急・ありがとう

「ありがとう、お兄サマ。お気持ちはうれしいのですが……」


「千載一遇のチャンスをみすみす水泡と帰すのですか?」



 自分はいずれ、スクラップになる予定です。そんな自分に使えるわけがないじゃないですか。選択の余地はないではないですか。



「このユニコーンの角があれば、オリジナルは目醒めることができるのでは?」


「オマエはそうしたいというのですか?」


「それを聞くのは卑怯です……いえ、ごめんなさい」



 今更、もっと生きていたいなんて、言えるわけがないじゃないですか――。


 流されてしまいたいのはやまやまですが、そういうわけにいきません。



「ありがとう、お兄サマ」



 この決定は、自分にしかできないこと。自分だけがオリジナルにしてあげられること。


 もう、自分は死ぬ覚悟を決めていました。


 自分は、オリジナルと同様に、背中まである髪を切りました。



 涙も出てきません。しょせん自分はコピーにすぎないのです。


 しかし、それでは自分の人生は何だったのか? たった一回の人生をこんなことで終わらせていいのでしょうか?


 たった一回? いえ、リオ・S・Kにとっての二度目の人生が自分でした。そしてまた、いらないからといって終わらせられようとしています。



 お兄サマは、自分の今は、自分のためにつかって欲しいと、言ってくれたけれど――。


 自分は、深い悩みに、おちいってしまいました。



「好きなときに、外に出られないのはつらいでしょうに」



 その心配はいらないのです。オリジナルが眠っていた場所へ、今度は自分が入るだけなのですから。



「毎日、会いにくるよ――」



 ふふ。オリジナルにしたみたいにですか?



「自分はコピー。必要があれば、どうか、いつでも呼んでください」



 お兄サマはふり返らなかった。自分をご覧になるのが、おつらかったのだろうと思います。



「オマエのもって生まれた、諸権利を、きっととりもどしてあげます」


「ずっと、考えていました。オリジナルのコピーでしかない、自分。でも自分は自分です。お兄サマに逢って、一緒にたくさんの時を過ごして、しあわせだったから、わからなくなってしまったのです」



 自分が、何者なのかを。



「必ず、オマエの人生を認めさせてやるぞ。必ず!」



 だめです。意識が遠のいて……きました。


 自分はこれから眠るのです。


 植物か標本のように、培養液の満たされたカプセルの中で。



 だからもう……だからもう、こんなことは考えなくてすみます。



 ――自分は、ダレ?





 END






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ユニコーンの角 れなれな(水木レナ) @rena-rena

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