう。

「聞きたそうなことがいっぱいありそうですね。」

「あー、まあ。」

本当にいろんなことが急すぎて、頭が追いついていかない。

いつもと違う夢なら、もっと良い夢が見たかった。

なんて思ってると、”仕方ないな”と言いながらその爽やかイケメンが話し出した。

「混乱されると、やってもらわないといけない事に支障が出ちゃうので、説明していきましょうか。」

「やってもらわないといけない事?」

その”やってもらわないといけない事”の為に、どうやら僕はこの夢に誘われたらしい。

なんで僕の夢なのに、爽やかイケメンが主導権を握ってるんだ。

夢だって思い通りにいかないことが多いのか…もう、すでにうんざりだ。


to be continued…



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