第30話 終演
すぐ近くにある署長室に入った工藤に扉を閉めながら署長が聞いた。
「どういうことですか。彼とは接触しない約束でしょう?」
「そう。そのつもりでした。しかし、僕は安藤から木下さんの秘密を聞いてしまった。今日はその確認に来たのです」
佐藤里奈の霊の存在を安藤から聞き、木下の元へ行けば彼女に会えると思って工藤は警察まで足を運んだのだった。
署長は焦った様子でなお食い下がる。
「しかし……この件が世に漏れる可能性がある以上、接触は避けてもらわないと……」
工藤は自分より年上で、署長という地位にいる人間を侮蔑にも近い目で見ながら答える。
「木下の監視役として選ばれた貴方の言いたいことはわかりますよ。安心してください。用件は済んだので、もう来ることはないでしょう。おそらく、しばらくはこの近辺での“依頼”もないと思いますしね」
署長は“依頼”と聞くと、びくっと身体を震わせる。事件の詳細も聞いているのだろう。
それを見た工藤は、侮蔑から哀れみの視線に変わる。そして、それでは僕はこれで、と言って頭を下げると、署長室から出て行った。
会議室に残された木下と、宙に浮かんでいる佐藤里奈が気まずそう顔をあわせた。
そして、どちらともなく、照れくさそうに笑いあう。
さきほどの工藤の話、安藤の殺害を事故死として隠蔽した警察上層部の闇。いまの署長の態度も怪しかった。
二十分にも満たない、少しの時間で様々な情報が一気にやってきて、混乱する木下だったが、たったひとつ、まず先に確認したいことがあった。
「……まあ、なんだ。これからもいてくれるってことかな?」
佐藤里奈が微笑みながらうなずく。
細かいこと、難しいことは、これから日下部に相談すればいい。彼ならば、解決してくれないだろうが、なにかを掴んでくれるはずだ。
「じゃあ、まあ、よろしく」
気の利いた台詞が言えない木下は精一杯の言葉で、佐藤里奈に向かって握手を求める。佐藤里奈もそれに応じる。
肉体がないので、触れ合うことはなかったが、なんとなく温かさを感じたような気がした。
殺された少女は復讐の夢をみるのか 峰岸ゆう @minegisiyu
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