Stargaze
夏時
第1話
どこまでも広がる空のどこかには、人々の夢の行き着く終着点があるらしい。
「さぁ、敵のお出ましだ。初陣だがまぁ…オレが教えたとおりにやれよ?」
「お前相変わらずなんか上から目線だな…まぁちゃんとやる。やらなきゃ、いけないんだろ」
「決意はちゃんと固まってるみたいだな。まぁ、いざというときゃ助けてやるよ。」
ゆらゆらと隣の男の黒髪が揺れる。
「そろそろ行くぞ」
「あぁ………………………変身!」
ホームに降りようとすると、生暖かい風が強く吹いた。
「まぁ、4連勤したしな…」
やけに重く感じるギターを背負い直して小さく呟く。定刻通りに列車はやって来て、以外にも空いていた車両に乗り込んだ。
晃良にとって電車の中は考える場所だった。上京してきて、一人暮らしをして明らかに1人で過ごす時間が増えた中で1番静かに考えを纏められる時間は電車に乗っている時間であった。そのままゆらゆら電車に揺られていれば、どこか知らないところに連れて行ってくれ無いだろうかなんて妄想を何度しただろう。
数分間そんなふうに過ごしていれば最寄り駅に着く。まだほの暖かい風が吹く道をぽつぽつと明かりのついた家々と点々とそびえる外灯が照らしていた。
「どっかの家はカレーだなぁ…腹減った」
ふわりと香るどこかの晩御飯の献立を推察しながらなんとなく空を見上げれば、ちらちらと一番星が瞬いている。空は綺麗に晴れており、群青が空の真ん中を占めて鮮やかな橙が裾を広げていた。この時間帯が晃良は好きだった。
「あー……なんかいい曲浮かびそ」
小さく伸びをして、ぽっと浮かび上がったインスピレーションが消えないうちに帰らねばと小さく走る。メロディを口ずさみながら家がもう見えてきたその時だった。
白い閃光が、群青の空を斬った。
「えっ、なんだ今の…隕石、とか?」
驚いて立ち止まるが、先程まで激しい光を放っていた事が嘘のように穏やかな星空が広がっていた。いや、都会では有り得ないような眩い星空が晃良の瞳には映った。
「…え?なん、だよ…これ…こんなに星が見えるはず無いだろ…!?」
何か先程の閃光と共におかしな事が起こっているのではないか、そんな漠然とした不安が押し寄せる。嫌な汗が額に浮かんだ。
恐ろしい程に輝く星空。いつの間にか空は群青から漆黒の中に白く星が輝いている。
どこまでも、吸い込まれそうな星空だった。
ふと、キィンと耳障りな音が鳴る。
「あっ!?痛ッ…!?」
思わず目と耳を塞ぐと、ズシンと近くで重いものが落ちてくるような振動がした。それと同時に「何か」がいる感覚がする。
それを、見てはいけないと本能的に感じる。微かに震える膝を奮い立たせ、汗ばむ手を握り締めて、振動のした逆を走り出す。震えが止まる気配はなかった。ただ止まったら終わりだ、そういう感覚だけが晃良の中にあった。
ふと、足に何かが引っかかり身体が浮いた。
「しまっ…」
光景がスローモーションのように感じる。
やらかした、もうここで終わるのか?唇を噛み締める。
その時、ぐっと腕を引かれた。
「やあっと見つけたぜ、エヴァーター」
地面に着くはずだった晃良の身体は、すんでのところで止まっている。
「助かったのか……?」
「…で、一応助けたけどさ。兄ちゃん、そろそろ俺の腕もしんどいから自分で立ってくんない?」
ため息混じりに滑らかな低音の声で腕の主は告げた。
「えっ?あ、うん。すいません…」
急いで立ち上がると、目の前にはどこかファンタジーチックなコスプレのような服装のフードを被った男が立っていた。思わず目を見開くと、相手はジロジロと晃良の上から下までを眺める。
「…筋肉量はそこそこ、目も悪くない。勘も良い、反射神経は…まぁ合格かな」
ブツブツと喋る様子を不思議に眺めていたが、ふと先程までいた何かのことを思い出す。
「あっ!そうだ君!あの、なんか俺を追いかけてた何かは!?」
「ん?お前の後ろにまだいるけど」
「は?」
さあっと血の気の引く音がする。そんな晃良の様子を気にすることなくフードの男はけたけたと笑う。
「まぁ、暫くは動けないよ。あとちょっと経ったら動き出すけどな」
「動くんじゃん!?」
「それまでにお前が答えを出せば良いだけだよ」
「何の!?」
慌てる様子もなく、淡々と喋る男に不信感だけが募っていく。男からすっとそれまでの笑みが消える。
「お前…いや、
Stargaze 夏時 @summer_hototogisu
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