SS.3 大切なきみ

 仕方ないと思うよ


「えっ、とね、お母さん」


「つ〜ん」


 (つ〜ん)


 タイミングが悪かったんだよ


「お義姉ちゃん、おとなげないよ」


 (どうせ私はいつまでもこどもですよ)


 立派にお母さんしてるじゃないか


「なによ桜ちゃん! 私より先に知ってたからって!」


「桜ちゃんとはたまたま会っただけだから」


「私は相談されてたけどね?」


「もう! 秋穂ちゃん。火に油注がないでよ」


 (ほらっ! 私は相談されてなかったのよ?)


 年頃なんだから恥ずかしかったんでしょ


 (そうだとしてもだよ? 愛しい我が子の恋人のことなんだから、1番に知りたかったの!)


「だって、お母さんに言うとウチに連れてきなさいとか、どういう人なのとか、根掘り葉掘り聞かれそうだし」


「当たり前でしょ?」


「あ〜、お姉ちゃんのことだからしつこそうだよね」


「秋穂? ちょっとひどくない?」


「ん? 事実でしょ? ちなみに私の感想はねぇ———」


「待って! 言わないで! 私が見て判断したいの」


「ほらっ、暗に連れてこいって言ってる」


 (私の味方がいないの)


 僕はいつでもあなたの味方だよ?


 (……そうね)


 なんか、含みのある言い方だね


 (そうね!)


「う〜ん? ウチに来たいとは言ってくれてるよ?」


「本当? じゃあ晩ご飯の買い物してこなきゃ」


「待ってお母さん! さすがに今日は急すぎるから! ちゃんと余裕を持った計画立てて!」


「お義姉ちゃん、必死だ」


「やれやれね、桜」


♢♢♢♢♢


「はじめまして、遥四季です」


 (第一印象はね?)


  おとなしそうな好青年


 (もうっ、なんで言っちゃうかな?)


 はいはい、ごめんね


 (雰囲気はちょっときみに似てるかな?)


 そうかな?


 (無意識に父親に似た人を見つけたのかもね)


 お父さんに似てる人を好きになるって? 年頃の女の子なら全力で否定しそうだね


 (照れ隠しだよ)


「いらっしゃい。はるかの母の夏希です。来てくれてありがとうね」


「い、いえ。お招き、ありがとうございます」


 おや? なんか様子がおかしくない?


 (ふふっ、大好きな子の親の前で緊張してるのよ)


 そう?


 (まあ、ホントの理由はね?)


「ん? 四季くん、なんでそんなに照れてるの?」


「いや、……そう?」


「じぃ〜」


「いや、じぃ〜じゃなくてさ」


「ふ〜ん。お母さんに見惚れてるんだ」


「ちょっ! ち、ちがうから。変なこと言わないでよ、はるちゃん」


「あらあら。こんなおばさんに見惚れてくれるなんて、四季くん、お目が高いわね」


「もうっ、違うんですってば」


 うざ絡みは嫌われるよ


 (ひどいっ! 冗談で和ごましてあげたんじゃない)


「うふふ、そうね。いつまでもこんなところ玄関にいないで上がって」


「あ、はい。おじゃまします」


♢♢♢♢♢


「おいしいです。はるちゃんのお弁当もおいしくいただいてるんですけど、お母さんの味をしっかりと受け継いでいるんですね」


「ふふっ。ありがとう。いっぱいあるからおかわりしてね」


「まだまだお母さんには敵わないもん。そこはほらっ、『年の功』ってやつ?」


「そうね。まだまだはるかには負けないわよ? それでも四季くんにとっては」


「はい。はるちゃんの作ってくれる料理が1番です」


「ちょっ、ちょっと四季くん?」


「なに照れてるのよ、はるか。そういうものでしょ?」


「ですね。はるちゃん、そういうもんなんだよ」


「もうっ、四季くんまで。でも。ありがとう」


「そこで最後に『大好きだよ』って言わないと」


「お母さんっ!」


 あ、悪ノリしてるね


 (だって、うれしいじゃない。あっ、この子は娘のこと大切にしてくれてるなって)


 そうだね


 (やっぱり、お父さんに似た人を好きになったのよ)


♢♢♢♢♢


「お母さん、長い間、お世話になりました」


「うん。結婚おめでとう」


「ホント、はるか綺麗ね」


「ありがとう。桜ちゃん」


「はるかの結婚式には私がメイクする夢、やっと叶ったわ」


「あははは。秋穂ちゃん、昔っから言ってたもんね。馬子にも衣装。さすがプロの仕事」


「ばかね、元の素材がいいからよ」


 ホント、綺麗な花嫁さんだ


 (世界一?)


 残念ながら二番目かな?


 (じゃあ、一番は?)


 もちろん、あなただよ


 (ありがとう。愛してるよ)


 僕も、愛してるよ


「それにしてもすごいね。高校から四季くん一筋」


「うん。いっぱいケンカもしたけど、やっぱり四季くんしか考えられなかったもん」


「あらあら、惚気?」


「そうよ? 文句ある秋穂ちゃん?」


「はいはい。恋愛アドバイザーとしては文句ありません」


「私だって、いっぱい相談乗ったんだからねっ!」


「なんで張り合おうとしてるのよ、お姉ちゃん」


 あなたらしいね


 (事実ですから?)


「はいはい。お母さんのおかげです。でもね?」


「うん?」


「今だから言うけど、最初に相談したのも、いっぱい相談したのも、お父さんだったりするんだ」


 あっ、こらっ、し〜


 (ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どういうこと?)


 さぁ? 幸せな家庭ってことじゃないかな?

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