第28話-旅路-
リフトが動き出し、俺達はナラクへの帰還を遂げた。一日と離れていなかった筈なのに、久しく感じる。
「やぁハーミット、お待たせ」
降り口には、ハーミットさんが腕を組んで待っていた。
「準備は整ってるぞ、いつでも出れる。で? どうやって帰って来た?」
「いつも通りだよ」
「ゲートはどうした?」
「キングの兄貴がこじ開けたっす」
「こじ開けた!? フッ、相変わらず馬鹿な真似を」
「あんたらやっと戻ったのかい。ん? キングはどうしたんだい」
俺達がハーミットさんと話していると、リズさんがネストから出てきた。普段通りの物言いに反して、頭には血の滲んだ包帯が巻かれている。
「リ、リズさん!? その頭どうしたのよ!」
「これくらい何ともないよ。ブランクってのは怖いねぇ」
「最初にカチこんで来た小隊をノシた時に、一発貰っちまったみたいでな。怪我自体は大したもんじゃねぇんだが」
「だから大袈裟だって言ったんだアタシは」
「命に関わらなくて良かったです」
「他に負傷者はいるのかい?」
「こっち側にはいねぇがな……」
ハーミットさんはリズさんに目配せをしたが、すかさずリズさんは目を逸らした。
「どういうこと?」
「それが、例の小隊が誰かさんのせいでボコボコでな」
「い、いやぁ……ブランクってのはホント怖いよ、うん」
「ハハハ、流石はリズさんだね。それじゃあ、とっとと逃げようか」
「ああ、そうだな。トラックを動かすとするか」
「あ、ちょっと待ってハーミット。因みにその小隊さん達はどこに?」
「ん? ああ、縛り上げて食堂にぶち込んでいたぞ」
「そうかいそうかい」
「小隊の人なんてどうするんですか?」
「私に良い考えがあるんだよ」
「良い考え、ですか?」
そしてナラクの人々が乗る、三台のトラックと機体用のトレーラーを乗せてリフトは動き始めた。俺とレンジ、ハングは武器を持ったままトレーラーに吊るされ、もしもに備える。ジャックさんは運転をするから機体だけを吊るしている状態だ。
「さぁ皆んな、アクセル全開でずらかるとしよう!」
リフトが倉庫に着いたと同時に、四台の車両が唸りを上げた。ゲート前の直線に出ると、後方から拡声器の音が聞こえる。
「お前ら! 止まれ!! さもなくば射撃する!!」
声から察するに、どうやら先ほど倉庫前で無力化した機体の搭乗者のようだ。しかし、俺達が止まるはずもなく、トラックは徐々に速度を上げた。
「構えぇぇえ!! ん? ちょっと待て、アイツら!」
そして弾が放たれることは無かった。それもその筈だ。ジャックさんの考えで、各車両の後ろにはリズさんが倒した隊員を盾にしてあるのだ。
「キング! 飛び乗るんだ!」
「おう! やっと来たか」
難なくキングさんを回収し、俺達はゲートを潜った。と、同時に盾にしていた隊員達をトラックから蹴り落とした。
「地下都市もチョロいもんだな。全員無事なんだろ?」
「ああ、作戦成功だよ」
「作戦ってほどのもんじゃなかったと思うわよ」
「細かいこと言うなよ、ね? 兄貴方」
「でも、これからどうするんですか?」
ナラク全員で逃げれたと言っても、この先のアテなんて何処にもない。ましてや地下都市でエイクァを製造していたのを考えると、追われる可能性だって低くはない筈だ。
「そうだねぇ。こういうのは先人を訪ねるのが一番じゃないかな?」
「先人っすか?」
「なるほど、ドクター達ね」
「そいつは丁度良い。白いのには借りがあるからな」
「シラクチ、ですね」
「今度は負けねぇっすよ!」
「連絡してみよう。この辺りなら通じるだろうし」
無線機を取り出したジャックさんは、ドクターをコールした。連絡はすぐにつき、俺達は再び例の廃校を訪ねることとなった。
「おやおや、これはまた大所帯だね」
廃校に着くと、ドクター達が出迎えに校舎を出て来ていた。
「やぁお久し振り、ドクター。ちょっと色々あってね」
「シラクチを狩りに来たって訳じゃなさそうだ」
「ああ、地下都市を追い出されちまってな」
「じゃあ僕らと同じ地上人になるってことか」
「そうなるね。それでどこかひっそり暮らせる場所は無いものかな?」
「んー、そうだねぇ……西に向かうのが良いだろう。幾らか人も暮らしている。上手くいけば力になってくれるかもしれないよ」
「西ってどれくらい進むんですか?」
「ざっと四百キロくらいかな。地下街を補修して暮らしている商人達や、島で漁をしている人達が居るみたいだよ」
「色んな人がいるんすね。なんか楽しみっすね!」
「上手く行けばいいけど、色眼鏡で見られる可能性も低くないわよね」
「そうだね。でも皆んなが居れば何とかるよ」
「まぁ、そうね。最悪私達だけでも生きてはいけそうだし」
「それはそうとよ。シラクチはまだ居んのか?」
「いるよー? また挑むつもり?」
「当たり前だ。手酷くやられたまんま引き下がれるかよ」
「なら僕も連れて行きなよ。手を貸すよ」
「ジャック、西に行くなら私達も同行しよう」
「ドクター、気持ちは嬉しいけど危険だよ。地下都市から追手がこないとは限らないからね」
「どこに居たって地上は危険だよ。常にね。それに君達がシラクチを倒すならここに居座る理由もなくなる」
「そこまで言うなら私達は構わないけど、良いんだね?」
「ああ、君達と居た方が面白いものが見られそうだ」
「それじゃあ、歓迎するよ。ようこそナラクへ」
「こちらも歓迎しよう。ようこそ、地上へ」
こうして俺達の、変わり行く時代の渦中へと身を投じた物語は区切りを迎えた。この先、俺達が知り、抗い、戦い、紡ぐことになる物語は、きっと誰も知ることはないだろう。史実にも記録にも残らない。だから生きた証を残そう。それを見つけられるのは恐らく、強い意志を持った次の世代の人達だ。願わくばそれが俺達のような人であって欲しいと思う。
Under Of World ZERO 松吉 @matu_
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