処刑場からの脱出~同人戦記~

低迷アクション

第1話 処刑場からの脱出

処刑場からの脱出


 ようやく引きずってる面子の不思議さと引きずられる理由もハッキリしてきたところで、こちらを振り向いた巫女さんが動きを止める。俺を立ち上がらせるまでもなく、凄い力で乱暴に腕を引き上げる。着物の裾から下が覗けないかと、下世話な事を考えていたバチが当たったかと思うが、そうではないらしい。


巫女さんは着物の裾から、およそ巫女さんらしかぬ銀色のライトのようなものを取り出し、俺の手元を照射する。こちら側からは見えないが、何かが映っているらしい。光を消した彼女はこちらを見下ろしながら、声をかける。


「えーと貴殿の階級は同人部隊所属の階級“軍曹”という事で間違いないよね?   あーっ、良い、良いよ。返事をしなくて。今、処刑の手続きをするから、ね!」


こんな雰囲気にとっても場違いな感じでニコニコ明るく喋る巫女さん、笑顔で俺の手を離さず、強く握り潰し直す事も忘れない。                             


「お名前はサンダー、おそらく偽名だよね?だって全然外人に見えないもん。サンダー軍曹!あんた達の存在は、世界のはみ出し者、いわゆるテロリストと大差ないよね?


残念だけど、我が国というより今のご時世、そーゆう連中は法律で定義するのも不明瞭な部分が多くてね。曖昧さ回避のため、即処刑とか結構OKなんだって。騎士団長さんからも許可もらってるしね。」                          


OK?人の命を何だとっ?慌てて発言する。(ここからは自身の階級と命ごいのために敬語で進めていく事にする。)                            


「しっ、失礼ですが、ここは平和ボケでは、断然二人は・・・失礼、断然トップの国と聞いていますぜ?こんな簡単に処刑とかして良いんですか?つーか、騎士団長の野郎…願いだけはって、そうゆう(後半は小声でぼやく。)」


狼狽した軍曹の言葉に足を掴んでいた兵隊連中が可笑しそうに肩をゆする。正面の巫女さんにいたっては大爆笑だ。                                  


「いやぁ、これが本当に同人の兵士ぃ?何にもわかってない。勘違いしてる。ここは日本じゃなくて黒傘町(くろかさちょう)だよ?」


いきなり潜伏先の町の名前を出されても、わっぱりわからない。自分のクエスチョンマークに溺れそうな軍曹に巫女さんは続ける。


「この町は現在の状況、あらゆる漫画勢力と現実勢力が入り乱れる世界の調和を保つための実験都市。混沌を制する、様々な政策、施策が試されてる。勿論、さっきの法も市民はというより、世界が周知の事実だよ?」


町へ繰り出す前に何も言わなかった指揮官に銃弾を浴びせてぇ。よくわからないが、不味い流れになってきた。軍曹が次の言葉(言い訳)で時間を稼ごうとする前に、ニコニコ笑顔の巫女さんパンチ(素手)が彼の顔面を捉え、2度目に意識が吹っ飛んだ・・・


 歓喜のざわめきが聞こえてくる・・・辺りが騒がしい?・・・目を開ける。視界がハッキリしてきた。騒がしさの正体は蟻のように蠢く群衆?が自分を見上げ、声を上げている。


(?)と思ったのは、彼ら、彼女達の服装だ。制服に、メイド、露出が高いのもいれば、変身ヒロインもどき!容姿に至ってもそうだ。


童顔、清楚に天然、委員長タイプと獣みたいな耳が生えてる?・・・!!・・・察した!いや、嫌がおうでも察した。ここは、自分の、同人部隊が戦いを仕掛けてきた連中の巣窟だ。


体が冷えてくる。彼女達を見下ろす自分の立ち位置が気になる。更に言えば広場のような場所に、自身の両手首を締め上げ拘束している切れねぇ麻縄・・・これは・・・まさか・・・


「気がついた?」


メガホンを持った巫女さんが穏やかに聞いてくる。場所と雰囲気さえ違えばシナリオ的にトルゥーエンドヒロインとの会話シーン(長い!)ぐらいのさわやかさだが・・・


軍曹は全身全霊、全毛穴をもって平静に務めようと努力する。だが、身体はとっても正直に!体調悪さに負けないくらいブルブル震え出す。

そんな事に気づいてか、それともお構い無しなのか?明るく続ける彼女…


「今日の執行予定は2回、1回目はもう終わったから、次はあんたの番!最後に注文とかある?叶えられる範囲で聞くけど?」


処刑?そう言えば足下が赤い。臭いも凄い・・・あかん、これはケチャップやない!何で気づかなかった?飛び散る肉片は豚肉じゃねぇ。屠殺場ばりに真っ赤だ!?


