第12話立派な聖職者
飛び交う大小様々な声の中、サリーは唇を尖らせつまらなそうにしていた。
ジッと目を細め視線を送るその先には、女子生徒に囲まれているゼノの姿。
「なによ、鼻の下伸ばしちゃって」
サリーは自分と同年代の女の子達に囲まれて、だらしない顔をしているゼノにご立腹のようだ。
年端もいかない子供達にニヤニヤしちゃって……
「変態神父」
「本人が聞いたら泣くわよ?」
囁くように言ったつもりだったのに反応された事に驚き振り返る。
「シスターエルナ⁈ なにしてるんです?」
「それはこちらのセリフよ? 今は授業中なのにそんなにツンケンしちゃって、なにかあったのかしら?」
さっきまでゼノ同様に生徒に囲まれていたが、サリーの態度が気になり様子を見に来たようだった。
「あー、さてはゼノが他の子に取られて嫉妬してるのね?」
意地の悪い笑みを浮かべてサリーを冷やかす。サリーもサリーで照れまくって顔を真っ赤にしている。
「ち、違います! 私はただ現状教師という役目を担っていながらあの腑抜けた顔はいかがなものかと思っただけで」
「サリーはゼノが嫌いなの? あ、もちろん男性としてよ?」
照れ隠しのつもりか、早口で捲し立てるサリーをエルナのやや鋭い質問が止める。
「それは今の話になにか関係があるのですか?」
「さぁて、どうかしらね。それで、どうなの? 好き? 嫌い?」
サリーの質問はいつもの如く受け流され、エルナは少女のように目を輝かせ迫っていく。
そして、気がつけばいく人かの女子生徒がサリーの机を囲みエルナと同じく目を輝かせていた。
若干の距離を取り、ちらほらと聞き耳を立てている男子もいる。
あら〜、さすがはサリーだわね。やっぱりモテるのね。
いつかは、家に男の子を連れてくる日が来るのかしら。その時はゼノが大泣きしそうだけど。
なんて事を思い、1人微笑ましくその様子を見ていると、同級生女子からの質問攻めに観念したサリーが耳たぶまで赤くしながら質問に答え始めた。
「た、確かに神父ゼノはとても整った顔立ちですし、生活感も申し分なく男性としては確かに魅力的なのですが……」
「ですが?」
言葉を濁そうとするサリーを更に問い詰めるエルナを始めとした女子達。
「……私はどちらかというと、もう少し野性味があるというか、その、豪胆な男性の方が魅力を感じるというか」
「か……可愛いわ! なにこの子天使なのかしら!」
修道服の裾をぎゅっと握りしめ、モジモジしながら自分の好みを吐露したサリーに至上の愛らしさを感じたエルナはサリーにしがみつき、激しめな頬擦りをしている。
他の女子達もサリーの可愛い挙動に早くも母性本能をくずくられているようであった。
残念ながらゼノには会話が聞こえていたようで、涙目になりながら他の子の相手をしていた。
────時は流れ、時刻は12時を少し回ったところ。お待ちかねの昼食タイムである。
昼食は教室だけでなく中庭なんかも開放されるため教室に残る生徒はほとんどいなかった。
サリー達も、中庭の手頃な木の下でゼノ特製の贅沢なお弁当を食していた。
「これで後は午後の授業を残すのみですね」
「そうね、午後からは私達もお役御免だしようやく落ち着いてサリーを見られるわね」
午後にあと2時間分の授業を行い本日は下校となる。
そして、午後からはファリスによって授業が進行するようなのでゼノとエルナはようやく臨時講師の任を終えられたのだった。
「サリー? どうしたの、元気ないわね」
「……もしかして、ご飯あまり美味しくない?」
昼食が始まってからあまり口を開かなくなったサリーを2人は心配する。授業はもちろん集中していたが、時折笑顔も
だが、午後の話をしだした辺りからサリーのテンションが見るからに落ちていた。
「いえ、決してそんな事はありません。とても美味しいですよ」
「では、なにか悩み事があるのかな?」
ゼノの言葉を否定しつつ、それでもどこか影を落とすサリー。
「はい。……実は、午後の授業は聖属性魔法の実技と人心読解の授業なのですが、私はどちらもあまり得意ではないのでお2人に恥をかかせるのではないかと……」
サリーの心配は自分ではなく、ゼノとエルナに対するものだった。午後の授業は、よりにもよってサリーの苦手な授業内容だったのだ。
聖属性魔法は読んで字の如く聖なる魔法。詠唱を通して神に祈りを捧げ、力を借り受けて使用する。回復魔法をメインとした支援系の属性魔法である。
サリーの年では、まだ初級の回復魔法しか行われないはずなのだが、他人のケガや命に責任を持つと考えると集中力が乱れてしまうらしい。
サリーの生真面目さが少し
人心読解については魔法の授業ではなく、相談を受けた時などに必要になる技術である。
エルナはもちろん、ゼノもよく街の人達からの相談を受けている。
中には人見知りだったり、心に傷を負っていたりして上手く話せず、遠回しな言い方しかできない人もいるのだ。
そんな人達にも寄り添い、少しでも苦悩から解放できるように。と、いうコンセプトの授業である。
サリーはこれが大の苦手で、シンプルに真意が見えてこないらしい。
「あら、そんな事を悩んでいたの?」
サリーの苦悩を一蹴するエルナの発言。ゼノも平然とご飯を食べている。この人達も実は人心読解が苦手なのではなかろうか、この時サリーは思った。
「人には向き不向きがあるもの。それに聖属性魔法に関して言えば、あなたは魔法式構築も魔導理論も十分な理解があったわ。あとは、心の問題ね」
サリーは驚いた。本当にちゃんと見ていてくれたのだと。そしてなにより、エルナがめちゃくちゃ真面目な事を言っている事に目を丸くする。
「サリー、自分に優しくなりなさい。あなたなら大丈夫よ。シスターエルナのなにおいて保証しましょう」
「僕も君なら大丈夫だと確信しているよ」
ニッコリと、包み込むかのような笑顔を向けてエルナはサリーの苦悩を緩和した。
ゼノもまたサリーの背中をそっと後押しをしてくれた。決して重圧にならぬよう、表情と声音に注意を払って。
サリーは思う。
やはり、この2人はかなり有能な聖職者なのであると。
こうして、まだ完璧とは言えないが、心のモヤを晴らしてサリーは午後の授業に臨む。
そこの教会危険ですのでご注意を! ハマネコ @4hamaneko_pj2
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