第11話いざ、授業参観へ

「おはよー、サリーちゃん! ……なんか疲れてる?」


 教室の机に突っ伏しているサリーに話しかける同級生の女の子。同い年の子に察せられるほどにサリーの雰囲気は落ち込んでいた。


「おはよう、イリスちゃん。そうね、とても疲れてる」

「なにかあったの? サリーちゃんが疲れてるなんて珍しい」

「うん、大した事じゃないんどけど……今日って参観日でしょ」


 その一言でイリスは納得したようで、あー、と相槌をうつ。


「シスターエルナ様と神父ゼノ様が張り切ってる感じ?」

「めちゃくちゃね」


 サリーの返事にケタケタと笑い目を爛々とさせるイリス。どうやらサリーに親がいない事と親代わりがエルナとゼノであることは周知されているらしい。


 現在、保護者と学院生は別行動で学院生は各々の教室にいつも通り行き、保護者は別室にて授業が始まるまで待機しているようだ。


「でも私はサリーちゃんが羨ましいなー。だって本物でしかも超有名人のシスターエルナ様の仕事を間近で見学できるんでしょ?」

「まぁ、そうなんだけど」


 言えない。シスターエルナは皆んなが憧れるような高潔なシスターじゃないんだよ、なんて口が裂けても言えない。


 サリーの心の声はとても素直であった。


 キーンコーンカーンコーン

 授業の予鈴が鳴りいよいよ授業参観が本格的に始ろうとしていた。

 サリーを始め、その他の生徒達にもいつもと違う緊張が走る。


 そして扉が開く音がして前の扉からは先生が、後ろの扉からは保護者達が続々と入室してくる。

 やはり皆んな気になるのか、ちらちらと後ろに視線を送っている。

 サリーも例に漏れずチラリと後ろを確認してみたものの、一向にゼノとエルナが入って来ない。最後の保護者の入室も終え、扉が閉められたが最後まで2人の姿はなかった。


 サリーは少し俯く。


 やっぱりお仕事は休めなかったのかな……


 昨日は2人を来させないようにしていたものの、本心を言えば嬉しかったのだ。親のいない自分だが、2人が来てくれる事に安心と喜びを感じていた。

 だが、いざ当日になると一抹の不安がサリーの心に影を落とした。

 本当に仕事をお休みできたのだろうか、実は登校だけ一緒で授業は見ずに帰ってしまうのではないか。

 そして、不安が的中してしまったと思ったサリーは自分が思った以上に落胆した。


「はい、皆さん。授業を始めますよー!」


 そんなサリーの気持ちとは関係なく手を叩き授業を始めようとする教師。

 仕方ないと割り切りサリーは授業に集中する事にした。


「その前に、本日は特別講師の方達に来ていただいています。サリー、あなたのよく知る2人よ」


 教師であるシスターファリスにウインクされサリーは目を丸くする。


 私のよく知る人物? え、もしかして……


「それでは入ってきて下さーい」


 ファリスに促され入ってきたのはサリーの予想通り、エルナとゼノだった。


「本日の特別講師のシスターエルナ先生と神父ゼノ先生です!」


 突然の紹介と2人の姿に教室内の生徒達は騒然とする。2人のネームバリューを考えれば打倒なところだ。


 先程までのサリーの憂いを嘲笑うかのようにエルナが小さくサリーに手を振り、隣のゼノも優しい微笑みを向けている。


「ちょ、なんで居るんです⁈ 帰ったのではなかったのですか⁈」

「ん? そんなわけないじゃない、今日は1番近くで学院での貴女をしっかりと目に焼き付けるわ! 普段とは違う可愛らしい一面が見れると信じて!」


 その堂々とした親バカ発言に恥ずかしさと嬉しさで顔が真っ赤に染まり、クラスからは笑いがおきる。


「さっき別室で待機してる時に僕たちも知っている先生に会ってね、未来を担う子供たちの為にとお願いされたんだ」


 やや混乱気味のサリーにゼノが軽く説明をする。かくいうゼノの手には小さなメモ帳とペンが握られリアルタイムで制服姿のサリーをスケッチしていた。


「やめて下さい!」


 器用すぎるでしょ! 帰ったら神父ゼノのスケッチは全て焼却処分決定ね。


 すこぶる残念そうな表情のゼノに冷たい視線を送るサリー。ゼノは渋々とメモ帳を内ポケットにしまい授業を始めるようファリスに促した。


「それでは授業を始めますよー! まぁ、今日はせっかくの特別講師が居ますので今日の授業は2人を中心に回してもらう事にしましょう!」


 急なファリスの発言にゼノはキョドるが、エルナはいたって落ち着いていた。


「それではせっかくの機会ですので最初の授業はゼノと私への質問の時間にしましょう」


 この言葉を合図にクラスの騒々しさがこの日のピークを迎える。



 

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