歯までガチガチ状態の軍曹は恐怖で崩壊寸前な心をどうにか持ち直し、辺りを見渡す。ここは処刑場…風景から察するに、黒傘町郊外の盆地を切り開いたイベント会場をそのまま利用しているようだ。


真っ赤な処刑台の階段付近には、旧ソ連製AK-47突撃銃を携えたアフリカンな見張りが一人。明らかに東洋人ではない。

ここは本当に極東の島国だろうか?


「無ければ始めるよ?みんな待ってるから・・・」


「@*$#(母国語)!あっ、言葉喋れます。待って下さいよ!何だか、ざっと見、

見物に幼い子とか女の子が多い気がしますが、不味いのでは?道徳的にも!!」


今、出来る最大限の命引き延ばし活動は、時間だ!時間を稼ぐのだ。それしかねぇ。死にたくない気持ちMAXハートの軍曹は吠える。巫女さんも「何だ、そんな事?」といった風に切り返す。


「大丈夫!みんな18才!設定!」


「設定ィィィ!?あ、それなら問題ないですね。ハイ!」


思わず納得顔をしてしまう軍曹。巫女さんも「分かってもらえた?」ばりに笑顔で頷き、手を上げる。


(ウォォォォ!しまったぁぁぁ、処刑を遅らせるどころか促進してしまった。あの手は開始の合図だ。床が大きく揺れる。地響きのような足音は、首と胴体のさよならリズム。恐らく執行者(処刑人)が上がってくる。)


とりあえず、最後のあがきを声にしてみた。


「あのですね。」


「ん?」


無邪気な顔で巫女さんがこちらを一瞥。本当にその表情、そのまんまの行動をとってくれれば最高なんだが・・・


「処刑人の注文というか、指名はできますか?」


巫女さんが上げた手を下げる。少し興味を持った様子だ。地響きも止まる。脈あり!軍曹は続ける。


「例えばですね。最後を下して、いや看取ってもらう訳ですから、聖職者、尼さん的な黒い法衣か、頭巾を被った女の子的な、よく切れる獲物持った、何か南無~的な娘っ子に処刑をお願いしてもらうのはどうでしょう?」


読者の皆さんは「こんな状況下でも美少女萌えかよ?」と言われるかもしれないが、そんなに難しい提案じゃないだろ?見下ろす広場には女の子がごまんといる。

一人くらい該当する娘がいる筈だ。正直耳っ子ちゃんを助けた時点で、こんな事になるんじゃないかと覚悟していた。味方の支援は恐らくない。


だが、さっきの酒場みたいに“条件が上手く重なれば”生存も可能かもしれない。

(まぁ、悪くない。ウン!あんまり良い事なかった。皆無だったけど!それでも戦いを続けた!連中みたいな可愛らしい娘さん?いわゆる萌えな子達を追い続けた人生、その子達に殺してもらうのはグレイトフル・デッド!ある意味、最高すぎる死だろ?下手すりゃリビングデッドもありうるかもしれねぇし。)


軍曹の注文を得心顔で聞いていた巫女さんは「ポンッ」と手を打ち、とっても素敵な笑顔でグッドサイン!通じた?同じく笑顔で返す軍曹に頷き、彼女はしっかりと手を上げる。地響きが再会される。


(えっ?あれっ?通じてない?どうして?)


凄まじい地響きの音の主が階段を上がりきる。軍曹は悲鳴と共に全てを理解した…

黒い頭巾にでかくて良く切れそうな大鎌(斧か?)それに負けないくらいの巨体、血しぶき飛びまくりのエプロンを着た怪物が軍曹の前に立つ。(何だろ?キウイシェーク頼んだらキングコング来たみたいな・・・)よくよく見れば、確かに注文と類似点がある。 


 だが・・・!!・・・だが、しかし!


