SS.2 あの頃の幼馴染
とある休日。
お姉ちゃんのウチのリビングで雑誌を見ていると、視界の端に髪の毛を両手で持ちながらウンウン言っている姪っ子が映った。
「さっきから姿見の前で何してるの?」
雑誌から顔を出して、はるかに声を掛けた。
「う〜ん。あのね。私も中学生になったわけじゃないですか? だからね、ツインテールだと子供っぽいかなって思っていろいろ考察してるの」
「は、は〜ん。さては恋だな? 恋しちゃったんだな?」
「ぶ、ぶ〜! もう、あきちゃんはすぐに恋愛に結びつけようとするんだから。違います。ただ単にイメチェンしてみようかなと思っただけです」
別に私は恋愛脳ではない。それどころかすでに恋愛とは縁を切ったと言っても過言ではないと思っている。
それにしても、この子も中学生かあ。月日が流れるのは早いものだ。
本人は恋愛ではないと言っているが、そろそろ本気の恋愛をしてもおかしくない歳にはなっている。
「高校生くらいまではツインテール需要はあると思うよ」
「需要って何よ〜」
私の言い方に不満でもあったのかしら?
「妹キャラかツンデレキャラでも目指してみる?」
「目指さないよ〜」
お姉ちゃんに似て案外しっかりしてるからなぁ。
「ねぇ、どんか髪型が似合うと思う? あきちゃんって中学生の頃どんな髪型だった?」
「中学時代かぁ」
まだ恋に恋焦がれていたあの頃。私には意識すべき対象がいた。
♢♢♢♢♢
「ねぇ、春斗。もうすぐ高校生じゃない? だからイメチェンしてみようと思うんだよね。その、どんな髪型が似合うと思う?」
無事に高校受験を終えた私は、春からの高校生活に胸躍らせていた。
「えっ? 秋穂ならなんでも似合うと思うよ」
ジッと私の顔を見つめながら真剣な表情で春斗は答えてくれた。
「あっ、そ、そう? ありがとう」
「何、そんな赤い顔して」
「春斗がジッと見つめてくるからだよ。……ばか」
「そ、そっか? 悪い」
見つめられるだけで照れてしまうなんて、お互いに初心だったなと思う。
中学生なんてそんなものかな?
「でも、なんでもかあ。うれしいんだけど、一番困る返事よね」
毛先を指でクルクルしながら春斗にジト目を向ける。もちろん、うれしさが勝っていることは言うまでもない。
「でもなぁ、秋穂のその髪型も好きな……、似合ってると思うんだよ。落ち着いた雰囲気だしさ」
中学時代の私は、ありふれた黒髪ロング。
体育の時間とかに一つにキュッと縛るくらいのことしかしていなかった。
「でもねぇ〜」
私が髪型を変えたいと思った原因はお姉ちゃんだ。
私が通う予定の学校とは違うこの辺では有名な進学校に通い、見た目も似てると言われる姉とは違う髪型にしたかったのだ。
「なに?」
「ううん。なんでもないよ」
お姉ちゃんに対する劣等感から。
そんな風に素直に言っても、春斗は「気にするなよ」と言ってくれることだろう。
だって春斗は私にとっての唯一の理解者だから———。
「ん〜、じゃあさセミロングは? ロングよりさ、明るい感じに見えない?」
「セミロングねぇ、変わりばえしないと言えばしないけど……、春斗がせっかく考えてくれたので採用。明日、美容院行ってくるね」
♢♢♢♢♢
「あきちゃん? お〜い、起きてる?」
声に気づき目を開けると、目の前には黒髪ロングの少女が覗き込んでいた。
「あれ? 私、寝てた?」
「え〜? 無自覚なの? 30分くらい寝てたよ」
失った過去は夢でなら再現できるんだね。
「ね、はるか。肩口くらいで切り揃えてみようか?」
「えっ? セミロングくらい?」
「うん。はるかにも似合うと思うんだ。どう?」
「あきちゃんが言うなら間違いないでしょ。じゃあお願いします」
「うん。ちょっと準備してくるね」
自宅に戻るために玄関で靴を履いていると、ガチャと扉が開いた。
「あれっ? 帰るの?」
「ううん。はるかの髪の毛切るから必要なもの取りに行くだけ。また帰ってくるよ」
あの頃と変わらない優しいあなたの脇をすり抜けて、私は自宅へと向かった。
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