「か、肝心の女の子は?女の子!あれが女性だったら、もうこの世界は終わりな気がするよ?」


怪物の巨体に負けないくらいの大きい声を出す。このままじゃ死にきれない。時間だ。時間を(以下略!)怪物と巫女さんが笑い出す。怪物に至っては笑うたびに処刑台事態が激しく揺れる。気がつけば見物人の女の子達も黄色い声で笑い出す!


「ご注文通りだよ。女の子ならそこにいる。」


可笑しさを隠し切れないって感じで巫女さんは怪物を指さす。言われてみれば、怪物の巨体に圧倒され、気がつかなかったが、エプロン上部にアクセサリーみたいに引っかけられた娘がいる。


「怖っ!えっマジで?おたく等、世紀末世界旅行から帰ってきたばっかり?残酷すぎると思うんだけど。てか、その残虐性はどうなの?おたく等に正義は無いの?」


こうなりゃ、目を覚まさそう。ここにいる子達の!だいたい見物客のほとんどが、普段ならこういう場面を取り締まったり、それを防ぐために戦う正義の味方側の筈だ。彼等、彼女等の良心を信じて・・・


「さっきも言った通り、ここは傘黒町だ・・・」


見張りのアフリカンがここで初めて口を開く(喋った!?何、お前、喋りキャラなの?)重々しく、よく透き通った声で彼が続ける。


「この街、いや、この国はありとあらゆる法が施行されている。全ては世界の調和のため。それは正義を司る者とて同じ事。普段、大義とか理想とか世界の秩序とかを担う彼等が息を抜ける場所、自身の悪を解消する、ガス抜きの場所を考える意味でも、ここは存在している。簡単に言えば、普段では考えられない、残虐行為も濡れ場もここではOK、つまりは・・・」


「同人かっ!?」


最後まで言わせず、言わせたくないので軍曹は吠えてみる。その声にアフリカン、巫女さん、怪物、広場の皆が少し違うと言いたげな、複雑な表情でやや頷く。そこは区別したいところのようだ。なるほど!妙に得心が言った気がする。


そんな場所なら、誰かがきっと救いの手を差し伸べてくれる事だってありうる。何でもありなんだから。可能性があると思う!映画とかアニメみたいに(できたらアニメの方で!)ロリロリなお嬢さんの使い魔兼奴隷的な感じで生かされるとか!?戦乙女の馬世話係見習いでもええっ!!


ゼロではない!誰か軍曹に救いの手をっ!そんな感じの顔で広場を見渡す!・・・


数秒の沈黙の跡、堰を切ったように!様々な方向、方位、角度(?)から


「DEAD(死ね)DEAD(死ね)」コールが沸き上がる!


(えっ?なして?何でこんなに嫌われてる?)慌てて、巫女さんを見上げる。


「やれやれだよ?」といった感じで巫女さんは首を振る。続けて、アフリカンも…


「サンダー軍曹・・・貴殿の部隊、活動内容まではよくわからなかったが、行ってきた作戦は正直言って・・・」


作戦?どういう事だ?まさか・・・


「お楽しみ幼稚園・・・」


巫女さんが口を押さえながら喋る。話すのも憚られるという風に。アフリカンが引き継ぐ。


「20XX年、神奈川県某市の幼稚園を3機の武装ヘリが襲撃した。その作戦名はお楽しみ幼稚園、一体何を楽しむつもりだったのか・・・指揮官はサンダー軍曹・・・」

吐き捨てるように締めくくられる。


(しまったぁぁぁ。まさか自分達の過去を、いや、あの頃は色々とあってね。なんて!言い訳している場合じゃない。)


焦りまくる軍曹の首を怪物が掴む。それだけで呼吸が止まりそうな締め付けに、悲鳴を上げる。見物人がドッと歓声を上げる。


「覆面処刑人(怪物の名前らしい)はロリコンとか性犯罪者を一撃の元に始末するのが大好きなんだよ。ちなみに1番目のメガネは男の娘を襲ったの。死んで当然!」


歌うような声で巫女さんが軍曹の顔を覗く。


(マジで!?冗談じゃない。このままじゃ処刑される。こんな化け物に屠られるのはグレイトフル・デッド!じゃねぇ。誰かっ、救いを!ラブとかじゃなくても良い!何かキッカケを!


もう、処刑をされる自分を見てるあの娘は心の中では可愛そうとか思ってくれてる

事をモ・ウ・ソ・ウするだけでもええ!


可愛ええ女の子のパンチラだけでも目に焼き付けて!逝きてぇ!それだけでも良いんだ。こ・う・な・った・ら!)


血走った目で辺りを見渡す。怖いもの見たさでチラ見する娘、両手で手を覆いつつも指の間からガン見の娘、テンションMAXではしゃぐ娘!「可愛い!」いや、そんなことに気をとられている場合じゃねぇ。


焦る軍曹に一人の娘が目に止まる。自分を見上げている彼女は時折、眩しそうに目を細める。光の角度か?いや、そうじゃない。この光は自分から、自分の足下から照らしている。首を曲げて見てみる。メガネーっ!!メガネの破片だ。


一番目に何十分割(1000分割くらいか?)された死刑囚の残した置き土産が、自分の目の前にある!メガネのツル部分が刃物みたいに鋭くなった破片を残してだ!


処刑人の様子を窺う。巨大な斧を振り上げた怪物は巫女さんの合図を待っているようだ。大丈夫、気づいていない。怪物のエプロンに吊された、アクセサリーの彼女と目が合う!?生きてる?恐怖に震える呼吸を整えながら、気づかれないように拾ったツルで縄を削る。落ち着け!慎重に。慎重に。テイクイット・・・


「それでは処刑開始まで3秒前!」


巫女さんのコールに驚く。早っ!?3秒!?ここは10カウントじゃないの?ツルの削り速度を上げる。アフリカンがそれに気づく。「貴様っ・・・」突撃銃を構える彼に、やけくその突進をかける。直後、巨大な一撃が二人を襲う。鈍い轟音が響き、肉片と血が辺りに飛び散る。


血が煙幕のように立ちこめた処刑台、静かな沈黙の後にイカレタ笑いと怒鳴り声が辺りに響き渡った。


「ヒヒヒヒッ!イーッツ、アラーイブ!生還のついでに一つ教えてやるよ。幼稚園を襲った部隊の名前はな!同人野郎の中でも、精鋭の俺様が率いる“特殊部隊同人”だよ!」


血をぬぐい去り、姿を現した軍曹は、盾に使った死人の肉片をかき分け、かき分け、第2撃を構える覆面処刑人に攻撃を開始した・・・      

 

死体から奪ったAK突撃銃は充分に作動する。吐き出される7.62ミリの銃弾は吸い込まれるように処刑人の頭部に命中していく。20メートルも離れていない至近距離では的を外す筈も無い。しかし軍曹は焦る。


(止まらねぇな・・・)


頭を撃ち抜いたであろう銃弾は数10発にも及ぶ。だが巨漢の怪物は動きを止める事なく、ゆっくりと…


しかし確実に斧が当たる範囲に歩を進めてくるのが、実物の脅威として目に見えた。予備の弾倉は1本足下に転がっている。弾がタップリ詰まっていれば30発の銃弾を使えるが、頭を撃っても死なないような怪物には心許ない。


下に降りる階段は処刑人と後ろに控える巫女さんを退ける必要があるから却下。いっその事、飛び降りての脱出もあるが、この高さでは体がもたないと心の危険信号所(?)が囁く。見物人達は?と様子を見るも、この予想外の展開にただ、ただ興奮し、助け船を出してくれる気配は無い。


どっちにしろ、前に立つ敵を倒して進むしか道は無さそうだ。軍曹は覚悟を決める。迷っている時間は無い。そのためには全ての武器を利用しなければ、文字通り全てを!空になった弾倉を差し替え、大きな声で叫ぶ。とても汚い言葉を使うであろうが、気にしている暇は無い。


「し、紳士淑女、それから可愛い子ちゃん達!ワタクシこと、このサンダー軍曹は恐らく、頭があさっての方向にぶっ飛んだ、いわゆる馬鹿野郎の申し子です!

お楽しみ幼稚園作戦を指揮したのは、もちろんこの俺!一度はふん縛られて死ぬ所でしたが、現にまだこうして生きている。


こうなったらワタクシは自身の欲望に従い、突き進もうかと思います。ご存じ、ご存じでは無い方ははじめまして!我が部隊同人では振り向かなければ、こっちを振り向かせろ!がモットーな訳でして、世界が振り向かなければ、


気づいてもらうためにどんな事でもします。無差別テロ、民族浄化、拉致監禁に人身売買!はたまた、これは身近でも起こりうる強姦や殺人、ありとあらゆる手段を持って、


存在を確立する。老いも若きも関係無く!可愛いらしいお嬢さん!男の娘!奥さん!etc、etc!方はケツの穴に栓をする事をおすすめしたい!さて、そこで皆さんに問おう!自分をこのままにしておいて良いんですかぃ?


アンタ方の家族に友人、大切な人達を誰が守る?こっちは相手の素性なんか知ったこっちゃない!犯りたいと思ったら犯る。殺りたいと思ったら殺す。こんな自由奔放な悪魔をこのままに・・・」


刹那、処刑台の床が跳ね飛ぶ。魔術師などが使う光弾の類だ。すんでの所でかわせた事が幸運だ。


それを合図に銃弾、弓矢、光線といったあらゆる攻撃が処刑台に集中して発射される。見物客のほとんどは能力者や正義の戦いを担ってきた者達、


「いつまで、その悪魔を生かしておく!」と言わんばかりの攻撃や凄まじく、堅牢に作られた処刑台をたやすく破壊していく。


その残骸が見物人に降り注ぎ、広場は逃げ惑う人の悲鳴や怒号で阿鼻叫喚のハーモニーを作り出す。この混乱を待っていた。


敵の方を見れば、巫女さんはいち早く空を飛び、難を逃れたが、巨体の覆面処刑人はそうはいかない。下に降りる階段めがけて移動を開始するも、崩れる床や血だまりに足をとられ、苦戦している様子。それを見逃す軍曹では無い。


奇声を上げながら怪物の背中に飛びつき、バランスを崩した怪物もろとも、処刑台から数十メートルの地面に落下する。


落ちる空中での数秒間!軍曹は処刑人の背中から怪物の首下に回り込み、もがき暴れる手をたくみにかわして、フル装填したAK突撃銃をその黒い頭巾に隠された頭に高々と突き立てた。腐ったリンゴにフォークを突き立てるが如く、


深々と突き刺さった銃身を確認し、躊躇する事なく、引き金を引く。30発の銃弾が怪物の体内で暴れ回るのが腕を通して伝わってくる。その振動を感じつつ、軍曹は首下に引っかかっている鎖を引っ張り、アクセサリーとなっている少女を救出していく。


言葉を交わす時間も無い。身振り手振りで彼女を誘導し、怪物の頭に捕まらせ、そして、落下!・・・地面に激突した敵の巨体がクッションの役割となった。

多少の痛みはあるものの、何とか二人は無事だ。息絶えた怪物の頭から銃を引き抜く。


黒い肉塊を取り去り、弾倉を確認する。弾は1発残っていたらしい。(さて、これを有効活用するには・・・)軍曹は状況を窺う。辺りは煙と崩れた処刑台の残骸やらで混乱する様子はあるものの、自分が生きている事はすぐに知れ渡るだろう。数百の敵に1発の弾・・・


「こうするのが一番かな?」


呟き、銃口を咥える。怪物の残骸のせいか、少し苦い味がする。一矢報いる事はできた。終わりよければ全て良し。その通りではないか?軍曹は目を閉じる。

ふいに銃口が乱暴に口から引き抜かれる。見れば、先ほどの少女が銃を持ち、首をフルフルと振る。


(命を粗末にするなって?)


ボンヤリ考える。思えばいつもそうだ。いつも敵である彼女達の優しさ、ほんの一瞬、一握りの好意に助けられてきた気がする。


「勝てねぇ訳だな・・・」


苦笑いと共に戦う意欲が沸いてくる。たったこれだけの理由で戦おうとするのは単純か?いや、それが重要なのだ。それこそが“特殊部隊同人”の存在する価値だ。煙が晴れてきた。敵の声がする・・・少女から銃を受け取る。「もう、大丈夫」との言葉も忘れずに、 AKの薬室に弾を放り込む。


「さて・・・お次は何だ?」


相手方から一発の銃声が響く。それが始まりの合図となった・・・(続) 

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